17.電話
今回は短かめです。
翌日、僕は母さんにこっぴどく怒られることになった。
「あんた、昨日1日どこ行ってたの!?母さん、昨日のうちに荷造りしときなさいって言ったでしょ!」
昨日の捜査1日目で、現場のアパートに行き、小林さんに話を聞いて、家に帰ったのが5時半だった。
疲れてしまった僕は、夕食のあとお風呂に入ってすぐにベッドで寝てしまったんだ。
母さんに荷造りしておけって言われたのも忘れて。
今日から倉尾のおばあちゃんの家に行くことになっていたのを、忘れたわけじゃない。ただ、荷造りのことを忘れていただけ。僕は母さんの監視下のもと、必要なものを旅行バッグに詰め込んだ。でも母さんが、新聞屋さんに集金を払いに行った時、事件の資料を宿題のワークに挟んで、しっかりバッグの中に入れることは忘れなかったけどね。
「もう着いたのか?」
「うん。隣の市なんだから、すぐ着くよ」
受話器の向こうで、ハジメがハハッと笑った。
おばあちゃんの家には3時ごろ着いた。早めの夕食を済ませ、僕は与えられた1人部屋の畳に寝転がって、ハジメと電話している。6時を過ぎて、夕方の陽射しが縁側から室内に入ってくる。
おばあちゃんの家は、倉尾市の中でも山の方で、回りは田んぼと畑しかない。昔は、よく父さんと2人で裏山にカブトムシをとりに行ったっけ。
古い日本家屋で部屋が沢山あるから、わがまま言って1人部屋にしてもらったんだ。
「良いところみたいだな、そこ。静かだ」
「うん。周り、何もないからね。そっちだって静かじゃん」
「どうだか」
言い終わらないうちに受話器越しに、ドタドタドタと騒々しい音が聞こえた。
「どうしたの?」
「気にするな。姉貴だ」
僕はゴロンと寝返りをうった。
「明日はどうしようか?」
「明日は平日だから、十川さんも石川さんも仕事だろ」
「じゃあ、どうするの?」
受話器の向こうで、ハジメが迷っているのが分かる。
「会いたい人がいるんだ」
「誰?」
「結城正彦さん」
「え?」
父さんに会いに行くの? どうして?
「いや、そういう意味じゃない!死体の第一発見者として、話をききたいんだ」
ハジメが慌てて、そう付け足した。
「いいけど…」
「そうか? じゃあ熊本警部に連絡しといてくれ」
「分かった。…なあ、ハジメ」
「うん?」
僕は、ずっと考えていたことを言ってみることにした。
「父さんは、礼子さんのことを本気で愛してたのかな? 礼子さんが死んじゃってショックだよね?」
ハジメは、考えているようで何も言わない。
少ししてから、静かに言った。
「愛してたと思うよ。それにショックだと思う。だって、おまえの父さんは、恋人が亡くなっても何とも思わない様な無神経な男じゃないだろ?」
「うん」
…そうか…そうだよな…。父さんは、そんな男じゃない。
「ありがとう。心が少しスッとした」
「あんまり、抱え込みすぎるなよ。潰れるぞ」
「うん。今でも潰れそう」
「しっかりしろ。疲れてるんだろ。今日は早く休めよ」
「うん」
「じゃあ、また明日」
「また明日」
ピッ
僕は電話を切って、天井をぼんやり見た。古い木の天井は、柔らかい陽射しのせいか、少し滲んで霞んで見えた。
「光太ー! スイカよー!」
母さんの声がした。
スイカ!やった!
僕は目をこすり、急いで起き上がって居間へ小走りで向かった。
本日二発目です。
光太とハジメは好きです。(もちろん明日花も大好きです)私は女なので、男の子同士の友情ってよくわかんないのですが、男女問わず、友達ってこうあるべきだなっていう私の理想像がこの二人にはあります。そして光太、ハジメ、明日花の3人の友情にも。でも、こんな凸凹の二人がどうして仲良くしてるんだろ?って思います。いつか、3人の出会いの話が書きたいです。近いうちに。
本当は、全20話くらいで終結させようと思っていたら、事件発生までにかなり時間がかかってしまい、もう何話でおわるのか見当がつきません…。一応、最初に作った話の流れの通りに進んではいるのですが、進みが遅くて…。やっぱり話のテンポって大切ですよね。
頑張ります。
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