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母の名、子の名、そして菜の花  作者: 劇団だるい
第四章 お届けもの
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ハノの母

 菜の花と子ノナは、その日のうちにシオナに報告した。

 シオナは、既にマルナから話を聞いていた。しかし、子ノナの話を最後まで聞いた。


 話を聞き終えたあと、シオナは長いこと黙っていた。


 やがてシオナが口を開いた。

「分かりました。四つの聖域では、しばらく祈りを続けます。祈りが届いていることにしておいたほうが、何かと都合がいいでしょう」


「それは、東の聖域としては、知らないことにするということですか?」

「はい」

「それは、他の聖域をだますことになるのでは?」

「構いません」

 シオナは、にっこり笑った。

「彼らは、瘴気が出なければ、何でもいいのです」

「それは、まあ」

「私は、最も弱い聖女だったかもしれないけれど、胆力はそれなりにあるのです」

 シオナはもう一度、笑った。


「ただ、ずっとは隠せません。すでに神官と巫女がだいぶ減っています。いずれ、住民も心配し始めます。いつか話さなければならない」


 その夜、子ノナとハノが眠った後、菜の花は一人で庭に出た。

 月が、明るく輝いている。


 菜の花は、縁側に座って空を見上げた。

 子ノナが帰ってきた。魔王だった子を連れて。

 母狼の魂が、ハノに届いた。百三十年の苦しみが、終わった。

 ハノは、生まれ直した。


 風が吹いた。

 美咲が咲かせた花が、月明かりの中で揺れている。

 菜の花は、引き出しからノートを取り出した。


 ページをめくる。

 三つの回文が並んでいる。


 菜の花の母の名はノナ

 ノナは母なの

 子の名はノナ。菜の花の子


 菜の花は、今日の出来事を思い返した。

 子ノナが言った。

「私が育てる」

「この子を、私の子として育てる」


 ノナが、ハノの母になる。

 菜の花は、はっとした。

 ノナ。ハノ。母。


「見つけた」

 新しいページを開いて、書きつける。


「ノナはハノの母なの」——のなははののははなの。


 菜の花は、ノートを見つめた。四つ目の回文が、そこにあった。


 美咲は、ノナに菜の花を託した。

 ノナは、菜の花を育てた。

 菜の花は、子ノナの母となった。

 そして、子ノナは、ハノの母になった。

 母の名と子の名の回文がつながっていく。


「美咲さん」

 小さくつぶやく。

 美咲さんは、私に菜の花という名前をつけたとき、どこまで見えていたのだろうか。

 分からない。


 でも、菜の花と名付け、回文を遺した。

 エルドンに頼んだ。

 風が、また吹いた。花が揺れた。


「ありがとう」

「言葉を、つないでくれて」

「想いを、つないでくれて」

「家族を、つないでくれて」


 菜の花は、立ち上がった。

 家の中に戻る。

 子ノナの部屋をのぞくと、ハノと子ノナが一緒に眠っていた。小さな赤ん坊が、子ノナの腕の中で、小さな寝息を立てている。


「おやすみ、ノナ」

「おやすみ、ハノ」

 小さくつぶやいて、扉を閉めた。


 明日から、新しい日々が始まる。ハノを育てる日々。家族が増える。

 大変だろう。でも、きっと幸せだろう。


 菜の花は、自分の部屋に戻った。リオンが、すでに眠っている。

 風が、窓を揺らした。優しい風だった。

読んでいただき、ありがとうございます。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると、とても励みになります。


本作は完結まで執筆済みで、全56話・約14.9万文字です。

3/29(日)まで毎日20時に更新予定です。

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