ダンジョンとらべらー?
『ダンジョン』
この世界には、無数の『ダンジョン』が存在する。
形は様々、石造りの迷路から、土壁で出来たただの洞窟、超巨大な大木の内部に出来た迷宮、草原という名の迷宮…どれも魔力の吹き溜まりといった特徴がある。常に魔力が集まっている。そして魔力の集まる元が無くなったその時『ダンジョン』は『ダンジョン』でなくなる。魔力の元、それはモンスターであることもあるし、宝石、アイテム、そして「魔王」と呼ばれる存在…ダンジョンにはそれがあってはじめて『ダンジョン』と呼ばれる。それがなくなった『ダンジョン』は只の迷宮、洞窟、草原、空間でしかない。
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どうしてこんな事になってしまったのだろう?私はしきりに首を傾げる。
「すげえなマリ!もう、なんだかそれ以外の何ものでもないような気がしない!」
「ふがっふがっふががー!?ぶがっ」
「ふががー!ぶがふががー!ぶがー!」
現在ダンジョンの入り口からチョット入った少しばかり開けた場所。通常の通路から少しはずれ、土が剥き出しになっている広場である。その広場の中心で私の足元を四つん這いで這いつくばりながら2や人の兄弟は非難の声を上げている?
「いやー、さすがに魔力を少しでも感じるためとは言え、ダンジョンで目隠しってチョットやり過ぎじゃないか?」
「いいや。私はとうとうこの!この!馬鹿共にはいい加減に手加減することをやめたわけ!」
と、言いつつ鞭を振るう。
「さっさと進みなさいよ!このゴミムシどもめ!」
鞭を振るいつつゲシゲシと蹴りを入れる。
「目隠しをしてるのに進めとは…」
「いいのよ!もうこうでもしないと!働かない!逃げる!やかましい!」
グイッと首輪に繋がっているロープを引っ張る。急に首を引っ張っられた兄弟は、上体をそらしアワアワ言っているようだ。
「マリ…なんで今引っ張った?」
「…八つ当たりよ…」
そう言ってロープを緩め、尻を蹴りつける。
「さっさと進むわよ!魔石を見つけないと帰さないからね!」
「フガー!フガー!フガー!」
「何言ってるか分からないわよ?黙ってすすんで、黙って見つけて、黙って死になさい…?」
「マリ…猿轡くらい外してやったらどうだ?なんかこいつらが可哀想になってきたよ」
「その同情が命取りよ」
「いや、分かってはいるんだがな…?あんまりにもな」
ダカー(元魔王)が兄弟に同情している…そんなに非道い事を私はしているか?と思いながら私はダンジョンの奥にすすんでいった。
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私はダンジョンへ向かうべく1度ギルドへ戻っていた。
ギルドに入ると丁度暇だったのか受付のリオがカウンターでぼーっとしていたが、こちらを確認すると
「マリ?ビシソワーズさん何時荷物を届けてくれるのか聞きに来ていたんだか…」
そうだった!あの兄弟をシバいて借金を徴収する事に夢中になっていた。
「ごめんなさい!今からリナト村に行こうかと思って、許可を支部長に…」
「あー支部長ね…今、本部の人と会議中らしいから…伝えておこうか?」
あれ?本部とかめったに来ないのに…めずらしい。まあ、それはそれとして、
「ごめん、お願い出来る?」
「良いわよ?リナト村か…今からだと今日は帰れないわね?ゼフ君にも言っておこうか?なんなら早めに今日はあがってご飯作ってあげようか?」
「いいの?リオなら問題ないし、お願いしょうかな?」
「いいわよ?今度何か奢りなさいね?」
「もちろんよ!ゼフの事宜しくお願いします。」
「マリがお酒飲めるんならアンタもちで飲むんだけどなー?今夜はゼフ君とおしゃべりしながら過ごそうかな?」
「あんまり遅くまで起きてないでいてね?」
アハハ、と笑ってごまかしたリオを見て私はギルドを出た。そして馬鹿兄弟が依頼をほったらかしたビシソワーズさんの家へむかった。
「本当に申し訳ありませんでした!」
私はビシソワーズさんに土下座する。この世界に土下座の文化はないが誠意は伝わったようで、ビシソワーズさんは
