獣少女カンナちゃんの歓心
2016/08/22更新しました。
「ヘッドマウントディスプレイ」
この妙なフルフェイスヘルメットの形をした装置をそう呼ぶらしい。私とて最初期の目の周りを覆うような型のものは、やった事がある。思ったよりもちゃちでガッカリして以来、この手の物に触るのは初めてだ。時代ってのは進歩するものだなぁ。
でだ。詳しい理屈は説明書を斜め読みした限りでは良く分からなかったが、結構安全性に配慮していて、いきなり電源ぶった切っても現実世界に戻れなくてデスゲーム開始!とかにはならんらしい。ふうん。最近の科学凄い。
ということで、物は試しで早速ゲームを起動してみることにした。ちなみに個人情報も、ネットマネーも、コミコミで暗号化ばっちりの素敵なカードが昨年お目見えしてからインターネット上での詐欺の類はほとんどなくなったらしい。悪い事したら身バレが即行われるうえに、このカードなしでは利用できないサービスも多い現代社会の必需品。なお、私は高校生だがそこそこ小金持ちなのでカードの色は黒だ。
ゲームの開始を行うと同時に飛行機が上昇するようなふわっとした感覚に襲われ、顔を顰めるとそこは別世界だった。宇宙空間。そうとしか表現できない所にぽっかりと一つだけデスクがあり、そこに老紳士風の男性がにこにこと笑いながらこちらに手招きをしている。「歩こう」そう思うと、すっと体が動き前に進んだ。ふぅん。現実とはかくも遠くなりにけり。過ぎたる科学は魔法と変わらない。ね、なるほどその通りだ。違和感が全くない。
『ようこそ!VRMMO[エンデバーエンドワンス]の世界へ!』
老紳士が嬉しそうに話しかけてくる。うん。ナイスミドルだ。
『貴方が今回の登録者の方ですね?』
そうだよ。ええと、登録とかするのかい?それともチュートリアルかな?
『えぇそうです。ですが、パスワードを始めとする設定類はお手持ちのカードから既に済んでおります。』
ふうん。便利なもんだ。じゃあ何が聞きたい?気分がいいから今なら結構何でも答えちゃうかもよ?
『それでは、本名は結構です。ゲーム内でのお名前だけお伺いしても?』
名前?そうだな。私は親につけられた名前を結構気に入っていてな。ここでもそう名乗らせてもらおう。私の名前はカンナだ。
『《カンナ》様ですね。とても良い名前ですね。』
ありがとう。
『貴方は街中からのスタートか、割合過酷な自然環境でのスタートをお選び頂けます。自然環境というのがどの程度の物になるのかは完全にランダムです。』
じゃあ、自然の中から始めちゃおうかな。私ってば都会っ子だからね。修行って言ったら山の中でしょ。
『あぁ、自然環境からのをお選びいただくと幾つかのボーナスと自由が手に入ります。全ては自己責任ですが。』
ボーナスねぇ。くれるんなら貰っとくけどさ。ちなみに町からのスタートってどんな感じなの?
『街ですか?それはそれは素晴らしい世界です。魔物の危険はなく仕事をただこなすことで一日の衣食住が確保されます。』
つまんねーとは言わないけどね。ゲームでくらいはぶっ飛んだことしたいからなー。あ、まぁ私は私生活もなかなか刺激的なんだけどね。
『そうですか。自然を選びましたか。では、説明はありません。』
『wiki非推奨、剣と科学と魔法の世界へようこそ!改めて我らエンデバーエンドワンスが貴方を歓迎致します!』
…正直言って驚いた。思っていたよりも圧倒的にリアルだった。ゲームなんてほとんどしたことがなかった私は目の前の質感に感動すら覚えたくらいだ。カッチョイイおっさんが、宇宙空間で両手を広げて私を歓迎してる。なんだこれ、ちょっと面白い。うんうん。ここになら私が欲しかったものがあるのかもしれない。
所詮ゲームなんて言わないでもっと関心を持ってもよかったなー。
そんなことを思いながら目の前の執事服の話を、私には珍しく静かに聞いていた。周りはキラキラしててちょっと綺麗だった。私だって女の子なので綺麗なものは好きだ。
あと、周囲には脳筋だと思われがちだけど、私だって話くらいは聞く。特に情報の大事さについては嫌って程に理解している。
情報がなければ全く戦えないといってもいい。全くは言い過ぎた。戦いながらでも情報は得られるし。でも、所詮女子高生の身には筋肉はそんなに多く身につかないのだ。
そして前述の通りに、私は洞窟に辿り着いた。周りには何もない。生き物の気配もなかった。いや、ちょっと苔が超光ってる。すごい綺麗だ。
こう見えても女の子なので綺麗なものはひそかに収集する癖がある。一番大きな奥の部屋に周囲の苔を植えなおしてみたが結構いい感じになった。うれしい。
そうこうしていたら生き物の気配を感じた。結構強そうだなー。と思って一番奥の部屋で座って待った。獣なら手元に会ったナイフで切る。人なら…どうしようか切ろうか。ちょっと話をしてから切ろうか。
そうおもっていたら黒い毛皮に覆われた、そこそこでかい生き物が現れた。
…熊だ!
さすがの私も熊は切ったことがない!喜び勇んで頸動脈にナイフを立てたら普通に死んでしまった。ってえーっと…熊弱くない?私はちょっとがっかりした。
しげしげと遺体を見るとどうも人間だった。うわー私殺人者だー。ちょっとテンションが下がるー。って言ってたら死体がすっと消えてしまった。
どっかでファンファーレが鳴ってレベルとやらが上がったらしい。レベル上がったとか言われても困る…。事前の情報がないとさっぱりわからない。噂で聞いていたチュートリアルとやらも全くなかった。
街ならあったのかな…ちょっと寂しい気持ちになって座り込んだ。お尻が冷たかったが苔が幾分か寒さを和らげてくれた。
回想もうちょっと続きます。これ書いてて、作者的には主人公パートよりもカンナちゃんのほうが楽しい!納得いかない!
次話、白銀の雪山と黒い悪魔襲来!
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