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母の名、子の名、そして菜の花  作者: 劇団だるい
第二章 成人の儀
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帰り道

「うええ、ホントに暗い夜道で役立つよう……」

 菜の花で、道が照らされている。相変わらず金ぴかのままだ。


「シオナ様は、止め方を教えてくれなかったの?」

「教えてくれた。自分がしっくり来るものに形を変えることで、光が収まるんだって」

「じゃあ、なんで止まってないの?」

「あのね、リオンは、剣が一番しっくり来るんだって」

「ああ、あの剣か」

「そういうものに形を変えると、光は止まるんだって」

「なるほど」

「あのさ、私にしっくり来るものって何?」

「知らないよ」

「ちなみに、本と羽根ペンは試したよ」


「だったら、日本語なんじゃない?」

 ミラがゆっくりと言った。

「天才。ミラ、天才」


 確かに、本や羽根ペンよりしっくり来た。菜の花は、試しに『あ』の形を思い浮かべる。


「あああ……あああ……」

 何も起きなかった。


「……ダメっぽい」

「その、『あ』ってどんな形?」

「こう書いて、こう書いて、こう」

「ぐにゃぐにゃ……だな」

「さすがに、使いにくくない? 何に使うか分からないけど」


「じゃあ、『い』かな。二刀流だよ」

「二刀流……?」

「かっこいいでしょ?」

「いや、どうだろう」


「いいいいい! いいいいい!」

 だめだった。


「あとは、『や』とか? ハンマーみたいな形で、魔物をぺたんこにできるよ?」

「ぺたんこにしたいの?」

「そういう訳じゃないけど……」


 菜の花は、思いっきり息を吸った。


「やああ——————!」

 菜の花の声が、響き渡る。


「大丈夫か!」

「どうしたんだい⁉︎」

 近くの路地から、男性と女性が、ものすごい速さで走って出てきた。

「うえええ?」

「何でもありません! 何でも!」

「すみません、お騒がせしました!」

 三人で必死に頭を下げて、帰ってもらった。


 それから、三人は、静かに歩く。無言だ。


「あのさ、リーネ、ミラ」

「うん?」

「私、やっぱり、聖女になっちゃったみたい」

「うん」


 また、無言。


「あの人たち……護衛だよね」

 菜の花がつぶやく。


「うん」

 ミラがうなずく。


「私がこんなにピカピカに光ってるのに、一言も触れないんだもんなあ」

「普通の人なら、絶対びっくりするもんね」

「護衛にしては、うかつだよな」

 リーネは、護衛が消えていった方向を見る。


「ははは、護衛がつく身分になっちゃいました」

 夜道が、明るく照らされている。春の夜は、肌寒い。


「あのさ、リーネ、ミラ」

「なに?」

「私、魔王の封印を強化する旅に出ないといけないんだって」

「そうか……」

「夏までに浄化の力の使い方を覚えて、そこから往復で二年間の旅だって」

 口に出してみると、思ったより現実味がなかった。

「……長いな」

「危なくない?」

 ミラは心配そうに菜の花を見る。

「危ないと思う。魔物との戦い方も教わるんだって」

「ノアって、戦闘の科目取ってたっけ?」

「全然」

「無理じゃない?」

「うーん、戦いはリオン……? 私は浄化の力でそれを助ける……のかなあ?」


「だめだ、全然分かんないや」

 菜の花はうつむく。ぽたりと、涙が落ちる。


「浄化の力って何? どうして私なの? 私は何ができるの?」

 菜の花の目からは、ぽたぽたと涙がこぼれていた。


「なすべきことって何? 私は、日本語の研究がしたいだけなのに。図書館にこもって、エルドンさんと日本語の話をしていたいだけなのに。それじゃ、ダメなの?」

「ノア……」


「体もさ、こんなにピカピカになっちゃってさ、これどうしたらいいの? 私のなすべきことはサーカスってことで、もういい?」

「いや、それはどうだろう」


「でもさ、私、高いところ苦手だし、玉乗りもできないよ? ナイフを何本もグルグルするのなんて絶対無理だよ。ハラハラしながら見てるほうが、私にはお似合いだよ」

「よし、ノア、一回、サーカスから離れよう」


「象と仲良くなれるかも分かんないよ?」

 菜の花は、パオーン、パオーンといいながら、涙を流している。


「なんで私の名前は菜の花なの? 聖女の美咲さんと、私はどういう関係なの? 母さんは、何を隠してるの?」

「……」


「もう全然分かんないよ!」


「ノア」

 リーネとミラは、菜の花を抱きしめた。

「泣かないで」


 気づいたら、リーネとミラも泣いていた。

「どうしてノアなんだよ、そんなのさ、こっちが聞きたいよ」

「ノアを取らないでよう」


 三人で、道の真ん中で泣いた。

 菜の花の体の光が、リーネとミラを照らしていた。

読んでいただき、ありがとうございます。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると、とても励みになります。


本作は完結まで執筆済みで、全56話・約14.9万文字です。

3/29(日)まで毎日20時に更新予定です。

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