表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
母の名、子の名、そして菜の花  作者: 劇団だるい
第二章 成人の儀
20/54

 その夜。

 ノナは、金色の菜の花を見て少し目を丸くしただけで、何も言わなかった。

「夕食にしよう」とだけ言った。

 こんな気分で食べるご飯なんて、と思ったが、おいしかった。


 窓の外は、もう真っ暗だ。星が、いくつか瞬いている。


 暖炉の前で、ノナと菜の花が向かい合って座っている。

 火が、パチパチと音を立てて燃えている。橙色の光が、二人の顔を照らしている。


「聖女だと言われて、驚いた?」

「すごく。でも、母さんは……驚いてないみたいだね」

「……そうだね、そうなる気がしていたよ」


 ノナは、暖炉の火を見つめた。その横顔には、複雑な感情が浮かんでいた。

 二人とも、何も言わなかった。


「母さん」

 菜の花が、口を開いた。

「今日、シオナ様に、美咲さんのこと聞いたよ」

「そう」

「日本から来て、聖女で、魔王を封印した人。名前の意味は、『美しく咲く』だって」

「うん」

 菜の花は、ノナを見つめた。


「……菜の花は、美しく咲く花の子って、どういうこと?」


 ノナは、ため息をつく。

「よく気づいたね」

「うん」

「それは、私が考えたんだ」

「え?」

「日本語はよく分からなかったけど、美咲の名前の意味くらいは知ってたからね」

「それって、どういう……」


「うん。順番に話すよ」

 ノナは、大きく息を吐き出した。それから、菜の花の目をまっすぐ見た。

「私が、美咲と旅をしたときの話を」

 その目には、決意があった。


「これから話すのは、二十年ほど前の話だ」

 ノナは、膝の上で手を組んだ。

「魔王が世界を壊して、森が枯れて、人が倒れて。あの頃は、息をするだけで苦しかった」

 菜の花は、黙って聞いている。

「誰もが絶望していた。そんなときに——一人の勇者が現れた」

「勇者……」

「名前はアルヴィン。その時は二十三歳だったかな。強くて、誠実な男だった」

 ノナの目が、遠くを見ている。


「彼は、魔王を倒すために仲間を集めた」

「仲間……」

「仲間は四人」

 ノナは指を折った。

「勇者アルヴィン。剣は一流、でも抜けてる」

「聖女の美咲。異世界から来たばかりなのに、浄化の力はすごかった」

「盾士スオヤラ。でかい、笑う、飲む。守りは鉄壁」

 最後に、ノナは四本目の指を折る。


「……そして、私。運ぶだけのポーターだ」


「うん」

「おや、気づいてたかい」

「それしか、答えがないから」


「成人の儀で、『運搬』の力に目覚めたってのは話したね。私に戦う力はない。収納の魔法が使えるけど、それだけだよ」

 ノナは、少しだけ寂しそうに笑った。


「どうして、母さんが、仲間に入ったの?」

「仕事で、美咲の荷物を運んだことがあるんだよ。そのときに、いろいろ聞かれてさ、後日、美咲がやってきて、『ノナの力が必要だから、一緒に旅についてきて』って」

「ふーん……」

 ポーター自体は珍しくない。なぜ、母さんだったのか。


 暖炉の薪が崩れて、火の粉が舞った。橙色の光が、揺れている。


「今日みたいな春の日だったね。四人で、旅に出た」

 ノナの声が、少しだけ遠くなる。

「魔王を倒すために。人々を救うために」


 これは、勇者と聖女の物語だ。でも、今夜聞く話は、今までとは違う。おとぎ話じゃない。

 ノナが実際に体験した、本当の話だ。


「どんな旅だったの?」

 菜の花が、小さな声で尋ねた。

 ノナは、少しだけ微笑んだ。

 そこには、懐かしさと、悲しさと、そして温かさが混ざっていた。


「長くて、辛くて——楽しい旅だったよ」

 暖炉の火が、また一つ、パチリと音を立てた。

読んでいただき、ありがとうございます。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると、とても励みになります。


本作は完結まで執筆済みで、全56話・約14.9万文字です。

3/27(金)まで随時に更新予定です。※更新スケジュールを変更しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