武器庫
「ふぅん。この村がこんな裾野にある事。裾野にあるには村の入り口は雪山に向かってある事。うん。理解したよ。ただ、僕達の方から救援を申し出るのではなく、そちらから助けを求めてきた以上、なにか考えがおありですかワンダントさん。」
「無論じゃ。今に隣村から帰ってくるワシの息子は、なにもガキの使いで行ったわけではない。隣村もまた、うちと同じコボルトの故郷を追われた戦士の部族。それがこの村を含めて合計5つ。1000もの戦士の力を束ねる事が出来る。まぁ上手く行けばの。」
千だと。一介のモンスターでも千体集まればおおよそ対応が難しい。一歩間違えれば、いや間違えなくても蹂躙されるのが関の山だ。それが意思を持った鍛え上げられた千の戦士団。プレイヤーには及ばなくてもそれに類するコボルト族である。それは一緒に旅をしてきたロッサ君が物語っている。彼が順当に成長すれば間違いなく恐るべき戦力となる。
「上手く行くのですか?それに1000人もの異種族を束ねる器は僕達にはありませんよ。期待していただいても申し訳ありませんが僕達もまた一人の人間に過ぎませんから。」
「リコリスさんはご謙遜が上手い。あなた方はそのスキルにより1人で我々100人と渡り合えるだけの戦いができるのに。我々NPCと呼ばれる土着の生命体にはよほどの珍しい場合を除き、生まれた時に一人に一つのスキルを授かるだけでそれ以後にスキルを得ることは出来ません。ですからスキルを組み合わせるということ自体が不可能なのです。ですが、個人の戦士としての資質や戦士としての覚悟は違いますな。かつて、料理系のスキルを持って生まれたが、自分の肉体と努力によってトップクラスのコボルトになった戦士長の伝説もありますな。」
それが本当ならば大したものだ。カンナちゃんみたいな例外中の例外を除けば僕たちはスキルシステムの恩恵によってなんとかこの世界に存在している。それは僕が一番初めにこの世界に来た時に為す術なく単純な寒さに打ちのめされたことでも実証されている。スキルシステムとステータスシステムによる補正が無ければ僕たちは生身の人間と変わらない。
「まぁ、努力で才能の壁を打ち破る話は、どの世界にもあるものですよね。特に強くなればなるほど伝説が付随する。」
「そうですな。」
嬉しそうに、ワンダント氏は膝を叩いた。
「そして、勇名には事欠きません。なんと言っても我らには、ほれ、爪と牙がありますからな。」
どちらも人間よりも遙かに高い攻撃力を持つ武器である。だがしかし、この部屋にある武器は手に握る物。特に刀剣の類いが多くコボルト用には見えない。
「あぁ、我々はこの体長の低さとその割に強い筋肉を武器に戦いますが、時にはリーチを求める事もありますからね。両手を使えば片手剣程度でしたら人間と同様に扱えると自負しておりますな。もちろん協力して下さるリコリス様方もこちらで装備を更新して行かれるとよろしいでしょう。どれもこれも、それなりに良い物があると自信があります。」
この場にある武器が一斉にぎらついた気がした。それはカンテラに照らされた炎の返しかも分からないし、この場に居合わせた僕と夕立の欲望でそう映ったのかもしれない。それほどに魅力的な宝物庫であった。