14.事件資料
事件の詳細です。
僕達はバラ園にある東屋のベンチに腰をおろした。この時期には、もうバラは咲いていないから、あまり人はいない。
僕はリュックから、さっき警部さんに貰った資料を出した。2人にも見える様に僕が真ん中。
そして読み始めた。
まあ、色々書いてあったけど、大事そうなとこだけ、かいつまんで書いとくよ。
殺されたのは、川橋町のアパートに住むOL、中野礼子、27歳。
まずは事件当日。
死亡推定時刻は7月6日の午後10時。死因は絞殺。死体が発見されたのは翌日、7月7日金曜日の午前8時。この第一発見者が僕の父さん、結城正彦だ。
発見された当時、礼子さんは自宅のアパートのベッドの中にいた。父さんは、昨晩11時にこのアパートに帰宅しているが、礼子さんは先に寝たと思って放っておいたらしい。それで朝、死んでるのに気付いたんだって。
「父さん、すごい…一晩、死体と同じ部屋で寝たんでしょ? ゾッとするよ」
僕は身震いした。
「仕方ないじゃないか。ほらここ読めよ。おまえの父さん、その晩は、相当酔ってたみたいだから」
凶器は、礼子さんの部屋のゴミ箱から出てきたストッキング。さらに、礼子さんの体内から睡眠薬が検出されている。
礼子さんを眠らせてから、そのストッキングで絞め殺したらしい。
これらのことから、礼子さんは、この自宅のアパートで殺されたのだろう、と書いてある。
次に容疑者だ。
この中野礼子という女は、独占欲が強いくせにコロコロ好きな人が変わるので、付き合った男は星の数。振った男も星の数。恋した相手は、どんな手を使っても手に入れる、という恐ろしい人らしい。だから、容疑者をしぼるのは、とても大変だったみたい。そしてしぼりだされたのが、この4人。
1人目は、言わずと知れた僕の父さん、結城正彦。半年前から、礼子さんとは恋人関係にあった。(ちょうど、母さんが父さんの浮気を見抜いた時期だ。母さん、すごい)
2人目は、礼子さんの会社の同僚、石川美保28歳。礼子さんとは、色々と衝突もあったみたいで、トラブルの絶えない関係だった。
3人目は、礼子さんの大学時代の同級生、小林良人27歳。礼子さんとは、大学3年の秋から大学4年の夏まで付き合っていたが、こっぴどく振られて別れた。最近になって、よりを戻さないかと、礼子さんに言い寄っていたらしい。
4人目は十川武45歳。
礼子さんが勤めていた会社の上司。2年前の夏から、去年の秋にかけて、礼子さんとは不倫関係にあった。十川さんがなかなか奥さんと別れないので、礼子さんは奥さんに、執拗な嫌がらせを繰り返していた。その結果、十川さんの奥さんは、うつ病になってしまい、離婚。その後、すぐに礼子さんとは別れている。
「恐い女だな。中野礼子って人は」
「うん。もし、父さんが家を出ていなかったら、母さんにも十川さんの奥さんみたいに嫌がらせをしたのかな」
「だろうな」
僕は資料に付いていた、礼子さんの写真を見た。美人だけど派手なかんじで、化粧も濃い。資料によると、小柄で身長は155センチ、体重は42キロだったそうだ。
ファンデーションの白い肌に口紅のピンクが際立つ。茶色に染めているパーマのかかったフワッとした髪は、胸のあたりまである。妖艶な感じの人だ。
「見とれてんのか?」
ハジメが横から、ひょいっと写真をのぞきこんだ。
「違うよ。なんか派手な人だなって思って。僕はもっと…こうナチュラルなかんじの美人がいいよ」
まぁてっとり早く例えるなら、明日花みたいな子かな。いつも一緒にいるから忘れちゃうけど、明日花も充分かわいい。色白の小さな顔には、くりっとした瞳が2つ。胸まであるストレートの髪は、手入れが行き届いてサラサラだ。スタイルも、スラッとしていてきれいだ。学校でも、モテるのは頷ける。
そんなことを無意識に考えてふことに、僕自身が気付いた瞬間、顔が赤くなってしまった。
