鑑定中は目が乾く
もう誰も覚えていない設定だとは思うのではあるが、この僕、リコリスの一番最初に持ち合わせたスキル『鑑定眼EX』というスキルは、そこにあるオブジェクトの鑑定を行えるという便利ちゃんスキルである。
この世界でゲームを始めた時に、自然ビオトープからの開始を宣言したプレイヤーに与えられる、EXをの名を持つスキル。それが僕の場合は鑑定眼だったということなのだ。ちなみに、『隠行EX』や『怪力EX』などなど、結構な多岐に渡るようだ。なんだ、怪力って。STR上げたら追いつくようなスキル与えられるとかランダムでも不憫すぎるだろう…。ちょっと詳細が気になるなぁ。STRによってさらに能力が変わるとかだと話が変わってくるぞ…なんで攻略サイト非推奨なんだ。
なぁんて薄ボンヤリとした思考の波に流されながら哨戒任務を続けて居ると、パーティメンバーの名前表記が一瞬消えて再び点灯した。ログアウトもしくは死に戻り時に見られるものである。
「あいつらヤバいぞ。斥候を捕まえて口を塞いでから、時間差で死に戻りする様に計算して拷問にかけてきたぞ。リコリスとカンナ以上に頭がおかしい奴らがいるなんて!」
と、姉のスカーレットから通信が入る。おいおい、こいつ裏切ったんじゃなくて敵に捕まってたのかよ。すっかり姉妹と忍者は敵設定で計算してたから計算が狂っちゃうぜ。
「いや、知ってると思うけど僕の前のギルドのメンバーはほぼ全員このゲームに参加してるからね。僕より頭おかしい奴なんて一山幾らの大盤振る舞いなんだけど。っていうか僕は頭おかしくはないんだけど。」
「その、噂の頭がおかしいギルメンがあのイエティどもを指揮してる可能性はないんだろうな?」
いや、否定できないんですけど。元ギルメンは仲間だからと否定したいが、こいつらもさっきまで同じパーティのメンバーだったのに平気で裏切りよったからな。裏切者は裏切者を語る、か。深いぜ。
「まぁ、元ギルメンの可能性は極めて低いと思うよ。」
「…なんでそう言い切れる?」
「僕個人やパーティへの攻撃くらいなら鷹揚な僕は全殺しで許しちゃうけど、無関係なコボルトの村まで襲ってるから。僕の関係者の仕業じゃないと信じたいかな。」
「ん?コボルトの村ってまさか…。」
「そうだよ、ロッサ君の故郷の村はイエティどもに襲われてほぼ壊滅の憂き目にあってる。生き返って、なおかつ僕達と行動を共にするならこれから指定する座標に来てほしい。大威の前の小威ってことでとりあえず裏切りはなかったことでもいいよ。死ぬほど熱かったし、現に死んだけど少しでも人手と情報が欲しいので出血大サービスで許す。来ないならこのままパーティ抜けて。全部解決した後に暇だったら報復に行くから気にしないでいいよ。」
んぅ…と悩ましい声が聞こえる。悩むって事はまぁ僕への攻撃は凝り固まった憎しみが動機じゃないのか?良く分からんやつらだ。PK屋はこれだから。。。
「わかった、ただしもうさっぱり意味が解らないからどこで離脱するか分からないって事と、いざとなったら妹の安全を最優先にすることを認めろ。」
「どうぞどうぞ。では一名様ご案内ー。」
さて、今までの情報が正しければ時間を空けて一人ずつ戻ってくるはずだ。こいつらを生かさず殺さず使いながら最適な方法で山狩りするには…っと。
僕は計画を練り直しつつ、戦力を再計算していく。簡単な話ではないがやると決めたからには、せめてやり切ろう。そう、心に誓いつつ僕は雪山の焼き廃墟の中で反撃の瞬間をまんじりと待ちわびるのだった。