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母の名、子の名、そして菜の花  作者: 劇団だるい
第四章 お届けもの
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手紙

 子ノナがお届けものに出てから、一ヶ月が過ぎた頃。

 手紙が届いた。


 ——父さん、母さん、おばあちゃんへ。

 今は、北の聖域ルディアに向かっている途中です。


 旅は、とても安全です。

 吟遊詩人のマルナが仲間になりました。


 マルナは、行き先を決めてないらしく、しばらく一緒に旅をしようと話をしています。

 旅のいろいろなことを知っていて、料理や野営にも詳しいです。旅が、とても楽しくなりました。


 あの後、東の祈りの塔に行きました。


 東の祈りの塔で、封印を解き、祈りを捧げました。

 祈りの塔の封印を解くのは、大変でした。

 お父さんの結界術、強すぎだよ!

 いろいろ試したけど、封印が解けなくて。

 ダメ元で、ノナおばあちゃん特製の回復薬をかけてお祈りしたら、封印が解けました。

 すごいね。これ。


 封印を解くと、何かが、私の中に入ってきた気がしました。

 温かくて、悲しくて、優しいもの。


 大切に、お届けしようと思います。

 ノナより


 追伸 マルナは、聖堂の巫女様のように言葉遣いがきれいな人です。

 吟遊詩人って言葉に繊細なのかもしれないね。

 あと、よく歌を歌ってくれます。中でも、聖歌は本当に上手です——


 母ノナが得意そうに笑った。

「ほら、私の薬はすごいだろう?」

「ホントダネ」

「十七種の薬草の特別調合の回復薬を長い間熟成させたからね、そりゃリオンの結界だって解けるさ」

「結界が解けるって、やっぱり毒水なんじゃ」

「回復薬だ」

「エー」


 それから菜の花は、読み返して笑った。

「マルナは……護衛だって気づかれてるね」

「うん、これは、ばれてる」

 ノナも笑っている。

「まあ、嫌がっている感じはしないから、いいんじゃないか?」

 リオンも笑っている。


 菜の花は、子ノナが旅に出た朝のことを思い出した。


 その朝、菜の花は、シオナを訪れた。

 子ノナが旅立ったことを報告すると、「そう」とだけシオナは言った。

「ノアは、待つつもりなのですね」

「はい」

「それでは、護衛をつけましょう。もちろん、本人には護衛だと分からないようにします」

「ほんとですか?」

「もちろんです。聖堂は、そういうことは得意なのです」

「……私、浄化の力に目覚めて、護衛をつけられたその日のうちに気づきましたけど」

「ん?」


 菜の花は思い出しながら笑った。

 まあ、子ノナが嫌がっていないのなら、いいだろう。

 菜の花は、何度も子ノナの手紙を読み返した。



 それから一ヶ月、また子ノナから手紙が届いた。


 ——父さん、母さん、おばあちゃんへ。

 今は無事、北の聖域ルディアに着いています。

 雪山は寒かったけど、本当にきれいだった。

 母さんが言ってた雪山チーズ、食べました。おいしすぎて三回おかわりしたよ。

 氷酒、お土産に買って帰るね。


 一つ目の報告です。

 私は、どうやら運搬の力がとても強いようです。

 収納の力も到達の力も強くて、収納魔法には何でも入っちゃうし、道には迷いません。


 二つ目の報告です。

 美咲さんが咲かせた花が咲く村に行きました。行けてよかったです。家の前にも咲いている黄色い花、たくさん咲いてたよ。


 北の聖域の祈りの塔でも、お届けものを頼まれました。

 早くハノに会いたい。

 そう言っている気がします。


 大切にお届けします。次は西の聖域に向かいます。

 ノナより


 追伸 雪山チーズをお土産に買いました。

 私の収納魔法にはまだ若干の余裕があります。各地でお土産を買っていこうと思います。

 楽しみにしててね


 追伸の追伸 ナックルダスター、やっぱり使えました。マルナに言われてナックルダスターを使ってみたんだけど、殴った岩がこなごなになりました——



 その四ヶ月後。

 三通目の手紙が届いた。西の聖域ストリネから。


 ——父さん、母さん、おばあちゃんへ。私は今、ストリネにいます。

 はじめて海を見ました!

