10.決意
「父さん!」
思わず、僕は立って叫んでいた。
「光太…」
父さんは、僕らの反対側の椅子に座った。
そして、いきなり机に手をつけて頭を下げたのだ。
「すまない!本当に2人には悪いことをした!」
父さん…
約2週間前に出ていった、あの父さんとは大違いだ。
髪はボサボサ、顎には無精髭。僕は見ていられなくて目を伏せた。
「あなたがやったんですか?」
開口一番、母さんはストレートにきいた。
す…すごいなぁ。僕なんて、こわくてきけなかったのに。
母さんって強い。
「やってない! 俺はやってない! これは絶対だ! 信じてくれ!」
父さんは悲しそうに、必死でそう言った。
「本当に?あなたはがやったんじゃないんですね?」
「本当だ。…朝起きて…ベッドを見たら…礼子が……」
頭を抱えて、うなだれる父さん。
そうだ。父さんは死体の第一発見者だった。
「だがもういいんだ」
父さんはズボンのポケットから紙切れを出した。それを広げると、僕は目をひんむいてしまった。
離婚届け……
ぺらっぺらの紙切れ。こんな紙切れど、家庭は崩れるのか。
「父さん…何これ…?」
「もうお前達には迷惑をかけたくないんだ。さおり、別れよう。お前は光太と2人、新しい人生を歩めばいい。1度お前達を捨て、その上こんなことにまで巻き込んで。もう苦しい思いを、させたくない」
母さんは離婚届けを、ものすごく恐い顔で睨み付けている。
僕は何も言えず、ただじっとしていた。
これは僕が何か言うことじゃない。父さんと母さん、2人の問題だ。
母さんは、すっとその紙切れを受け取り、そしてなんと…
ビリビリビリ
なんと母さん、離婚届けを破いてしまった。
「あなたがやっていないと言うのなら、私は信じます。たしかに今苦しいけれど、あなたと別れるのはもっと苦しい。私はあなたと、共に人生を歩むと決めたんです。あなたは勝手に出ていったんだから、私も勝手にさせてもらいます」
僕と父さんは、呆然と母さんを見つめていた。
「えっと…さおり…?」
父さんが母さんの名前を呼ぶ。
母さんは、ガシッと自分のバッグを持って、鼻息荒く面会室を出ていった。
あとに残された、僕と父さん。
「父さん、僕も父さんを信じる。だから、もう少しここで頑張って」
僕も立ち上がった。
「光太、ありがとう。 母さんにもそう伝えてくれ」
「うん」と僕は頷き部屋をあとにした。
「それはまた、すごいな。おまえの母さん」
ハジメが眼鏡をずりあげながら言った。
僕も頷く。
「でも素敵ね。おばさんとってもかっこいい」
明日花は、僕の隣で感動している。
ここは、学校の近くのマク○ナルド。
父さんとの面会の後、学校帰りのハジメと明日花の2人と、ここで落ち合う約束をしていたのだ。
で、さっきの反応。
そして、僕はここで言わなきゃいけないことがある。
「で、おまえはどうしたいわけ?」
ハジメが唐突にそう言った。危うく、僕は飲んでいたファンタを吹き出すところだった。
「えっ!?」
どうして分かったんだろう。
「だから、それでおまえはどうしたいんだ?」
「2人に手伝ってほしいんだ」
「何を?」
明日花がキョトンとしている。
僕は深く息を吸って、周りに聞こえない様に低く言った。
「僕、真犯人をつきとめる」
明日から新学期です。忙しくなると思いますが、頑張って更新します。今後も光太達をよろしくお願いします。