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ハルモニア  作者: 岸部碧
第二章
8/28

あの頃

 南の空で輝く太陽の光を受けて、春の金髪が輝く。

 寺からの帰路を歩きながら、春はスマホの画面を見つめて僅かに眉を寄せた。

「一応撮ったはいいけど……どうする、本当に送るか?」

「え? 送る為に撮ったんじゃないの?」

 至極真面目な表情で問われ、那由多は首を傾げる。

 彼が持つスマホの画面には、清子の墓の前で気恥ずかしそうにはにかむ那由多が映っている。

 納骨式の前に言っていた、春の父である久遠に送る為に撮った写真なのだが、春は難しい顔をしては悩む素振りを見せた。

「これ見てテンション上がった親父の相手すんの面倒だしな……」

「大丈夫だよ。私なんかでテンション上がる訳ないよ」

「お前、親父の変態っぷりを知ら……ああ、いや、なんでもない」

 不自然に言葉を切った春にきょとんと那由多が目を丸くするが、春はそれ以上何も言うつもりはないのか苦い顔をした。

 彼の中には、初めてこの町へ来た夏の日々が思い浮かんでくる。

 久遠と彼女達の家に着くなり、早々に紹介を済ませて子供二人遊んでくるように清子に追い出された。帰宅後も、殆どの時間を那由多と二人きりで過ごしていたように思う。

 ――ばーさんが那由多を親父から遠ざけてたからな……。

 それなら知らなくても無理はないと心中で頷き、ついでにデータフォルダも閉じた。

 ただでさえ親馬鹿な父親の相手は疲れる。もっと、心身共に余裕がある時に送ってやればいい。

 そう自己完結をし、スマホをポケットに突っ込んだ。もっとも、その時が来るのかは定かではないが。

「そういや那由多、お前携帯は?」

 結局メールを送らずにスマホを仕舞ってしまった春を不思議そうに見つめていた那由多が、僅かに首を傾げる。

 彼女のその仕種の意味がわからず、つられるように春も首を捻った。

 昨晩は色々とあった為に明日にしようと考えていたのだが、寝て起きるとすっかり抜け落ちていた。これからの事を考えるなら、お互いいつでも連絡を取り合えなくてはならない。

 その点、現代はとても便利なもので溢れている。遠く離れた場所であっても、電波さえ届けば数分と経たずに連絡を取ることができるのだから。

 しかし首を傾げた那由多はぱちぱちと数回瞬きをすると、あっけらかんに答えた。

「持ってないよ?」

「……はあ? お前、高校生でそれはねーって」

 首を傾げた時点でなんとなく予想はしていたが、春はナイナイと首を振る。

 小学生でも携帯を持ち歩く時代だ。都会に比べれば物騒ではないかもしれないが、それでも万が一を考えて持たせる大人も少なくはないだろう。

 呆れたような春の反応に、那由多は僅かにむっとした。

「お祖母ちゃんも持ってなかったし、必要な事は直接言うもん。お出かけだって、学校か買い物にしか行かないし」

「どうりで定期連絡がいつも手紙な訳だ。さすが、雪女はアナログだな」

 はあ、と溜息を吐き出した春は、むくれる那由多を気にもとめずに再びスマホを弄り始める。

「よし、携帯買いに行くぞ。店の場所は知ってるな?」

「え? え? でも、お金もったいないよ。貯金だって二人暮らしで足りるかわからないのに……」

「はあ?」

 意味がわからないといったように顔を顰めた春。しかし、那由多こそ彼のその反応がわからない。

 戸惑ったままにとりあえず祖母の貯金がある事を教えようとすると、春は何かに気付いたようで「ああ、なるほど。わかったわかった」と一人頷いた。

「お前、ばーさんに通帳もらっただろ、お前名義の。お前はそれの事を言ってるんだろうけど、口座に入ってるのはばーさんの貯金じゃねえぞ?」

「え?」

「毎月、親父がある程度振り込んでくれる約束だ。何かあればもっと出してくれるし、携帯どころか金全般は心配しなくていい」

 あっけらかんに言う春に、那由多はぱちぱちと目を瞬かせる。

 そんな話は全く聞いていない。彼から聞かされるのはそんな話ばっかりだ。

 いくつか操作して父親へメールを送った春は、スマホをポケットに仕舞って僅かに肩をすくめた。

「それにしても、それを貯金って教えるあたり強かなババアだな。まあ、あいつの金ならいいか」

「い、いいの?」

「いいんだよ。『水無月』は水を操る一族の総代で、それなりに力も金も持ってる。だいたい、同じ一族のお前と俺が使うんだから気にする事なんかない」

「で、でも……」

「大丈夫だって。“お礼”はちゃんと送ったし」

 なっ、と笑った春は、お礼の意味がわからず疑問符を浮かべる那由多の手を引いた。

 その笑みが記憶の中の少年と重なって、那由多は自然と目を細める。あの頃、彼の金色の髪が好きだった。太陽の光を反射してきらきら輝く髪が、眩しくて仕方がなかった。

 蘇る思い出に笑みが零れた時――ふと、春が足を止めた。

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