忍者のクエスト
「というクエスト」
「受けるでござるか?受けないでござるか?」
という忍者の問いに直ぐに答えられなかったのは、僕が運営に呼び出され、質疑応答を受けていた時のにプレイヤーの知るべきで無い情報を入手してしまっているからだった。最初に言っておくのは僕は知らないでいる選択肢もあったのだ。質問にだけ答え、非協力的な態度を取れば直ぐにでも開放されていただろう。空白の数日間など本当は無かった。あったのは自分の意思でゲームから離れ、ゲームシステムに介入した「ゲーマーとしてはあってはならない」日々だった。
運営からの依頼で、決壊寸前のスキルシステムに手を加え圧倒的自由度から来る無理やバグを一つずつ解消していった。僕が協力を求められたのはスキルシステムに関してだけだったが、スキルとは世界の理。僕もまたこの『エンデバーエンドワンス』の世界の理の一部を知ることとなった。
その一つがクエストシステムの不在である。
というと、ゲームという概念から離れてしまう様に思えるが、なんと言うことは無い。NPCのAIにすら、ある程度の遊びを持たせているこの世界では、クエストなんて片意地の張った物を運営側が用意する必要は無く、AIたちの自立思考により困ったことは仕事の依頼として「他のAI」やプレイヤーに流されることになる。そういうシステムなのだ。これは運営側の圧倒的な人手不足を補う画期的なシステムだと僕は賞賛したが、運営側はそうは思っていないようだ。あくまでも苦肉の策ということらしい。
だから忍者の言葉はシステムを知らないが故の嘘と言うことになる。わざわざ地下室まで人のことを呼び出しておいてだ。その意図がつかめなかった。おそらくその前の現状自体は存在するのだろう。だがしかし、クエストではあり得ない。
「そのクエストを受ける前に、一つ質問があるんだ。そのクエストは、ワンダント氏の発注かい?それとも、コボルト族全体からの依頼?」
そう聞くと、夕立は嬉しそうに笑った。
「いまのような訊き方をすると言うことは、主殿もAIの自由度については理解しておられるのだな。うむうむ。そう、いかにも。現状を鑑みた上でのワンダント殿からの協力要請があった。それをクエストという形にしたのは拙者です。主殿の性格であれば、状況のみを見れば断りようが無いと思われたので、分かり易くクエストという言葉を使わせていただいたでござる。要らぬ世話でござったか?」
ふむ、特に疑う余地がないな…。夕立に対する若干の警戒が解けないが、僕の勘ぐりが過ぎたようだ。
「夕立がプレイヤーでは無いと言う理由でNPCを蔑ろにするような人間じゃ無いって分かっただけでも良かったよ。じゃあ、夕立の気遣いに感謝はするけど僕の答えはYESだよ。僕はあのいけ好かないイエティどもでは無く、僕の大事な友人のロッサ君の出身部族であるコボルト族を尊重させて頂く。もちろん背景の話は詳しく聞かせて貰うけれど。」
こうして、僕はワンダント殿の、ひいては夕立の発布するクエストを受承する事を宣言した。