弟様へ…ぇ?
「変態とは…ふふっ、まあ、否定はしませんが…?」
私の言葉にファナは平然と答える。
「アイツ認めちゃったよ…」
ダカー(元魔王)がため息(?)とともにつぶやく。
「しかし、その変態を相手取り仕事をこなしているマリ様も大した変態だと思います」
彼女はそう、なんでもないかのようにかえしてきた。
「そ、それだと変態相手の仕事をしてる人間は、全て変態ということになるんだけど?」
「そういった行為をするならそうなりますね?」
そういった行為とはどういった行為なのか…?
ファナの言った行為が、回収作業の際における最終手段がそれなら私も変態になるのか?いやいや?変態相手に鞭を振るい屈服させるのは楽しみじゃないんだからね…タダのお仕事なんだからね!
「そうなりませんか?」
「なりません。」
再度詰め寄るファナ。この変態め!
お互いに顔をつきあわせ緊迫した空気が流れる…やってやろうか?
「ええっと、そろそろ食事にしませんか?」
ゼフの提案に私たち2人は互いの矛を納める事にした。
しばらく食事に皆夢中になり話は弾む。ファナの料理はけして豪華ではない。むしろ質素と言ってもいい。簡単な料理であったが、尋常でないほどの料理の味に正直な感想が漏れる。
「変態の癖に料理は最高ね、くやしいけどごちそうさま」
「これくらい朝飯前です」
「マリさんは料理しないのですか?」
「姉さんは食べるのが専門ですから」
ゼフが応えてファナがこちらをのぞき込む…堪えきれなくなった私が視線をそらすと、 おもむろに彼女は眼鏡に指をあて位置を合わせながら私にむかって一言。
「女子力…たったの5か…ゴミめ」
スカウターかコイツ!なんでそんなの知ってるんだ?
「ケンカを売ってるんだな?買うわよ?表に出ようか?」
「すぐ暴力に訴えるのは野蛮な証拠ですわ。さらに女子力下がりますよ?まあ、これ以上下がりようがないでしょうがね」
殺さんばかりの視線を投げつけるが、平然として受け流される。
「まあまあ、2人ともそれくらいにして下さいよ。夜も遅いですし…ね?」
ね、の所で首を傾げてにっこり微笑むゼフ。
か、可愛い…
「ゼフ先生がそうおっしゃるなら…」
頬を赤く染めてそう応えるファナにイライラする。どうしてくれようかこのショタコン。大体何で今日いるんだ?ゼフはあまり体が丈夫ではないので出歩かない。用がある人は訪ねて来るだろうがそんなに頻繁に訪れるものではないだろう?まして弟は細々と絵本を書いて売ってはいるが、売れっ子というものではないはず。本人がそういうからそうなんだろうが?
そう私の可愛い弟の職業は、絵本作家です。
「話は変わりますが、今日やってきたのにはわけがあります。今度大々的に絵本を売り出そうという話になりまして…」
急に話を振ってくるファナにおどろきつつ、
「え、ええ?だって絵本はどうしても単価が高くなって貴族の趣味みたいなものだって言ってたじゃない?売れるの?」
「はい。今回この話しにはある技術革新と、それにともなう商業的な成功にあります。そしてその成功を導いたのが…経営者というか、トップというか…」
なぜか言いよどむファナ。今までは彼女が仲介になって絵本をの依頼をとってきていたのだが、彼女の所属している組織がゴタゴタしているということで、最近はまったくこちらに来ていなかったのだ。
「うちのボスがですね、ぶち込まれまして…」
「あのおっちゃんとうとう捕まったか…」
「いいひとでしたけどね?」
ゼフはいい人と言うが私はいつも目が笑ってなくて凄く警戒してたんですけどなにをやらかしたんだろう?
「簡単に説明すると、どこぞの貴族から詐欺で大金を騙し取ったのです」
「それは捕まるでしょう!!」
「いえいえ、それでも先方も納得していてよかったんですが…」
騙し取るのは良くないことだと思いますよ?