「ナチュラルって…例えば明日花みたいな?」
ハジメが核心をつくことをきいてきて、さらに赤面。
「図星か」
「へ?」
一生懸命、資料を読んでいた明日花が顔を上げた。どうやら、僕達の会話は明日花には届いてなかったみたい。良かった。
「あっ、いや、何でもないよ、明日花。それよりハジメ、おまえはどうなんだよ」
僕は膨れっ面でハジメに聞いた。
「俺も、あんまりこの人みたいなのは好きじゃない。礼子さんに比べれば、明日花の方が可愛いよ」
次に赤面したのは明日花だった。
僕もなんだか恥ずかしくなってきた。
こんなことサラリと、しかも本人の前で言えるのは、ハジメくらいだ。しかも、それでいて決まってる。悔しいけど、ハジメは顔がいい。サラサラの色素の薄い髪に、ちょっとつり目の大きな瞳。その顔に眼鏡がよく似合っている。ムカつくけど、こいつの笑顔は子役にもなれそうな、ナイススマイルだ。もちろん女子ウケは、かなりいい。僕ってなんなんだろう。
「私、かわいくないよ!」
ぶんぶん手を振って否定する明日花。「ほらっ。そんなことより、続き続き!」
明日花が強引に話をそらした。素直にそれに従う僕とハジメ。
6日の容疑者達の、行動及びアリバイはこうだ。
まずは、父さん。6日午後8時まで、会社で仕事。この会社はアパートから、電車と徒歩で30分、車で20分離れている。
午後8時半に会社を出て、午後11時までの2時間半が空白。午後11時にアパートに帰宅するところを、1階の住人が見ている。だが、午後10時45分ごろに、アパートの部屋からスーツの男が出てきたのを見た住人がいる。
こうして、2時間半の空白の時間と住人の証言で、容疑者として逮捕されてしまったのだ。
次に石川美保さん。6日午後7時まで仕事。会社からそのまま、井田町のレストランで友人と食事をしている。そのレストランは、アパートから電車と徒歩で30分、車で20分離れている。
酔っぱらった友人を連れて、8時50分に店を出たのを、店員が確認している。それから、1時間半後の10時10分に井田駅で、酔いつぶれた友人を抱えてタクシーをひろっている。そのタクシー運転手が証言。
3人目の小林良人さん。6日午後6時までコンビニでバイト。午後6時半から9時半まで、友人宅。この友人の家は、アパートから車で15分、電車と徒歩で20分ぼど離れている。
それから、11時半まで表本町でブラブラしてあたそうだ。その2時間が空白。アリバイ証言がない。
4人目の十川武さん。6日の午後9時まで会社で仕事。それから1人で居酒屋に飲みに行き、11時に店を出たと、店員が証言。
この居酒屋は、アパートから車で10分、電車と徒歩だと15分離れている。
「アリバイがないのは、おまえの父さんと、小林さんだけか」
「なんで、小林さんにもアリバイがないのに、父さんばった疑われてるんだよ!」
僕は憤慨した。
「それは、死体の第一発見者だからじゃないのか? しかも、死んでいるとは気付かず、10時間近く、そばにいたとなれば疑うさ。それに目撃者がいる」
礼子さんの体には、ほとんど外傷は無く、もみ合ったり、争った形跡はない。ただ、右手の人差し指と親指の腹のところに、何かで切った切り傷がある。パックリ切れていることから、カッターやナイフなどのもので、ついた傷だと思われるが、特に事件には関係ないようだ。
資料を読み終えた僕達は、深いため息をついた。
「とりあえず明日、現場になった礼子さんのアパートに行ってみよう」
「うん」
僕と明日花は頷いた。
やっと事件の詳細です。どんだけかかってんだよってかんじですね。しかも、一気に全部書きました。分かりにくいトコや、書き忘れがないかなど、注意をはらって書いたのですが、どうだか。そんなトコがありましたら、どんどん言って下さい。これだけで、解いちゃう人もいるでしょうね。それは、私の力不足です。でも、どうぞ最後までお付き合い下さい。