カンナちゃん考える
2016/09/11更新しました。
とりあえずナイフを突きつけるのは止めて欲しい…
2回目の僕の勝利宣言の後、速やかに帰還したカンナちゃんにより洞窟は制圧された。もちろん僕だって抵抗位したさ。足元にロープ張ってみたり、『彼岸花』を生成してみたりね。
そんな感じで、細やかに抵抗を試みたが普通に負けた。しかも死なないように手加減された。
「魔法ってのも最初は驚いたけどさ。」
獣少女は語る。
「そういう一つの戦闘形態…つまりただの武器だって考えたら思ったほどは怖くないな。要するに刀でもあり、矢でもあり、銃でもあり、火炎放射器であり、投げナイフでもあるってことだろ?だったらさ対策しちゃえばいい。あんたの魔法は」
そういって床に転がってる僕に獰猛な笑みを向けた。
「炎の生成だ。ガソリンぶちまけるのと火をつけるのを同時にやってるだけ。ただそれだけ。それが床に広がらないで一定箇所にとどまるんだよな。それが空間でもね。『場合によったら』その塊の移動もできるのかな?そうなるとまた対策は変わるけど…まぁ今のあんたは看過した。」
ふーむ。脳筋っぽい格闘家かと思ったら普通に賢いな。しかも『知らない技術』を『知ってる技術』に置き換えたな。僕たちゲーマーとは違う。僕らにとって魔法は魔法。
魔法って言われたら、そういうもんだって納得しちゃうような、ありのままを受け入れる僕たちとは違う、現実的な即応力。もう今の手札じゃ多分この子には勝てない。
「降参だよ。負けた負けた。さぁ殺せ!」
「いや殺さないよ。なんなんだあんたは。死にたがりか。私は格闘家だけど殺し屋じゃない。必要がなければ同じ相手を2回も殺したりしないんだ。」
一度は殺すのか。恐ろしいなこの娘。
「あ、そういえば自己紹介してなかったね。僕の名前はリコリス。忍者です。」
「なんで平然と嘘をつくんだ。あんたの動きはどっからどう見ても忍者の動きじゃない。忍者は戦ったことがあるからわかる。」
戦ったことがあるのかよ。しかもこの子から嘘をついている気負った感じが全くない。本気なのか。マジなのか。
「嘘をつきました。僕の名前はリコリス。どこにでもいる高校生です。」
「どこにでもいる高校生は人に下剤を盛ってナイフで切り掛かったり、会話の最中に相手に炎を浴びせたりしない。どこの高校だ。乗り込んで絞めてやろうか。」
こっわ!レディースか?暴走族のなんとかなのか?
「まぁいい。私は…えっとこういう時はゲームのキャラの名前を名乗るんだよな。私はカンナ。この間、首相官邸を襲撃して今自宅に軟禁されてる、ただの花の女子高生さ。」
「あああああああ!ニュースで見た!ニュースで見たよそれ!なんとかカンナって本名かよ!ぎゃああお巡りさぁん!軟禁されてるはずの危険人物に監禁されていまぁす!ナイフ突きつけられていまぁす!」
思わず狼狽して叫ぶ。だって普通に怖いんだもの!
「うるさい。次叫んだら殺す。ゲームでも殺すし、現実でも殺す。」
「普通にできそう!怖い!あ、叫んでないですよ。大丈夫です。だから殺さないでください。あ、靴とか舐めましょうか?」
「あんたは卑屈か、嘘つきな慇懃無礼かどっちかしかキャラないのか。ブレ幅が怖いよ…。」
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「カンナ視点」
だがまぁ調度良い。カンナはそうつぶやいた。このくらいキャラに一貫性がない人間の方が人間的に面白い。コイツは私と同じでこのゲームを始めたばかりで手札が少ないのだ。つまり本気じゃない。実力を出し切っていないのだ。
きっとこいつは序盤じゃなくて時間を掛けてから、『成長してから』の方が強くなるタイプだ。手札を増やして体を鍛えさせて…そう考えると、もうカンナは笑みを隠し切れなかった。私を2度も殺した相手がここからガンガン強くなる?それはきっと私の強さにも影響を及ぼすだろう。
「とりあえず、今のあんたを私と対等として認めるよ。出来ればこのゲーム内で、台頭して予想をぶっちぎってくれたら最高なんだけど。とりあえず協力関係ってことでどうだい?いわゆるバディだ。」
私と同等に強くて、しかも殺すほど本気を出しても目減りしない。出会いを提供してくれた首相には感謝してもしきれなかった。こいつは私の最高の好敵手になってくれる気がする。そのうちに挨拶しに行こうか。菓子折りでも持って、真っ向からさ。
「まぁ、ゲームの始まりだ!ってことでひとつ。」
拳を交えた相手とは、好敵手と書いてライバルと読む、熱い展開の待っている筈が、何故か取って食われそうな哀れな主人公…驚くべき自業自得感。わがキャラながら涙を禁じえません。
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