「その貴族もまあ、かなり余裕のあるところだったんで実際痛くも痒くもなかったそうなんです、5皇金貨分ほどですが…」
「一体どんだけ金持ってるのよ?痛くも痒くもないって?」
「それで、その貴族が仕返しというわけではないそうなんですが、そこの貴族の末娘さんが事業を始めてましてなかなかの敏腕であれよこれよというまに乗っ取られました。」
あれよこれよって…
「見事な手腕でしたよ。ぐうの音もでませんでした、それでそのまま組織はその方の事業の一環となってしまいました。」
「あらまあ、」
「ボスもあれでなかなかあくどい事をやっていたので、かなりため込んでいたんですが…」
「全部もっていかれたと…」
「はい、根回しはうちのボス以上というとんでもないコネクションを持っていると思われます。」
これはあの娘だよね?たぶん…
「そ、そうなんだ」
「そうなんですよ、残念ながら…」
ちっとも残念でなさそうにファナが続ける。
「それで、話は戻りますが最近巷に本を多く見かけるようになったと思いませんか?」
「…そうね…」
この世界の本は基本的に手書きで一冊づつ作るタイプのモノなので非常に高価だ。ゼフが絵本を書いている事と、現代からきたことで誰かが本を持っていても違和感を感じないが、まだ大量に印刷する技術がない世界では本はやはり高価なモノで見かけるものではないのだと改めて感じた。ちなみに私が見かけた本はちょっといかがわしいタイトルだった。
「なにか不愉快なことでも?」
顔に出ていたのだろう、ファナが訝しげにのぞき込んでくる。
「いえ、確かに何冊か本を持っている人を見たわ」
「ちょっとエッチなタイトルではありませんでしたか?」
「何で知ってるの?」
「出してるのうちの組織ですから」
?今なんといったんだ?
「大人向けの本を出版しているのはうちの組織です」
「声が大きい!!ゼフもう遅いから早く寝なさい。姉さんはファナさんとゆっくりお話しないといけないのでね」
「いいじゃないかマリ?ゼフだって興味のあるお年頃だろう?」
「ややこしくなりそうなときだけしゃべりかけてくるな!このヒモダガー!!」
「ヒモとは聞き捨てならないですわ」
「なんでそこであんたが口を挟むのよ!?」
「ヒモというのは完全に食べさせてあげてる関係よ?」
勝ち誇ったように言われた?
「私には現在同棲している4際年上のヒモの彼がいます」
ど、どんなカミングアウトだよ…聞きたくない聞きたくない。
「まったく家にはお金を入れてくれません。当然です。無職ですから、ヒモですから。それどころか、定期的に…具体的にいうと毎日小遣いをせびってきます。」
ちょっと涙目になってきたよ。
「ゼフ先生は素敵です。体が弱くても出来ることをしてお金を稼いでくれます。ですがそれ以上に可愛いくて優しくて素直で明るくて健気で…結婚してほしい」
最後は小声だったし聞こえなかった事にしよう…どうしてこんなこと言い出しちゃったんだ?ああ、ヒモ発言のせいか…
「そして!!このダガーはずっと腰に張り付いてるだけだから、せいぜい腰巾着なのです」
なにを言っているんだろうこの残念な人は?
「そういうことで今日は帰ります。お疲れさまでした…」
フラフラっとした足取りで彼女は帰ってしまった。
「結局なにを言いたかったの?」
ゼフに聞くと、
「絵も文章も大量に印刷出来る魔法具が手に入ったんで、これを使って本を安価で大量に売り込もうという話です。少々値が張っても売れることは証明できたんで、僕の絵本も売り込んでいきますって言ってたよ。」
なるほど、夢の印税生活か…
「前より圧倒的に安くなるんで、儲けはそれほどでもかな?好きな事をやって暮らせてるんだから、そんなに贅沢は言わないよ?」
なんていい子なんでしょう…でも私は、
「姉さんはゼフの本が売れて売れて売れまくって働かなくてもいい生活がしたいです。頑張って下さい!!」
ちょっと苦笑を浮かべるゼフに、
「期待してますよ?」
それだけしか言えなかった。
ファナがなぜ変態なのかは後日談でたぶん語ります。具体的に言うと露出癖があります。さすがにゼフ(13)の前では語れない。回想にしたら異常に長くなりそうだったので…ちなみにヒモ彼氏は冒険者でギルドに借金してます。そのへんの話も後日多分書く。