13.作戦会議
「絶対に人に見せないこと。絶対に危険な行動はしないこと。この2つを、必ず守るんだ。いいね?」
僕らは素直に頷いた。
警部さんは、親切にも資料をコピーしてくれたのだ。僕達3人は、厳粛な誓いをたてて、その資料を受け取った。
何度も警部さんと小泉さんにお礼を言って、僕らは警察署をあとにした。
もちろん、お2人に口止めをして。
「母さんには、ここに来たことは内緒にしておいて下さい」
僕が事件を調べてる、なんて知ったら今度は気絶じゃ済まされない。
だから捜査は秘密裏で行わなければならない。
「あの警部さんの顔恐かった〜。あんな人が警察にいるって分かったから、私絶対グレない」
僕は吹き出してしまった。明日花がグレた姿なんて想像できない。
確かにあの警部さん、恐いけど。それより…
「僕はハジメのが恐い」
警察相手に、あんなことを言ってのけてしまう、ハジメの方がよっぽど恐ろしい。
「最終的に、目当てのものが手に入ったんだからいいじゃないか。…それより、ごめん」
「え? 何が?」
「おまえのこと、殺人犯の息子って言った」
それでいて、いい奴なんだよな、こいつ。
「いいって。気にしてないよ。それより、これどこで見るの?」
僕らは今、紫雨町に帰るべく、またバスに揺られている。
「人に見られるとまずいし、人のいないところがいいね」
思案顔で、明日花が言った。
「署内で読ませてもらえれば良かった」
あそこなら、クーラーも効いてて、作戦会議の場としては最適だったのに。
だけど、ハジメは窓の外から、視線を僕達の方に向けて言った。
「それはだめだ。わがまま言って資料をもらって、これ以上迷惑はかけられないよ」
半分恐喝みたいなこと言ったくせに、随分律儀だな。
そして、僕達が密談場所に選んだのが…
「暑い…」
僕がぼやく。
僕らは、あのままバスに乗って紫雨町のあと、停留所を6つほど過ぎてから降りた。
そこは、高台フラワーワールド。季節の花がたくさん咲いている、高台市最大の植物園だ。
小学生の時に家族で来た以来。
1人400円の入園料を払い、中へ入った。平日の午後だというのに、一足先に夏休みを迎えた家族連れで賑わっている。
「わぁ、きれい」
明日花がキョロキョロと、周りを見渡す。
そういえば、明日花は花が大好きだったっけ。
「ヒマワリだ!あ、百日草!菖蒲もある!」
花にも詳しかった。そりゃそうか。明日花のおばあさんとお母さんは、華道の先生で、お父さんは庭師さんなんだから。
「あれ、なんて花?」
ハジメが指差す方には、淡い紫色の小さな花が束になって咲いている。
「あれは、ライラック。とっても良い香りなの。でも、7月って遅いな。本当は、5月から6月中旬くらいまでだよ。」
「へぇ。やっぱすごいな、明日花」
ハジメは本当に感心したみたい。
「そんなことないよ。ハジメに比べたら全然。私の知らないこと、ハジメはたくさん知ってるもん」
そう言って明日花は、小走りに紫陽花の道にかけていった。そしてくるっと振り向き、笑顔で
「早く、早く」と手招きしている。
「ここ、来て良かったな」
ハジメが眩しそうに、明日花を見ながら言った。
「作戦会議の場としてってこと?」
「まあ、それもそうだけど。それより明日花があんなに喜んでくれて良かった」
僕はハジメを見た。
なんだ、こいつも僕とおんなじこと考えてらぁ。
「来年は、もっと早く来ようよ。春には、ここ一面チューリップ畑になるんだって。きれいだろうなぁ」
「そうだな」
次回、やっと事件の詳細が明らかに!別に隠してわけじゃないのですが、色々ごちゃごちゃノロノロやってたら、こんなに遅くなってしまいました。ごめんなさい。