閑話 VRMMOを管理する簡単なお仕事。
場面を変えたらぬるんとでた。これはエンデバー運営側の1コマです。なにやらこちらも怪しい動きが…。
「だからさー。」
私は苦い物を噛み潰したような顔で、目の前の男に話かける…今週何度目だろう。数えるのも馬鹿らしくなるほど空虚な回数を乗り越えて、私たちは今日も対峙していた。
「予算だよ予算。お金がないのは首がないのと同じ。分かるでしょ?あんたも仮にも金を司る事務長様なんて看板引っ提げてんだからさー。私たちの部署が『今は』最前線で、最前線で戦うのに武器も弾薬も足りてないの。ついでに兵隊もね?」
目の前の、もさっとした髪の男も同じ事をくり返す。ここまではジャブの応酬ですらない。試合前のグローブ合わせみたいな物。ちょっとした挨拶だよ。
「ですから開発室長殿。お金が足りてないのはどこも同じです。一応言っておきますけど、一番お金がないのは事務局です。あなたが今飲んでるコーヒーも、トイレ行って使ってる紙も、スパコン使うのにもぜーんぶ金がいるんです。わかりますよね?私たちはお金の管理が仕事です。お金を引っ張ってくるのは外渉部で、あそこに頼るのが嫌なら、あなたが秘匿してるシステムを売り払うかで稼いで下さい。」
「あんた、そう言って、私の持ってる技術を1ヶ月前に1つ売り払ったわよね。その外渉部を通じて。その金が回ってきてないって言ってんだけど!あれ、私が開発した秘匿技術でそれなりの金になったと思ったんですけど?」
「あぁ、あれは…。」
何を言っても、立て板に水で返してくる様な男には珍しく、珍しく言いよどむ。
「有り体に言えばお金にはなりました。開発部の増予算希望を含めて1年分は優に補える金額でした。」
「ですが、もうここにはありません。事務局に入ったのは、ほんの20%程度です。」
「はぁ!あんた本気で言ってんの?横領疑われても仕方ないし、内容によっては出るとこ出るわよ。」
事務長…と今は呼ばれているその男は、本業に携わって居る時とは全く180度覇気の失われた顔で、非常に言い辛そうにぼそりと言った。
「『開発局』が5割。『管理維持部』が3割持っていったんだよ。赤と緑だ。残り2割は『事務局』で好きにして良いと言われているから『VR開発室』に全部回す。俺に出来るのはそれが限界だよ。」
「ッ…!維持部はともかく開発局が何でくちばし突っ込んでくるのよ。『鉄塊』は大方完成してるんでしょ!維持部だけで良いじゃない!」
「安全を盾にされると事務じゃどうしようもない。それに分かってると思うけど…俺だって事務の本職じゃない。他の奴が誰も金の管理が出来ないから俺がやってるだけ…組織としてはもう限界だよ。たった8人で副業にするには話がでかすぎたんだ。どっかと提携でもして管理だけでも任せないと。」
ここ数年で癖になってしまっているタバコに火を付けて、一息吸って、はき出す。
「…そんなこと分かってる。私だけじゃない。みんな分かってる。あんただけじゃなくて、どっからでもボロが出てる。私だって一介のプログラマーに部長の肩書きを付けられて一人でウン万人のデータ管理から保守点検。サーバーまで全部見てる。もう限界。でも、私たちの本業を嗅ぎ付けられるわけにはいかない。そうでしょ?」
「…ごめん。君の方が無理難題を押しつけられてるもんな。そりゃあそうだ。でも、じゃあ俺たちは仲間が廃人になるか、みんなで夜逃げするまで待つしかないのか?」
「手は考えてある。ただ、これが正しいとは口が裂けても言えない。人によっては完全に巻き込まれるだけで望まない形になるかも。合法とは言えないことだし。」
「どうするの?」
「計画を前倒しする。トップ域のプレイヤーに優先権を与えて即席ゲームマスターにするか、事情を話して幹部教育を施すのか。まだ悩んでるんだけど。」
「どちらも危ない橋だ。でも、前半の方がこちらのメリットはでかい。」
「そうね、でも真の協力者は得られない。後半は時間がかるけど私たちの協力者が得られるかもしれない…今のは聞かなかったことにして。とりあえず開発局に怒鳴り込みに行ってくるから。」
「じゃあ戻ってきたら寄って行ってよ。」
「なぁに?自分が欲しいお金は自分で取ってきなさいよ?」
「いや、さっきの計画の前倒し…俺も乗るから相談しようぜ。このままじゃジリ貧だ。」
「秘密裏にってなると、仲間に対する裏切りに取られるかもよ?」
「裏切りってんなら、僕たちチーム自体がおおきな裏切り者の群れだろう。大丈夫、どうせ、行く道がどうなったって僕たちの目指すところは変わらない。」
「そうね、そうよね。まぁそれだったら開発局の制圧協力させてあげても良いわよ?」
「リアルのもめ事はノーサンキューだよ。事務局は今の予算でギリギリ回せる。オーケー?」
「えぇ、わかったわよ!全く、誰よVRMMOを開発、管理するのを楽な仕事だって言った奴。ぶん殴ってやりたい。」
「簡単な話だろ?」
事務長は肩を竦めた。
「1年前の俺たちを殴りには行けないように、多分1年後の俺たちも、今の俺たちを殴りたいって言うと思う。君と出会ってから10年近く、僕は平穏とか楽な仕事ってやつを見たことがないぜ。それでも、1分後の仕事よりは、多分今の仕事の方がマシ。簡単な仕事だって割り切って行こう。」
私、そういえば腰痛持ちなんですがMMORPGが好きなんです。
それもちょっと息の長いヤツ。でも、もうそんなにプレイ人口多くないんですよね。でもまだまじめに(いや、あれは真面目ではないな。)イベント企画したりメモリアルダンジョンを定期的に実装してくれます。
ありがたい話ですがきっと裏ではバタバタがあるはず。日々感謝のメモダン巡り!
でも精錬祭りの確率渋りは勘弁な…もう少しプレイヤー甘やかしてもいいと思うよカード0.02%なんだからさ…。