犬闘士ロッサ、その惨状。
こんにちは。読者のみなさん。NPCのコボルト族のロッサです。そうです、カンナさんとリコリスさんにいつも弄り回されて愛玩動物扱いを受けている事に不満を爆発させたロッサです。え?本編ではまったくそんな話は出てない?それは語り手がちゃんと仕事してないんですよ!もー!
というのも、パーティリーダーであるリコリスさんが、行ってきますの一言で出掛けてから早2日。たった2日で僕たちのパーティは激変しました。戦力の要であるカンナさんは物憂げでかつ、ストレスを溜めまくってます。臨時的にパーティを組んでいるあの、赤い3人組ともあまり関わりを持たず結局バラバラに活動をしています。今日も今日とて自分で山の中に更地を作り整地したグラウンドのそばで佇んでいます。放っておくのもなんだか不安で隣で日向ぼっこをしてみます。雪山の束の間の晴れ間に日差しが心地よくぽーっとしてきます。眠いです。どこからか忍者さんが調達してきてくれた兎肉ジャーキーを噛み噛みしつつ昼前のぼんやりした時間を過ごします。お昼ご飯は何かなー。忍者さんのご飯美味しいからなー。
「ロッサ君暇そうだね。」
「カンナさんも、そう忙しくはなさそうですよ?」
「んー。私もね色々考えるところがあるんだよ。こう見えてもね。」
そういって肩をすくめるカンナさん。悩み事があるなら相談してくれればいいのに、こういう時にはカンナさんもリコリスさんも僕には相談はしてくれません。頼りがいが無いんでしょうか。僕がもっと強かったらもっと頼ってくれたんでしょうか。そう思うと少し歯がゆいです。もっと強くなりたい。
そんな感じでボクまで悩んでいたらおもむろに立ち上がり、カンナさんがマジックバックから布の袋を出します。これは重量が無くなる魔法のカバンとは違い、普通に荷物の重さがかかるためちょっと大変です。でも、魔法のカバンから荷物を出すときの特有のタイムラグが無くなるので、冒険必需品を入れておくと便利なのです。リコリスさんが教えてくれました。
「えーっと、あれと、これと…。」
そう言いながら魔法のカバンから荷物を取り出して布の袋に詰めていきます。非常袋でも作っているのでしょうか。非常時の備えは常にしておかないとダメだと、これもリコリスさんの教えですね。ボクも魔法のカバンとは別に兎肉ジャーキーとか、昔見つけた小さな宝石を入れた非常袋を持ち歩いています。と、言っても冒険者さんの宝物に比べたら本当に雀の涙みたいな価値しかありません。
「ロッサ君これ担いでみて。」
予想外に荷物を詰めすぎていて、パンパンになった布の袋をボクに差し出します。え、ボクが担ぐの?
「これですか?リュックと、剣ですか?」
そう、カンナさんがいつも大事に提げているとても立派な剣です。これを磨いている時のカンナさんが本当に楽しそうで実に恐ろしいのです。
「そうだよ。私の大事な愛剣と今私が持ってる全財産が入ってます。」
でもボクは見ていました。荷物を準備しながらボクに見えないようにこっそり地面から石を拾って、カバンに詰めるカンナさんの姿を。
「結構重いですよカンナさん…ずっしりしますっ!」
こ、これ、ボクの体重とあんまり変わらないくらい重いんじゃ!!
「それ担いでグラウンド周回してね。剣は肩に担いで。地面に降ろしてもいいのは剣頭だけだからねー。」
いつもなら笑顔で訓練を勧めてくるカンナさんですが、やや棒読みで何を考えているのか読めません。普段ならこんな無茶な事は…あんまり…と、時々しか言いません。
「な、なんのためにこんな…。」
「やらなくてもいいけどやったら強くなれるかも?村にいる幼馴染のかわいこちゃんとか、お母さんが守れるくらいに強くなりたいって言ってたよね?力が欲しくはないかい?」
力が欲しい、強くなりたい。今さっきボクが望んだことです。まるで僕の心を読んだかのような申し出に、ボクは少し目を見張った後、黙ってグラウンドをゆっくりと廻り始めます。本当に強いカンナさんが言うんだ。きっと強くなれる。そう考えながら一歩一歩前に進みます。
「勿論私もやらなきゃならないことがある…って独り言が多いのはリコリスっぽくって良くないな。毒されちゃってるよ。」
苦笑してるカンナさんはいつものカンナさんに見えます。そこで、少し気が緩んだボクはカンナさんに質問してみました。
「カンナさんこれちなみに何周くらいの予定ですかっ?」
「私が良いって言うまでだよ。具体的には倒れてもヒールで体力回復されます。」
「うぅ…分かってたけど鬼がいるよ母さん…。」
聞くんじゃなかった。カンナさんは強いけど、その分周囲に欲するレベルも激高です。つ、つぶされちゃいます。こうなったら不必要な発言は自分の苦労を増すだけ。黙々とグラウンドを周回します。30分を超えたくらいでヒール欲しいなーって目でカンナさんを見ますがまったくこちらを見ていません。鬼です。鬼の獣、カンナちゃんです。
1時間を超えたくらいで、ようやくカンナさんは顔を上げてこちらに来てくれました。
「ごめんごめんロッサ君。はいヒール。10分休憩ねー。」
1時間歩いて10分休みってのはちょっと酷いんじゃないかなぁ。ボクはそのままうつ伏せになり大きく息を吐きます。汗が滝のように流れ落ちます。ヒールはHPが回復しますがすぐにスタミナが回復するわけじゃありません。ボクはしばらくその場から動けませんでした。その後も1日中、日が暮れるまで小休憩を挟みながら走り続けました。速度的には歩くのと変わらないような速さでもボクは一生懸命に走ったんです!
体感的には全く何の成長もしていないように思えますが、カンナさんは何度も頷き「頑張ったねロッサ君、きみは強くなっているよ。」と褒めてくれました。それが嬉しくてボクはカンナさんが笑ってくれるなら今日一日走った甲斐があったかなぁ。と思いながらキャンプで横になりました。その夜は夢も見ないくらいの爆睡でした。そう、まさか翌日も迷いの晴れたような笑顔のカンナさんが荷物を差し出してくる。そんな事がなければ、きっとこれはいい話で終わっていたはずなのに。カンナさんの!鬼!悪魔!獣少女!
ロッサ君、着実に強くなっていますが強くなるだけカンナちゃんが求めるハードルもガンガン上がります。生きろロッサ君!
明日はリコリス君待望の帰還です。次話「明日の話をしよう」待て次週!(明日ですが)
感想評価お待ちしています。切実ですっ!