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エンデバーエンドワンスオンライン  作者: 言離 猫助
第ニ章。大スノー域戦登録!
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敗退と撤退

「おい、カンナちゃん!忍者!ファイアーシスターズ!応答しろ!」


 まったく、何の反応もないパーティチャットに見切りをつけて飛ぶこと5分。こんなことならもっと飛行の練習でもするんだった。後悔先に立たずとは良く言ったものだね。

 着地姿勢を取ることも惜しく、僕はグラウンドの真ん中に降り立った。致死累々の敵味方入り乱れての乱闘跡地にたった一人無傷の男を見た。


「やってくれるじゃないか、僕をリコリスだと知っての狼藉だよね。知らずの狼藉でも関係ないんだけどもさぁ。」


 雪の中には両腕を落とされた真紅の衣装に身を包んだ忍者がいた。

 雪の中には真っ赤なスーツを着たファイアースターターと、雪の中には動きやすそうに改良してあるとはいえ場違いなドレスを身にまとったパイロスターターがお互いに覆いかぶさるようにして倒れていた。

 どう見てもどちらも、致命傷だった。


 …カンナちゃんの姿が無い。心臓の早鐘が打つ。まさか、カンナちゃんが死なない程度に転がされる?いやいや、どんな戦闘能力だよ。それとロッサ君の姿も見えない。隠れていられたのか、あいつも男の子だからな。ただ、死んでない事だけを祈る。


 「おーい、だんまり決めてちゃ分からないよ。何のつもりでこんなことしちゃったのかね。僕にもわかる様に教えてくれないかなぁ。赤猫を這わすぞクズ野郎。」


「…聞いていたよりもずっと気性が荒いな、プレイヤーネーム『リコリス』。暫定チーム「紅」のリーダーにして司令塔。1VS1の戦闘ではプレイヤーネーム『カンナ』に譲るもスキル構築面では他の追随を許さぬカリスマのお兄さん。」


「御託はいいんだって。まずはその重ね着しすぎて原型が分から無くなってる襲衣を脱げよ。脱がして差し上げようか?何のつもりかって聞いたんだけど…これが最後の質問だよ。言葉が通じるなら返事をしろよ。」


 言いながらも周囲への警戒は怠らない。スキル「俯瞰風景」まで起動して不意打ちに対応する。


「そうだねぇ、僕達は君たちが言うところのNPCってやつさ。ここに生きているってのにプレイヤーじゃないってだけでこの世界じゃ2級品扱いだ。悲しいなぁ、そうは思わないかい?」


「思わない。人の意見を変えるのなんて美味しいお茶を入れるのとそうは変わらないんだ。コツを知ってるかどうか。自分たちの価値を見せつければ相手との交渉なんていくらでも優位に立てる。」


 「そうなんだよ!」嬉しそうに薄絹を重ね着したような相手はこちらに言葉を重ねる。


「だから僕たちは自分たちの価値を見せつけることにした。先祖代々、父祖伝来の地をぽっと出に踏み荒らされるのは御免だ。ここで、一度宣言しておく。」


 何かを仰ぐように両手を差し上げてクルっと一回転する。隙だらけだが動けない。動くべきではない。何故なら奴の足元には微かに身じろぎする革袋が転がっているから。


「僕達はこの雪山に住む『イエティ』の一族!ズーティ族とミーティ族の意見は一致した。この雪山に立ち入った愚かな者たちの殲滅である。君たちは何度でも蘇るのだろう?でも君たちは聞かなかったのか?この雪山のふもとに住む哀れなコボルト共の話を!」


「雪山には恐るべき化け物が跋扈していると。僕達の目的は雪山を在るがままに保全すること、そして山の中にある遺跡を守ることだ。そして君たちはその両方を踏みにじった!許せない。殺せ!殺せ!殺せ!」


 いつの間にか、累々と横たわっていたイエティ族は彼の後ろに集結しつつあった。老いも若いも男も女も。


「出ていく、なんて言葉じゃすまされない。死なない戦士たち、僕たちの祖先の為に、もしくは僕たちの子孫の為に無限の血で贖え!」


 今この瞬間しかなかった。僕はグラウンド全体に限界の限界。2Mの高さのユリ科の花々を現出させた。僕がスキル調整案として運営腹とまとめたアップデートは3日後だ今はまだ、スキルは十全に使える。咲き乱れる花々に付与された状態異常は麻痺のみ。それ以上は乗せられない。

 僕にだけ、触ることのできない背の高い花々を一直線に突き斬って、奴の足元の革袋を奪取する。


「一声だけ鳴いて。ロッサ君だね?」「はいっ!」


 それさえ、聞ければ十分だった。僕はロッサ君だけを抱えて敵中を突破して飛び上がった。


「覚えておくんだな、必ずや僕は君たちの元に戻ってくる。絶対にだ。」


「「はっっ!はっはっは!おいおい、こいつらはいいのか?お友達なんだろう?」


「知らないのかい?僕達は死んでも生き返る。少なくてもここではね。生き返った先で再び捕まるような間抜けはまた今度、気が向いたら助けに来るさ。あーばよとっさん!」


「どこまでも追って必ず報いは受けさせてやるからな『リコリス』覚えておけ。」



 虚勢は張ったが、こんなものどう考えても敗北でしかなかった。ぎりぎり、手元に残ったのはコボルト族から預かったロッサ君のみ。悔しくて悔しくて涙が出るが、その涙すらも頬で凍り付く。報いは受けさせる。必ず。そう、心に決めてロッサ君の住んでいた村に向けて全身全霊で飛び去って行った。



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