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母の名、子の名、そして菜の花  作者: 劇団だるい
第二章 成人の儀
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戦い

 ノナは、少し息をついた。

 それから、表情を引き締めて、続けた。

「さて、笑い話はここまでだ。ここからは、あまり笑えない話もあるかもしれない」

 菜の花は、椅子に座り直した。背筋が伸びるのを感じた。

 ノナは、語り始める。



 ——私たちは、旅を続けた。

 村にとりついた魔物を倒したり、汚染された土を浄化したりしながらね。

 最初の予定より、だいぶ時間がかかった。


 旅を始めてから二年後の春。私たちは、魔王ハノの棲み処までたどり着いた。

 今は『封魔の森』って呼ばれている場所だ。


 棲み処といっても、たいしたもんじゃない。大きな森の中の、ただの洞窟だった。

 取り巻きの魔物もいない。魔王は、ただ一人でそこにいて、瘴気を生み出し続けていた。



 菜の花は、腕を組む。そして考える。

「……聖域の人には、魔王がどんな存在だったのか、あまり知らされてないよね」

「そうだね」

「それは、なんでだろう?」

「あまり心配させないように、かねえ」

「うーん」


「なんで、魔王は瘴気を出すんだろう?」

「さあ……」

「地揺れとか大波とか、そういうものだと思うしかないのかな」

「うん。私はそう思ってた。そう思わないとやってらないというのもあるけど」


「魔王って、どんな感じ?」

「真っ黒な四本足の生き物だった。狼が一番近い感じだね」

「へえ」


 二本足で立つ、怪物のような生き物だと思っていた。


「大きいのに、目が追いつかないほど速い。黒い毛は剣を弾く。吐く瘴気は触れたら終わり。近づけないし、近づけば牙だ」


「強すぎる……」

「そう。強すぎる。スオヤラの盾も穴が開いてたね」

「スオヤラさんの盾が……?」

「家宝の盾がー、とか、ぎゃーぎゃー騒いでたよ」

「魔王との戦いでも、スオヤラさんはスオヤラさんだね」

「私も同じことを思ったよ」


「これが、最悪なんだけどさ」

「何?」

「空を飛ぶんだよ。魔法で」

「えええ……」

「で、空から瘴気を吐き出し続ければ、普通の討伐隊は壊滅する。そもそも、魔王と人間では、戦いにならないんだ」


 そんなものと戦ったのか。美咲さんたちは。

「でも、美咲は、瘴気を浄化できた」

「ああ、だから戦いにはなるんだ」

「そう。瘴気は効かない。牙で攻撃しても盾士に防がれる。その後ろから勇者が、魔法でちょろちょろ攻撃してくる」

「ちょろちょろ……」

「そう。たいして効いてなかった。けど、うっとうしそうにはしてた。魔王は強い。でも、私たちは、戦うことはできた」

 菜の花は、ふと疑問に思う。


「うっとうしいだけなら、戦いをほったらかして逃げてもいいんじゃない?」

 一人なら、棲み処を捨てて逃げる選択肢もある。でも、そうしなかった。

「そういえば、そうだけど……魔王の気持ちなんか分からないよ」


「魔王とは、話したの?」

「いや、全然。魔王は最初に、『来たか』ってつぶやいてたけど、それだけだった」

 菜の花は、少し気になった。

「……『来たか』ってどういう意味だろう」

「うーん、そのままの意味だと思うけど」

「それ以外は、話さなかったんだよね?」

「そうだよ」

 だとしたら、何か意味があるのではないか。『来たか』……そんなこと言うだろうか。


「……だめだ、分かんない」

「まあ、簡単に分かったら、こんなに苦労してないさ」

「そうだよね」

 ノナは、また語り始めた。



 ——魔王との戦いは、壮絶だった。


 美咲が浄化の光を放ち、アルヴィンが剣を振るい、スオヤラが全員を守った。

 私は、遠くで見ていることしかできなかった。ただ、祈っていた。みんなが無事でありますように、って。


 私たちは、魔王を倒すことはできなかった。

 倒せるなら、倒したい。でも、無理だろうなという気もしていた。だって、考えてごらんよ。瘴気で強くなった魔物に苦戦してるんだから、その瘴気の元凶に勝てるかっていったら、そりゃ無理だろ。


