雪山縦断ウルトラダッシュ(前篇)
絶対最強になりたいか?罰ゲームは怖くないですか?
マッピンクスキルを起動すると視界の左上に現在地を中心に5Mくらいの小さなマップが展開される。
数歩歩いて見ると先ほどの位置の情報を持ったまま中心点が動く。これは便利だな。特にSPの消費もないので常時起動させておく。
「僕が先行する。雪の中は歩きづらいと思うけど僕の飛行スキルもレベル1だから速度は出ないし結果的のはほとんど一緒になると思う。マップを見ながら修正しつつまっすぐに進むようにするから目印にしてほしい。」
「わかった。ただ、外の吹雪で飛行不可ってことになったらどうするのかは先に話しておくべきだと思う。もしくは不測の事態…例えば君はHPが一撃で半分以下になるまで削ってくるウサギがいるといっていたな。1匹なら何とでもなると思うけど群れで襲ってきたりはしないのかい?」
「僕は今まで何時間か外を歩いてきたけど、見たのは一匹でいるウサギを一回だけだ。でも『もしも』で言うならウサギは偶々今まで会わなかっただけで複数の群れでいる可能性があるし、それよりも強い魔物がいる可能性だってある。その場合はちょっと勝てる気はしないかな。逃げられそうなら逃げた方がいいと思う。飛行不可時…はそのまま歩行に切り替えよう。ここに戻ってくるのは無し。戻るとしたらどちらかが死に戻りしたときだけにしよう。」
大体の方針を定めるつもりで提案したのだがカンナは首を振り
「それはいやだ。」
と強めに拒否された。
「私は自分よりも強いものと戦うためにここに居るんだから勝てないから逃げるのは無しにしたい。最悪見捨ててもらってもかまわない。自分でも馬鹿なことを言ってるのはわかってるんだけど、ここは譲りたくないんだ。そうじゃなきゃここに来た意味がないんだ。」
ちょっと考える。この馬鹿と一緒に行動する意味は?
「…例えば、ここにボスがいるとする。ボス分かる?エリアで一番強い敵。俺たちが二人で束になっても勝てない敵。めっちゃ硬くて、攻撃力がゴリゴリにあって、目で追えないくらい早い。OK?どうする?」
「当然戦う。勝てないは理由にならない。何度でも、何度でも、殴って、蹴って、捻じって、投げて、斬って、刺して、撃って。本当に勝てない敵ならば本当に都合がいい。相手に0.1秒喰らいつけば私は0.1秒前より強くなってる。」
頭を振る。考え方が違いすぎる。思考ルーチンが違いすぎる。
「でも、スタートとゴールがおんなじなんだよぁ。」
「ごめん聞き取れなかった。」
「いいよ。了解した。君の願いをかなえよう。フレームでボスの行動をパターン化して覚える。覚えたら装備整えて、仲間を募って、勝てるまでやる。僕たちと同じだ。」
「…いいの?」
「一つだけ聞かせてくれたらな。それを僕を相手にやらなかったのは?弱すぎて足元見られちゃった?」
「…それは。」
「それは、私とは全く考え方が違ったから。アンタは力がなくて、やり方を選ばなくて、容赦がない。確かに弱くて、技術がなくて、卑怯だと思った。でも、アンタは多分知ってるんだろう?最強に至るプロセス。一回でも何かを極めた人間にしか出来ない目だよ。『最終的に打倒できない奴がこの世に存在しない』ってことを分かってる目。だから全部を武器にして戦える。イメージがあるから。私を2回も殺せたのも、そうでしょう?この世界で私は最強になったアンタと戦いたい。今のあんたじゃない。」
二人で笑いあう。腹の中で殺したいほどの感情がうねるが今の僕にはいい薬だ。危ない所で逸材を逃すところだった。
「僕がいずれ仲間と合流してギルドを作って、材料が全部そろったら君に見せたいものがあるんだ。」
「今聞いてもいいもの?」
「最高の敗北。こいつには何をやっても勝てない。そんな絶望的で裸足で逃げだしちゃうような未来を君にあげる。」
「ありがとう。今すぐ食べちゃいたいくらいだぜ。」
方針は決まった。どうやらゆるーくゲームを楽しませてはくれないみたいだ。
次回、雪山脱出にジャストミート!
感想、評価お待ちしています。
 




