帰還
四人は、丘の上から聖域を見下ろしていた。
「フィルネだ」
リオンが、指さす。
「帰ってきた」
菜の花が、つぶやく。
二年ぶりの、故郷の門。
空は青く、雲は白い。あの日、旅立った時と同じ空。
でも、四人は変わっていた。
菜の花は、十七歳になっていた。
背が少し伸びた。顔つきが、大人びた。
右手のナックルダスターは、傷だらけになっている。浄化の力が形をなしたものだから、直そうと思えば直せる。でも、そのままにしている。
「行こう!」
リーネが、歩き出す。
「うん」
三人が、後に続く。
丘を降りて、門へ向かう道。
旅立ちの日も、この道を歩いた。一度だけ振り返って、あとは前だけを見て歩いた。
あと、少しだ。二年の旅は、終わりに近づいていた。
「あ、帰ってきた!」
誰かが叫ぶ。
「聖女様と勇者様だ!」
歓声が広がる。
人々が、こちらに駆け寄ってくる。
見覚えのある顔がたくさんある。旅立ちの日に、見送ってくれた人たちだ。
「おかえりなさい!」
「無事でよかった!」
口々に声をかけられる。菜の花は、少し照れながら手を振った。
人混みの中に、見慣れた顔を探す。
いた。
門の脇に、静かに立っている。
「母さん!」
菜の花が、駆け出す。人混みをかき分けて、走る。
ノナは、そこに立っていた。
四十二歳になった母は、少し白髪が増えていた。
でも、目は変わらない。強くて、優しい目。
「母さん!」
菜の花は、ノナに飛びついた。抱きしめる。懐かしい匂いがする。
「ただいま」
「おかえり」
ノナの声が、震えている。でも、笑っていた。
「約束、守ったよ。四人で帰ってきた」
「ああ……よく帰ってきた」
ノナが、菜の花の頭をなでる。
「大きくなったね」
「そうかな」
ふと見ると、リーネとミラも家族に囲まれていた。
リーネの両親が、娘を抱きしめている。
ミラの家族も、同じように。
リオンは、騎士団の仲間たちに囲まれていた。背中を叩かれたり、握手を求められたり。照れくさそうにしながらも、嬉しそうだ。
人混みの向こうから、シオナが歩いてくる。
穏やかな微笑みを浮かべていた。
「お帰りなさい。よく務めを果たしましたね」
「ただいま戻りました」
菜の花とリオンが、頭を下げる。
「お土産、たくさん買ってきました」
「ふふふ。楽しみにしていますよ」
シオナの目が、きらりと光った。
「報告は明日で構いません。今日はゆっくり休みなさい」
「ありがとうございます」
シオナは、四人を見つめた。
「よく帰ってきました。本当に、よく」
シオナは、上を向いて瞬きをしていた。
菜の花は、ノナの手を握った。
「帰ろう、母さん」
「ああ」
旅は、終わった。
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本作は完結まで執筆済みで、全56話・約14.9万文字です。
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