07.病院にて
統一感のないサブタイトルですみません。
「飲みなさい」
刑事さんが、缶のオレンジジュースを差し出した。
「ありがとうございます」
僕は受け取り、缶のプルトップを人差し指であけた。
ここは病院内の休憩室。刑事さんに連れられ、やって来たのだ。 この病院の面会時間は夜の9時まで。もう、9時なんでとうに過ぎているから、廊下にもあまり人がいない。
これからどうなるんだろう。
父さんが逮捕されて、母さんはぶっ倒れて。なんだか映画とかドラマみたいで、現実味がない。
それに、まだ全く詳しいことを聞いていない。僕が知ってるのは、
「父さんが殺人の容疑で逮捕された」ということだけ。
聞きたいことは、たくさんある。だけど、本当に聞いていいのか。聞いたら僕も母さんみたいに倒れちゃうかも。
刑事さん、改めて僕に向き直った。
「申し遅れた。私は高台市警察署の警部、熊本 洋一だ」
ひー! 本当に熊だったー! それに警部さんだったんだ。
「私は警部補の小泉 姫子。よろしくね」
さっきの可愛らしい女の人、刑事さんだったんだ。スゴいなぁ。警察って色んな人がいる。
「君は、結城光太君だね?」
僕は頷いた。「お母さんから何か聞いたかい?」
ぎゅっと両手でカンジュースをにぎった。
父さん…まさか本当に…?
「父さんが…殺人の容疑で…逮捕され…た」
父さん…本当に人を殺しちゃったの? そのために家を出ていったの?
「僕、何も詳しいこと知らなくて…家に帰ったら、その…母さんがすごく慌てていて、なにがあったのか聞こうとしたら、警部さんが来て…それで…」
「君の母さんは卒倒してしまったと?」
僕は正直にコクンと頷いた。
「君は知りたいかい?」
ドキっとした。
聞かなきゃいけない。ちゃんと知っておかなきゃいけない。僕が今置かれている立場は、そういうものだから。あとから、何もしりませんでしたじゃ、すまされない。
本心は、聞きたくないに決まってる。でも僕は覚悟を決めた。
「教えてください」
「そうか。 君は偉いね」
警部さんが、ニカっと笑った。それは、熊よりも鬼よりも頼もしくて安心できる笑顔だった。
「殺害されたのは、中野礼子という女性だった。死因は窒息死。何者かに絞殺、絞め殺されたんだ。分かるね?」 僕だってそれくらい分かる。サスペンスドラマを、よく父さんと2人で見てたから。
「その女の人と父さん、どんな関係だったんですか?」
警部さんは言いにくそうに顔をしかめた。
その瞬間、僕はピンときた。
「その人…もしかして父さんの愛人ですか?」
ストレートすぎた。言った後に僕は後悔した。
警部さんと小泉さん、とても驚いている。
「そう…。そう、君のお父さんの恋人だった」
やっぱり…。
僕と母さんから父さんを奪った人。その人が殺された。とても複雑だ。
この1週間、僕はその人のことをとても恨んだし、憎んだ。
だけど…その人が…死んだ…。
「第一発見者が君のお父さんだった」
「それだけで逮捕されたんですか!?」
僕は警部さんにつかみかかりたい衝動を抑え、じっと缶ジュースを見つめた。
「いやいや。君のお父さんは厳密に言えば、まだ1番犯人に近い容疑者というだけだ。今も、事情聴取のために警察署にいるだけで、まだ他にも容疑者はいる」
僕はわけがわからなくなった。
「さぁ、君も疲れただろう。今日は、君のお母さんの病室にある簡易ベッドを使うといい。私も君の話が聞きたいが、それはまた明日にすることにしよう」
僕は軽く放心状態のまま、警部さんと小泉さんに
「おやすみなさい」を言って病室に戻った。
母さんの病室は個室だから、人の目は気にしなくて済んだ。
簡易ベッドに横になった瞬間、僕の頬を暖かい液体が流れていった。