 母さんの言ってた通り、本当に広かった。きれいでした。感動した。


 潮風麺、食べました。おいしかった。キッカ貝もおいしかった。

 屋台の人に「お嬢ちゃん、よく食べるねえ」って笑われました。


 ストリネの祈りの塔でも、封印を解除しました。

 おばあちゃんの回復薬は、すごいね。

 東のフィルネ、北のルディアに続いて、三つ目の魂が、私の中に入ってきました。


 今度は、もっとはっきり感じました。

 記憶みたいなもの。

 子どもを守ろうとしている。

 この記憶を、届けなきゃいけない。

 そう思います。


 次は南に向かいます。

 ノナより


 追伸 乾燥海藻を買いました。

 あと、乾燥キッカ貝というのも売ってたので、買いました。お楽しみに!


 追伸の追伸 おぱんちゅ村に行きました。

 綺麗な布が、たくさん売られてました。お土産に買って帰るね。

『勇者おぱんちゅ』も買いました。袋に、『パンツがあれば、何でもできる』と書いてあります。いい言葉だね。これは、お父さんにあげるね。


 あ、お金のことは大丈夫。各地に残った魔物を倒して報酬をもらってます。

 このナックルダスター、すごいね——



「勇者おぱんちゅは……あまりいらないな」

 リオンは苦笑した。

 菜の花は、手紙をたたむ。

 子どもを守ろうとした、母親の記憶。子ノナは、それを受け取っている。



 ノナの旅立ちから九ヶ月後。

 四通目の手紙が届いた。南の聖域サニアから。


 ——母さんへ

 砂漠は暑かった。死ぬかと思った。でも、オアシスの果物は最高においしかった。生き返った。あと、象がいました。ほんとに「パオーン」って鳴くんだね。


 砂漠を渡るとき、隊商に混ぜてもらいました。


 みんな優しかった。

「女の二人旅は珍しいね」って言われた。

「安全になったから」と答えたら、「いい時代になったよな」と言ってました。

 母さんと父さんのおかげだね。

「お届けものをしてるんです」って答えたら、ほめられました。えへへ。


 祈りの塔で、四つ目の魂を受け取りました。

 今度ははっきり分かった。


 これは、ハノのお母さん。

 ハノを守りたい。でも、守れなかった。その悔しさと、悲しさ。

 私、泣いちゃった。

 砂漠で泣いたら、涙がすぐ乾いてびっくりしました。


 ノナより


 追伸 乾燥果物、たくさん買いました。

 私の収納魔法にはまだまだ、まだまだ若干の余裕があります。


 追伸の追伸 砂漠を渡る前、スオヤラさんが盾を泳がせた川を見てきました。川の中に、盾の像が作られていました。あれはあれでいいのかな——



 やはり、祈りの塔に封じられていたのは、魔王ハノの母だった。子ノナは、それをハノに届けようとしている。



 そして、子ノナの旅立ちから約一年後。


 ——母さんへ

 私はいま、ナハラの村にいます。

 美咲さんとアルヴィンさんとスオヤラさんのお墓参りをしました。

 明日、封魔の森に行きます。


 ノナより——



 それから、手紙は来なくなった。

 一ヶ月。

 二ヶ月。

 三ヶ月。

 菜の花は、毎日門の方を見た。リオンは、騎士団に情報を集めさせた。

 母ノナは、縁側で空を見上げていた。


 半年が過ぎた。


 みんな、信じていた。子ノナは、必ず帰ってくる。

 届けるものを届けて、必ず帰ってくる。


 そして——

 旅立ちから約二年が過ぎたある朝。

 門番からの知らせが届いた。

「ノナさんが、帰ってきました」

読んでいただき、ありがとうございます。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると、とても励みになります。


本作は完結まで執筆済みで、全56話・約14.9万文字です。

3/29(日)まで毎日20時に更新予定です。

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