情報収集2(夕立視点)
情報収集しておりません。忍者何やってるんだ。負けるな忍者。
しかし、この危機に村長不在というのも締まらない話でござる。村壊滅で存亡の危機。いくら村人全員が偶然にも無事であったとはいえ、陣頭指揮を執るべき村長が隣村に直々に協力要請?解せぬでござるなー。
などと思っていたらロッサ君が足を止めた。どうやらここが目的地らしい。
「ここの地下にワンダントさんがいます。先ほどの建物が備蓄庫ですが、こちらは、その。『個人的な』ワンダントさんの倉庫です。」
なんでござると?つまりちゃんと村人の統率に励んでいたのは村長の娘だけで、村長は他の村に、前村長は自分の倉庫に籠っているのか?そんなやつら正直、助けるに値するのか。リコリス殿に報告する脳内のノートに大きなバッテンを付けながら地下に潜る。正直、もう、帰りたい気分でござる。備蓄庫の様子だけ見て帰りたい。
そう思っていた時代が私にもありました。何という事でしょう。頑丈な石造りの地下室。壁一面に飾られた剣、刀、槍、弓その他もろもろ。どう考えても1NPCが持てる分を遙かに上回った莫大な武器の数々。そして、その輝きはそれらの武器が未だ現役であることを示していた。
「…ロッサか。そちらの方は?」
「ワンダントさん、こちらは夕立さん。リコリスさんの遣いだそうです。」
意外と遅かったの。とその老犬は言った。毛皮に白いものが混じり始めているその姿からは想像が出来ぬほどの眼光の鋭さ!おもわず拙者が身構えるほどの気迫でござった。なるほど、これがコボルト族。雪山にあり、なおこの歳まで生きるということの意味か。
「お初にお目にかかる。拙者の名は夕立。リコリス殿の遣いで参った。御目通りを喜ばしく思う。」
「ご丁寧なあいさつは結構じゃ。」
有事じゃしの。そう言って、カカカとワンダントは笑った。
「前回に会った時は猫を被っておったが、まさかこの期に及んでそのような余裕は家には無いでの。有り体に聞こう。リコリス殿は何をお望みか。」
…息が詰まる。こちらが悠長に情報収集と洒落込んでいたいた時分、この者はじっと牙を磨いておったのだ。まごうことなき武人である。
「拙者は『とりあえずの』全権を委任されているでござる。まずはこの村の備蓄、戦力、なんでも教えていただきたい。我々はまだ何も知らないでござる。」
「遅いの、そしてぬるいの。話にならんのー。リコリス殿はいずこに?」
「…村の中央部で村の外苑を拙者たちの知覚の及ばぬ範囲、恐らく数キロ単位で監視中でござる。なるほど、拙者は最速で動いていたつもりであったが、それですら稚拙であったということか。」
あぁ、とワンダントは呟いた。
「そうか、そなたら『プレイヤー』とやらのスキルじゃな。恐ろしい、まっこと恐ろしいが、身動きが取れず代理を寄越すさまでは少し弱いの。買いかぶり過ぎたかのぅ、リコリス殿ならばもう3手は先を行っておるものとばかり。これは失礼した。じゃがしかし、リコリス殿が自ら監視役を受けてくれているのならばうちの村の戦士たちももう少し休めるというもの。」
「さぁて、では始めよう。そちらの求めるすべての情報を差し上げよう。代わりに。」
老犬が嗤う。
「そちらの持つ情報もいただくとしよう。協力に値するか、それを決める権利は双方にあるとは思わんかの。カカカ。」
間違いない、この前村長ワンダント殿こそがまさにこの村の支配者であると確信するに足る堂々とした宣言であった。
ついに、ワンダントさんが犬なのに被っていた猫を剥ぎ取りました。その様相は正に魔王。忍者に勝ち目はあるのか。頑張れ忍者。負けるな忍者。