12.交渉
長い長い校長の話が終わり、生活指導の先生が夏休みの過ごし方について話をしていた。
「警察の世話になる様なことをするんじゃないぞ」
先生は、そう言って話を終えた。
ごめんなさい、先生。これから僕ら、警察の世話になります。
こうして1学期の終業式も終わった。これから、1ヶ月の長い夏休みに入る。
教室に戻って通知表が返され、半泣き。とりあえずホームルームも終わった。
この後、部活がある人や教室で1ヶ月の別れを惜しむ者、おしゃべりしている奴の中、僕達3人だけは、ものすごいスピードで教室をあとにした。
僕らの住む紫雨町から高田市警察署まで、バスで20分。その間、ハジメにきいてみた。
「僕、何て頼めばいいの?」
ハジメはシレっとした顔で言った。
「普通に、事件の資料を見せて下さいって言えばいいんだよ」
そんなんで、見せてもらえるのか?
一応、熊本警部さんに1本電話を入れておいたので、警察署の前で待っていてくれた。
「今日は、お母さんとじゃないのかい?」
「はい。2人は僕の友人です。こっちが五十嵐一。こっちが美山明日花。2人とも口は固いです」
「口?まぁいい。私は警部の熊本だ。よろしく」
2人と握手する警部さん。明日花はかなり、しぶってたけど。
「で、光太君。今日は何の用だね?」
「えっと…あの…」
「ああ、ここじゃ暑いし中に入ろう」
警部さんと僕らは署内に入って行った。
「さぁ、入りたまえ」
僕達が通された場所は、さほど広くない会議室の様な部屋だった。僕らが座ったのを確認して、警部さんは口を開いた。
「さぁ言ってごらん?」
僕は腹をくくり、おそるおそる言ってみた。
「あの…今回の事件の資料が見たいんです」
一瞬、時が止まったかの様な沈黙。警部さんも予想外だったみたいで、ぽかんと口を開けていた。でも、すぐに我にかえって腕組みした。
「だめだ。そんなもの、君らに渡すわけないじゃないか」
やっぱりだめか。だめに決まってるよな。どうすんだよ、ハジメ。
ここでハジメが口を開いた。
「それは、殺人犯の息子に渡すわけがない、という意味ですか?」
僕と明日花は、ぎょっとしてハジメを見た。
どうしよう。警部さん、怒ってるかも。
おそるおそる警部さんを見る。警部さん、また驚いている。
「ちょっと、ハジメ!」
小声で明日花が言った。
「そ そういう意味ではなくて!大体、一般市民に、事件の資料なんて渡せるわけないんだ!」
ハジメは食い下がる。
「一般市民ではありません。彼は立派な関係者だ。父親が関わっている事件の詳細を知りたいと思うのは、当たり前です。それでもだめなら、せめて容疑者と、その容疑者の住所だけでも教えて下さい。あとは自分達で調べます」
言い終わって、ハジメは椅子の背もたれに寄りかかり、
「どうする?」って顔で警部さんを見ている。
頼むから、そんな顔しないでくれ!
警部さんは、悩んでいる様で、しかめ面でじっと腕組みしていた。
でもその後、携帯電話を取りだし、どこかにかけた。「ああ、小泉、俺だ。至急、中野礼子殺しの資料をコピーして、持ってきてくれ。……。第三小会議室だ。……。そうだ。頼んだぞ。」
や…やったぁ!
僕と明日花は、顔を見合せガッツポーズ。
ハジメはフンッと笑った。
電話を終えた警部さんが、僕らに向きなおって言った。
「君らは、本当に中学生かね?」
警部さん、僕と明日花はそうだけど、我らのホームズ、ハジメは普通の中学生じゃないよ。
やっと資料をゲットです。あともう一話余分な話に付き合って下さい。