19.苦悩
祝☆20部分
面会室から出てきた僕を、ハジメと明日花は廊下のソファーに座って待っていた。
この時、僕はどんな顔をしていたか分からない。多分、相当陰気な表情だったんだろう。2人共、心配そうに僕をじっと見つめている。
「帰ろう」
僕が言うと、2人はこくんと頷いて立ち上がった。無言で歩く、僕とハジメと明日花。
自動ドアの正面玄関から外に出ると、雨が降っていた。
深呼吸をするとジメッとした空気が肺に入った。だけど心は空気ではなく、鉛の塊を飲み込んだ様に鉛の重さに耐えられずに沈んでいく。
「光太…」
僕が振り向くと、心配そうな表情の明日花がいた。
「大丈夫…だよ、明日花。心配ない」
何が大丈夫なんだよ。全然大丈夫じゃない。
心はそう、叫んでいるのに、僕の口は全く反対のことを言う。
「良かった、父さんも元気そうで。来て良かったよ、父さんに会えたし」
来て良かったわけあるか。来なきゃ良かった。父さんの口から、礼子さんのことを聞いてしまった。
「本当、良かった。事件の手がかりになるかは分からないけど、でも父さんが詳しく覚えていてくれて良かった」
どうして覚えてるの? 礼子さんのことを愛していたから? 忘れられないの? 今もこれからも? あの目はどうしたの? 泣いたの?
「頑張って早く犯人突き止めないと!」
もうやだ。これ以上、父さんと礼子さんの関係に触れたくない。恐い。僕や母さん以上に礼子さんを想っていた証を、見るのも聞くのも、辛い。
もういやだ。いやだいやだいやだいやだいやだ…。
鉛は、どんどん落ちてくる。心は、どんどん沈んでく。
いやだ…いやだ…。
「光太」
静かに、ハジメが僕の名前を呼んだ。
「なんだ? ハジメ」
僕の口は心とは真逆に明るい声で、表情も自然と笑顔になっていた。…ただ、僕の目は今にも泣きそうだってことは、自分でも分かった。
「嘘つくな」「え? 何が?」
僕を睨みながらハジメは言った。
「嘘つくなよ。おまえは、全然大丈夫なんかじゃない」
「・・・」
僕の仮面は一瞬で崩れ、不安と苦しみで今にも潰れそうな、僕の心そのものが露になった。
「大丈夫なわけ…ない…」
「光太…」
明日花が消え入りそうな声で言った。
「父さんの口から礼子さんのことを聞くたびに、辛くなる! 苦しくなるんだ! もし父さんが、まだ礼子さんを愛していたらって!そしてそのたびに思うんだ…。どうして僕が、憎い礼子さんを殺した犯人を見つけなきゃいけないんだって!!」
もう吐き出さずには、いられなくなっていた。歯止めがきかない。
「自分でも、おかしなこと言ってるのは分かってる! 僕が決めて、2人に協力してもらって始めたことだ…。だけど、この事件を調べると同時に、父さんと礼子さんの関係を知ることになる! …そんなの僕は…いやだ…」
大声で叫んでいる僕を、警察署に出入りする人達がじろじろ見てくる。
「じゃあ…もうやめるか…?」
ハジメが小さく、本当に小さな声できいてきた。
「ごめん…俺が連れてきたから。おまえの気持ち考えずに…」
どうしてハジメが謝るんだよ…
「もう…やめよう」
自分で言ったくせに、僕はハジメに言われて、その言葉の意味を理解した。
もう、やめよう。
やっと20部分まできました。しかもよりによっておめでたいことなのに、話が暗いです…。光太がこんな暗くてネガティブなのは、似合わないですね。明るいのだけが取り柄の様な子なのに。まあ、彼も悩んでいるわけです。
ハジメが光太の名前を呼びました! 多分、この作品初! いつも『おまえ』なのに。
とにかく、20部分までどうにかこぎ着けました。これからも頑張りますので、どうぞ光太、ハジメ、明日花をよろしくお願いします。