08.僕の支え
翌日、母さんは目を覚まし、病院にいることに驚いていた。
僕と警部さんで昨日のことを説明すると母さん、目を伏せて
「ごめんなさい」と申し訳なさそうに謝った。
それから病室で警部さんに色々と質問された。別に大したことじゃなくて、父さんは普段どんな人だったか、とかそういうこと。
でも、殺された中野礼子さんのこと、父さんがうちを出ていった時のことを、きかれた時は2人して固まった。
母さん、また泣き出しそうになって、ぎゅっと拳を握っていた。
30分程して僕らの事情聴取は終わった。 父さんが犯人だと決まったわけじゃないと聞いて、母さんは心底ほっとしたようだ。
でもまだ、容疑者の中で1番犯人に近いということは変わってないんだ。こんな風に考えちゃうなんて、僕って嫌な奴?
母さんは休養も兼ねて、あと2日間この病院に入院することになった。
「ごめんね、光ちゃん。母さん、しっかりしないといけないのに」
僕がりんごを剥いてあげていたら、急に母さんがそんなことを言い出した。
ちなみに僕、結構器用なんだ。
「母さんが謝ることじゃないよ」
「ありがとう。母さん、明後日まで入院だから、その間光太は五十嵐さんの家に預かってもらおうと思ってるの。もう他、に頼れるご近所さんもいないし。五十嵐さんは大歓迎だって言って下さったし。ハジメ君もいるから安心だわ」
「分かった」
僕は大きく頷いた。
ハジメの家なら安心できる。ハジメの家族はみんな、とても良い人だから。
「そう、良かった。11時なったら、五十嵐さんが迎えに来てくれるから。 本当にごめんね」
11時になって、ハジメのお母さんがやって来た。
おばさんは人情の塊の様な人で、おじさんも恵里さんも人情に厚い。頭よりも先に行動してしまう、理屈よりそこに困っている人がいたら、無償で助けてくれる、そんな人達。嘘もつけない人達で駆け引きとかは苦手らしい。
そんな人達から、どうやったらハジメみたいな子供が生まれるんだ?
とにかく五十嵐家の人達はみんな素敵な人達ってこと。
だから、母さんはこんな時でもおばさんとなら、安心して会話できるのだ。
僕は、五十嵐酒店の配達用の車に乗って、五十嵐家までやって来た。
お店とは逆側にある玄関から家に入る。
「ハジメ、随分心配してたから行ってやってよ。明日花ちゃんも来てるわよ」
おばさんはそう言って店番に戻っていった。
そうだ。色々ありすぎて頭の隅に追いやられていた。
昨日は、よく分からないままバタバタして帰っちゃったし、その後連絡もしてない。
僕は、少し申し訳なくなった。
2階に上がって向かって右側の戸を開けた。
ガラッ
ガバッ
不意に僕は誰かに抱きつかれた。
「あっ明日花っ!?」 動揺する僕をよそに明日花は、僕の胸に顔をうずめて、わんわん泣き出してしまった。
「人の部屋の入り口で、ラブシーンするのやめてくんない?」
部屋の奥、勉強机の前で回転椅子に座って腕組みをするハジメがいた。
「ハジメ…」
僕はハジメに抱きつきたくなった。別にそういう意味じゃなくて。なんだかハジメを見た瞬間に、ものすごく安心したからだ。
でも、僕は明日花に抱きつかれてるわけで、そんなことできなかったけど。
戸を閉めて、明日花の肩を抱きながら、ハジメのベッドに腰かけた。
「明日花、おまえのことものすごく心配してたんだぜ。うちには連絡こないからって、何度も俺んちに電話してきたり、今日なんて朝の6時にうち来て俺の部屋で、おまえが自殺したかもとか、倒れたかもとか言って半パニック状態でウロウロ歩き回って、本当大変だった」
そうだったんだ…。連絡の1つもしないで、悪かったな。
いくら大変だったからって、心配してくれてる人を忘れちゃいけないよね。
僕は、ぎこちなく明日花の頭をなでて言った。
「ありがとう。心配かけてごめん」
「良かった。本当に光太が、元気でよかった」
明日花は、僕から離れると、泣き濡らした顔でニコっとした。
「ニュース見たぜ。驚いたよ」
「うん、僕も」
「大丈夫だったか?」
「おかげさまで、なんとか」
「そうか」
どうにか踏ん張って立っているかんじで、僕もいつ母さんみたいにパニックになったり、倒れたりするか分かんないけど。
でも、僕にはハジメと明日花がついてるから。