成長
庭の黄色い花畑で、小さな男の子が走り回っている。
黒い髪。大きな目。よく笑う子。ハノは、四歳になった。
ハノは、ノナが旅先で拾った子どもだということにした。
菜の花や子ノナは金色の髪で、ハノとは髪の毛の色が違うから。
もう少し大きくなったら、本人にもそう伝えようと決めている。
「ママー! おはな、きれい!」
ハノは、花畑を駆け回る。
転んでも、すぐに立ち上がる。泣かない。笑ってまた走り出す。
菜の花が、縁側からその様子を見ていた。
四十を過ぎた菜の花は、白髪が少し目立つようになった。
隣には、リオンが座っている。
「元気だな」
「うん。元気すぎるくらい」
「魔王だったとは思えないな」
「うん」
二人は、微笑み合った。
母ノナは、六十六歳になっていた。家の中で過ごすことが多くなった。
でも、天気のいい日は縁側に出て、ひ孫の姿を眺めている。
「おばあちゃん!」
ハノが、母ノナのところに駆け寄ってきた。
「おや、ハノちゃん」
「はい、おはな」
小さな手に、黄色い花が握られている。
「ありがとう。きれいだね」
「うん! おばあちゃんにあげる!」
「嬉しいよ」
母ノナが、ハノの頭をなでる。ハノは、嬉しそうに笑った。
「ハノちゃん」
「なに?」
「大きくなったら、何になりたい?」
ハノは、少し考えた。それから、にっこり笑って答えた。
「おはなやさん!」
「お花屋さん?」
「うん! みんなに、お花あげるの!」
お花屋さんになりたいと言う、普通の四歳の男の子。
菜の花は、胸が熱くなるのを感じた。
ハノは、花が大好きだった。
「ふんふふーん」
今日も歌いながら、水をやり、雑草を抜いている。
子ノナが、そんなハノを見て微笑む。
「ハノは、本当にお花が好きだね」
「うん」
「どうして?」
ハノは、少し考えた。
「んー、わかんない」
「そう」
「おはなは、みんながすきだから」
子ノナは、ハノを抱きしめた。
「ハノは、優しい子だね」
「えへへ」
時が経ち、ハノは、九歳になった。
学舎に通い、友だちと遊び、花の世話を手伝う。
普通の男の子として、育っている。
ある日の夕方。ハノが、庭で花に水をやっていた。
菜の花が、隣で見守っている。
「ノアおばあちゃん」
「ん?」
「ぼくね、ゆめをみるんだ」
「夢?」
「うん」
「どんな夢?」
「くらいところにいる」
菜の花は、少し緊張した。
「だれもいない」
「そう」
「ずっと、ひとりでないてる」
ハノは、じょうろを置いて、菜の花を見た。
「ぼく、ひとりぼっちだったの?」
菜の花は、言葉を探した。どう答えればいいのか。
「……そうだよ」
菜の花は、正直に答えた。
「ハノは、昔、一人ぼっちだった。長い間、ずっと」
「そうなんだ」
「でも、今は違うでしょう?」
「うん」
「ママがいる。おばあちゃんたちもいる」
「うん」
「だから、もう一人ぼっちじゃない」
ハノは、少し考えていた。それから、にっこり笑った。
「そうだね」
「そうだよ」
「おばあちゃん、ありがとう」
「何が?」
「んー、わかんない」
菜の花は、ハノを抱きしめた。
「こちらこそ、ありがとう」
ハノは、不思議そうな顔をしていた。
でも、嬉しそうに笑って、菜の花を抱きしめ返した。
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本作は完結まで執筆済みで、全56話・約14.9万文字です。
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