11.夏休み
「また随分と、思い切ったことを言うな。」
「自分でも分かってるよ。バカなこと言ってるのは。中学生の僕が殺人事件の犯人をつきとめるなんて。でも父さんを信じるって決めたんだ。だけど信じてるだけじゃ、どうにもならない。だから僕、出来る限りまでこの事件のことを調べたいんだ。それで少しでも、父さんの無実を証明できるものを見つけたい。そして犯人をつかまえたい。僕の父さんに罪をなすりつけた奴を探したい」
ハジメは腕組みをして聞いている。明日花も静かに僕を見つめている。
「じっとしてても何も始まらない。こんな時だからこそ、子供だからって理由で逃げちゃいけないと思うんだ」
静かに話を聞いていたハジメが、腕組みをやめ顔を上げた。そしてニヤっと笑顔。
「よくぞ決心した。それでこそ我が友だ」
「協力してくれるね?」
「もちろん」
明日花が大きく頷いた。
「ああ」ハジメも頷いて、クイッと中指で眼鏡を押し上げた。
「まずは、事件の詳しいことが分からないと、何も出来ないな。ニュースも新聞もそんなにあてになる情報じゃないし、おまえの父さんが犯人だって決めつけてる」
僕は悔しいけど頷いた。
「じゃぁ、どうするの? 光太も詳しいことは聞いてないんでしょ?」
「うん」
「事件の資料がなきゃ何もできやしない。正確な資料なしで動けば、空回りして真実を見失うだけだ」
「じゃぁどうするの?」
「そこで、だ」
ハジメが人差し指をたてた。
「警察署にのりこむぞ」
「えぇ!?」
僕と明日花は仰天。
「そんな、中学生に事件の資料なんて見せてくれるわけ…」
特にあの警部さんは…。
「ないだろうな。でも、おまえがいる。おまえは、少なくとも部外者ではないはずだ。どうにかすれば、資料を見せてもらえるかもしれない」
「ぼ…僕が頼むの!?」
「いや、俺も口添えして何とかする。幸いにも、明後日から1ヶ月の夏休みに入る。明日の放課後、高田市警察署に行って、夏休みに入ったら本格的に捜査開始だ」
帰宅すると母さんが夕飯の用意をしていた。
僕は素直に言ってみた。
「母さん、今日かっこよかったよ」
「何言ってんの」
母さんは、包丁を持つ手を休めず、キュウリを切っている。
「父さん、母さんに惚れ直しちゃったんじゃない?」
「親をからかうもんじゃありません」
僕はへへっと笑ってソファーに座った。
「母さん、僕も父さんを信じるよ。父さんは、そんなことしてない。必ず帰ってくるって」
母さんの手が止まった。そしてニコっと笑う母さんは、とてもきれいだった。
信じるよ、父さんのこと。だから母さん、待ってて。僕がきっと父さんの無実を証明してみせる。
そう、心の中で決意を新たにした。
「そうね。ちゃんと帰って来てもらわないと。うんと怒って、うんとわがまま言ってやらなくちゃ。光太も欲しいもの、父さんに買ってもらいなさい」
母さんがわがままを言う権利は大有りだね。
「うん、そうだね。…でも僕、父さんと母さんと美味しいもの食べに行きたい。いつもは、行けないような高いお店」
「あら、いいわね。お父さんのおごりで」
僕と母さんは、2人で吹き出した。
「ねぇ、光ちゃん」
「なぁに?」
「母さん、考えたんだけど、夏休みの間、倉尾のおばあちゃんの家で過ごさない?ここじゃ近所の目もあるし、居心地悪いでしょ?」
倉尾のおばあちゃんは、母さんのお母さんだ。高台市の隣、倉尾市に住んでいる。
「あそこなら静かだし。どう?」
倉尾から、ここ紫雨町まで駅が6つ離れている。今月のお小遣い、電車賃で消えそう。でも僕は賛成だ。
「いいと思う。母さん、ずっと無理してたから、ゆっくり休むといいよ。倉尾からなら、ちょっと遠いけど、電車乗って部活も行けるし」
「あんた、部活行くつもりなの!?」
僕は頷いた。
「秋には新人戦もあるし、バスケ頑張るって、父さんと約束したから」
「そう。光太がやりたいなら、やるといいわ。電車代なら、母さん出してあげるから」
やった! これで、どうにか捜査の方に資金がまわせそうだ。
こうして、僕らの夏休みが始まろうとしていた。
新学期が始まってしまいました。頑張ります。