壊滅的敗走
主人公先手撃たれまくりです。どうする。
「あー…負けたねぇロッサ君。僕も大概勝ったり負けたりしてきたけど、手も足も出ないってのは何回味わっても腹が立つもんだ。リベンジしてやるぜ…っと、ロッサ君はあいつら知ってる?」
「知ってます。ズーティ族は熊よりも大きな毛むくじゃらです。気性が荒く、決まった村を持たず、山の中を散的にうろついてますが、僕の村にも交易というか物々交換に訪れます。」
「ミィティ族は山の中に幾つかある遺跡の番人です。そういえばこの間攻略した遺跡にはいませんでしたね?普通は居るらしいですけど。器用で魔石を加工したものなんかを食料や金貨なんかと交換に村に訪れたりしてました。」
どちらも、コボルト族の村とは交流があったって事か。と言うことは山にいる生き物皆殺しって訳じゃないんだな。僕達しかこの山にプレイヤーが居ないと仮定して、僕達が何かトリガーを引いた…?イベント的にしては少し血生臭い気もするけど…そういえば僕はこのゲームで初めてのイベントだかクエストだかなんじゃ…あんまりだろ。
「リコリスさん!」
ロッサ君が緊迫した声を上げる。物思いを一時中断して目を凝らすと村の方に、煙?
「村の様子がおかしいです!リコリスさん見えますか?」
はっきりと見えた。村が燃えている。
「リコリスさん!あぁ、誰か、誰かボクの村を助けてください…。」
これが、この惨状が、僕達の、せいで、?
「なんで、だってこの間まで、みんな質素でも平和に暮らしてて。あ、キッスもお母さんも!」
到着した。村の建物は打ち倒され、方々から煙が立ち上がっている。燃え盛っている家はないが、すでに燃え尽きている家は多い。この世界では、プレイヤー以外のすべての生き物は死んだらもう生き返らない。そして、見渡す限り生き物の気配はない。
「おお、無事じゃったかロッサ。それにリコリス殿じゃったかのー。」
脳天気な声が壊滅した村から聞こえてくる。あぁ、僕の脳はついに幻聴が聞こえるくらいまでやられてしまったのか。くそぅ、イエティどもめ、何族かなんて関係ない。一匹残らず殲滅してくれる。僕の脳血管が焼き切れるまでスキルを使い尽くしてやるぞ!
「いや、わしは幻聴ではないぞー。おーい、リコリス殿ー?仕方ないの。おい、ロッサ。こっちにこい。怪我はないかの?」
あれ、本当に幻聴じゃない?
「前の村長!無事だったんですか?これはいったい!」
「いやはや、村の入り口に立たせた見張りが武装したイエティ族の混合部隊を見つけたでの。イエティ族は時々村に来るが武器も持ってこないし、そもそもあいつらが徒党を組むなど聞いたことがない。よって速攻で逃げたでのぅ。まぁ村は無茶苦茶じゃがコボルト族に被害はない。」
え、この被害で怪我人もなし?!
「えっと、前村長のワンダントさん…でしたよね。無事で何よりでした。でもどうやって逃げ延びたんですか?」
「ほれ、ここは雪山の裾野じゃからの。雪崩対策に地下室くらいはあるんじゃよ。普段は貯蔵庫に使っておる。やつらはそんなこと知らんからの。地上だけ壊して居らんくなったようじゃの。もう半日くらい前じゃで。いやー驚いたけども、ずっと地下室に居るわけにはいかんからな。わしが代表で出てきたんじゃ。息子の村長に行かすわけにも、村の若いもんに行かすのも何となくアレじゃろ?」
ふわっふわしてるけれども内容はおおよそ把握できた。村人と貯蔵庫が無事だと?なんという僥倖なのか。これ以上何も奪わせるつもりはない。僕は村長に断ってから村の中心部に座り込み、スキル『俯瞰風景』を発動させる。このまま敵が現れるかパーティメンバーから連絡が来るまでここから動かない。
不退転の覚悟をもって、僕は村の周囲にゆっくりと根を這わせるように、全てへの把握を進めていく。地形だけではなく何もかもを制する為に一つずつの事象を掌握していく。
深く
深く
もう、何もこの手からこぼさない為に。深く。
ここから、ようやく反撃が始まります。リコリス君少しホッとしましたが完全に慢心は消えました。さぁ、リコリス君のターンです。
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