 アルヴィンは、戦いを始めて早々に、魔王を封印する作戦に切り替えた。


 封印は、大まかにいうと、アルヴィンが、結界の力で封印の基礎を組み立てる。そこに、美咲が浄化の力を注ぐ。そういう流れで発動する。

 ものすごく大掛かりな魔法で、アルヴィンは、地面に勇者の剣で何かを書いたり、聞いたことのない言葉でお祈りをしていたね。


 アルヴィンは、封印の魔法を組み始めると無防備だ。だから、スオヤラは、アルヴィンを中心に守ることになる。その間、美咲は魔王との戦いを一人で耐えなければならない。


 封印作戦がつらいのは、ここだ。

 ここをどうしようか、っていうのは、旅をしながらずいぶん話したんだよ。

 私たちがとったのは、「攻撃は最大の防御」っていう作戦だった。より正確にいえば、「攻撃をし続ける以上の防御方法がない」っていう。


 それは作戦じゃないって?

 そうだね。賭けだったよ。


 実際にやったのは、美咲が浄化しまくる。それだけだ。

 とにかく、浄化の祈りをまき散らす。変な言い方かもしれないけどね。


 美咲の祈りは、本当にきれいだった。

 金色の細かい光が、目の前いっぱいに広がるんだ。


 魔王は、その光は嫌みたいだった。真っ黒な瘴気をまき散らして、美咲の浄化に対抗してた。で、美咲は、その瘴気を片っ端から浄化しまくった。


 ふと、思った。

 魔王の瘴気も、美咲の浄化の祈りも、似たようなもんかもしれないって。

 変な言い方だけどさ。お互いに嫌なもんをまき散らしてるって点では、同じだ。


 でも、美咲は、つらそうだった。

 思いっきり歯を食いしばって、真っ青な顔をして祈ってた。

 浄化の祈りをまき散らしながら、「痛い、痛い」って泣いてた。


 私は、涙が止まらなかった。


 何もできなかった。

 がんばれ美咲、がんばれアルヴィン、がんばれスオヤラって、ずっとお祈りしてた。


 実際の時間は分からない。

 ただ、長い、とても長い時間のように感じた。


「ありがとう美咲。よくがんばったね」


 美咲の力が尽きかけた時、アルヴィンの声が聞こえた。

 アルヴィンの封印の魔法が発動した。目の前が真っ白に光った。


「うん、がんばりました」


 今度は美咲が何かを唱え始めた。真っ白い光の中に、金色の光が混ざった。

 白と金色は、うずを作るようにぐるぐる回ってた。それから、どんどん光が集まって、魔王を包んだ。


 私はまぶしくて目を閉じた。


 光が収まって目を開けたとき、魔王はいなくなっていた。

 魔王がいた場所には、石が転がっていた。


 魔王と同じ、真っ黒だった。

 抱きかかえられるくらいの大きさの石だ。

 ずいぶん小さくなった。バカっぽい感想だけど、私は、そう思った。

 そして、封印は成功した。



 菜の花は、長いこと黙っていた。

「大変な……戦いだったんだね」

 それしか言えなかった。

「ギリギリだった。でも、美咲たちはやりきった」

「うん」


 暖炉の火が、静かに揺れている。ノナは、じっとそれを見つめている。

 長い、長い沈黙だった。


「これから話すことは」

 ノナが、言葉を区切った。


「私しか知らないことだ」


「菜の花は、今日シオナ様にいろいろ話を聞いただろう」

「うん、聞いたよ」

「シオナ様は、勇者たちの旅は何年かかったと言ってた?」

「え?」

 予想外の質問だった。


「ええと、寄り道が好きで……行きに三年、帰りに一年かかったって」

「そう。それが公式記録」

「え?」

「さっき、私は、旅立ちから魔王の棲み処まで何年かかったって言った?」

「……あ」

 二年、だった。


「そう。魔王との戦いの後、空白の一年間があるんだよ」

 ノナは、菜の花を見つめた。


「そこで起きたことが、菜の花が知りたかったことだ」

読んでいただき、ありがとうございます。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると、とても励みになります。


本作は完結まで執筆済みで、全56話・約14.9万文字です。

3/27(金)まで随時に更新予定です。※更新スケジュールを変更しました。

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