「いいのよ、いいのよ。あれから音沙汰ないから心配しちゃってね?あ、これね、クッキー作ったのよ。あと、庭で育てたハーブで作ったハーブティーとね、どう?美味しい?今度美味しいバターとチーズが手に入る予定だからケーキとか作っちゃう予定なのよ?ぜひ食べに来てね?」
こっちに来るのを忘れてたなんて言えない。これは言えない…言えないよ。
「それでは、荷物を預かりますね?」
「ええ、リナト村のジュウまでお願いね?まだ独身の息子なんだけどいい娘がいたなら紹介してくれない?」
おおっと、 めんどくさい依頼が入ってきたが適当に濁しつつ
「わかりました、良い娘がいたら…」
と、私が流そうとすると
「いやね?マリちゃんが駄目ってワケじゃないのよ?ただ、まだマリちゃんには早いかなーと思ってね?それにギルド関係ならお友達も多いでしょ?だからね?気を悪くしないでね?それにね、それにねマリちゃんはきっとこれからなんだろうけど、ジュウったら胸が小さい子はチョットとか20にもなってそんなことばっかりいってるのよ?女は胸だけじゃないじゃない?だからね…」
ビシソワーズさんが言葉を続けるごとに我慢する私の精神力が削られていく、おばちゃん達ってこの手の話好きだよなーと思いながら時間は過ぎていった。
暫くして、
「長かったな…」
「そうね…」
思った以上に…予想外に時間がかかってしまった。あの兄弟もあのまま放置はさすがにかわいそうだと思い急いで戻ってみると、
「遅いぞ…暴力女!我らを殺す気か?」
いい天気の往来で、ぐるぐる巻きのまま直射日光で焼かれた彼らは、かなり水分を失ったようで干からびているようだ。が、まだまだ元気なようで、
「きっと僕らを直接じゃなくて過失のつもりで殺る気だよ…借金してるのは兄さんだけなんだから、兄さんだけ逝ってよ」
余裕をもって諦めたようにつぶやく弟に私は、
「バカ兄が逝ったらアンタが払うのよ?」
ニッコリと微笑んだ私に絶望した表情をみせた弟は、鬼とこぼして気絶した。
「言葉だけで逝かせるとは…」
ダカー(元魔王)も感心しているが、何の保証も保険もないこの異世界なのだ。残念ながら甘さは見せていられない。取れるところからはキチンと取る、今は絶対回収できなくても見せしめをしておかなければいけない。絶対に諦めない姿をみせていないと返さなくなる不届き者が現れる。舐められないようにするのもギルドの仕事の一環なのだ。
「さあ、さっさと出発するわよ!?いつまで寝てるの?」
愛用の鞭を取り出し地面を叩く。
「これくらいでへばるような身体じゃないでしょう?アンタ達?」
「くっ!この我が知的エルフの華奢な身体にそんな無理がきくわけなかろう?この腐敗した脳筋娘が!」
言い終えたあと軽く鳩尾を蹴飛ばし兄を悶絶させる。そして先程気絶した弟の方へ近づき
「何時まで気絶したふりをしてるの?そろそろ起きなさい?」
「僕もカラダは貧弱なエルフなんだけど…」
「弟のアンタは獣人の頑丈な身体つきをしてるじゃないの。さあ、ロープを外すから兄のほうを持ちなさい?」
そう言って私が身体を縛っていたロープを外す。
「こんなロープあんたなら何時でも千切って逃げれるのに何で逃げないの?」
「逃げてほしいのですか?逃げたらもっと非道い目にあうんでしょ?」
と、言いながらさっきの蹴りで気絶した兄を抱え上げる。
「勿論そうだけど、確かに借りたのは兄だけよ?逃げようとおもえば1人で逃げれるんじゃない?」
微妙な表情でワイルドに笑う弟にはエルフ耳なのか?獣耳なのか?がぴくぴく動いていた。ハーフの兄弟でも身体つきがこんなに違うのは異世界だからだろう。そんなことを考えていると、
「どっちも獣人とのハーフエルフなのに、兄はアホで華奢。弟は冷静で屈強なのか…女の子ならかなり萌えるのにな…なんて残念な兄弟なんだろう?」
「言ってる意味はよく分からなかったけど、僕らの存在意義を否定されたのだけはよく分かりました。」
「マリ、お前は本当は非道い奴だったんだな?」
うっかり零した言葉は私の人間性を疑う発言だったらしく、
「つい本音が…」
と続けた言葉に
「少しは自重しろよ?」
「アンタに言われるとは思わなかったわよ…」
ふぅ、とため息をつき
「さ、出発するわよ馬鹿兄弟。今日中に村まで行くからね!キリキリ進むわよ!」
そして私達は出発した。
保存する前に消える…お約束って地味に答えますね。