表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
母の名、子の名、そして菜の花  作者: 劇団だるい
第二章 成人の儀
17/56

シオナ

 成人の儀が終わった後、菜の花とリオンは、巫女に声をかけられた。

 聖堂の奥に案内される。


 リーネとミラは、心配そうに菜の花を見ていた。

「待ってるよ」

「ありがとう」

 小声でそう言って、菜の花は巫女の後を追った。


「シオナ様、リオン様とノア様をお連れしました」

「入りなさい」

 菜の花は、シオナの部屋に入った。質素だが、清潔な空間だ。

 奥の机には「未決」「既決」と書かれた箱が並び、どちらにも書類が積まれている。


 背の高い書棚には、幅広い分野の本が並んでいる。

「あ、日本語の本だ」

 菜の花は、つぶやいた。リオンが、ちらりと菜の花を見た。

 金色の光を放ちながら、本棚に釘付けになっている。


「気になりますか」

 奥の机に座っていたシオナは、菜の花を見る。

「貸しますよ」

「え、いいんですか」

「ええ。でも、その前に、話をしましょう」

 シオナは立ち上がり、中央のテーブルに座った。


「さ、座りなさい」

 菜の花とリオンは、シオナの正面に座った。

 巫女が、三人にお茶を出してくれる。

「遠慮せずにどうぞ。疲れたでしょう?」

「はい」

 リオンが即答する。

「ええと……はい」

 菜の花も続けた。


 しばらく、沈黙が続いた。シオナは、お茶を飲みながらじっと二人を見ている。


「驚いていますか?」

「はい」

「はい……」

「私も驚いています。聖女と勇者が同じ日に現れるなんてね」

「シオナ様」

 リオンが、低い声で言った。


「俺たちは、何をすればいいのですか」


 単刀直入な問いだった。

 菜の花は、リオンの横顔を見た。真剣な表情でシオナを見つめている。


 シオナは、少し間を置いてから答えた。

「まず、この場にいる者が、同じ情報を持ちましょう」


「はじめに、魔王の名前は知っていますか」

「はい。魔王ハノ、です」

「そうです。百三十年前、大陸の中央にある大森林で、魔王が生まれました。討伐隊が出ましたが、ほぼ壊滅しました。そのとき、『ハノ』と名乗ったそうです」


 菜の花は、お茶を飲みながら考える。

 魔王が、名乗った。何でだろう。そんな必要、あるだろうか。何かが引っかかった。


「魔王は、瘴気によって人間を滅ぼさんとしました。そして、十五年前、勇者と聖女が魔王と戦い、封印しました」

「なぜ倒せなかったのですか。それが知りたかったのです」

 リオンは、真剣な表情で尋ねる。

「単純に、強かったからです」

「強かったから」

「そう。それだけです」

「そんなに……」

「先代の勇者たちは、魔王を滅ぼすことはできませんでした。封印することが精いっぱいだった。封印と同時に、彼らは魔王の牙に倒れました」


 沈黙が続いた。


 巫女が、頃合いを見計らってお茶を注いでくれた。

「ありがとう」

 シオナは、お茶に砂糖を一つ落とした。法衣の袖から覗く手首が、細かった。

 菜の花もまねをする。リオンは、砂糖を入れなかった。でも、一口飲んで、ほっと息をついている。


「しかし、封印が、少しずつ弱まっています」

 その影響は既に出始めている。野菜が育たなかったり、魚が減ったり。病気の人が増えたり、魔物が強くなったり。

「このままでは、いずれ封印は解けるでしょう」

 シオナは、二人を見つめた。

「封印を再び強化する必要があります」

「それを、俺たちが……」


 シオナは、窓の外を見た。

 白い塔が、青い空に浮かび上がっている。


「あの塔では、日々、瘴気を抑えるための祈りが捧げられています」

「はい」

「封印は、聖女の浄化の力と勇者の結界の力から成り立っています。知っていましたか?」

「いいえ」

 そう言われてみれば、ノナの昔話の中でも、勇者と聖女はいつも一緒だった。


「あなたたち二人がいれば、封印を強め直すことができるでしょう」

 シオナは菜の花とリオンの目を交互に見た。

 そして、長くため息をついた。


「私は、『できること』と『やりたいこと』と『なすべきこと』は違うと思っているの」

「成人の儀で、お話されていたことですね」

 菜の花はうなずいた。


「本当は、あなたたちにも『やりたいこと』や『なすべきこと』を自分で探してほしい」

 シオナは、少し目を伏せた。

 菜の花は思う。「本当は」というのは「それはできない」ということの裏返しなのだろう。


「シオナ様。よろしいでしょうか」

 菜の花は問いかける。

「なあに?」

 意外にお茶目な返事が返ってきた。


「今日、私は、浄化の力を与えられました」


 成人の儀は「力に目覚める」と言うのが普通だ。シオナは『与える』という言葉を選んだ。


「私に合わせなくてもいいですよ。自分の感覚にあう言葉をお使いなさい」

「いえ、確かに『目覚める』より、しっくり来るなと」


 シオナは、ちらりと菜の花を見た。

「……そう。感覚が鋭いのね」


「浄化の力が私に指し示す『なすべきこと』は、聖女の道だと思うのです」

「そうね。大変な道で申し訳ないのだけど」


 菜の花は、金色に輝く両手を見つめる。


「でも、私は、今、金ぴかです」

「金ぴか」


「だとすると、私の『なすべきこと』は、サーカス団で人を喜ばせることなのではないか、と思うのです」


 シオナは、しばらく菜の花を見つめた。

「いろいろ考えたのね」


(シオナ様は、懐が深いな)

 リオンは、横で感心していた。

(そして、ノアは真剣だな)


「シオナ様、私は、悩んでいます」

「どのようなことでしょう」

「サーカス団に入るにしても、私は、高いところがちょっと苦手なのです」

「そう。それは大変な悩みね」

「象と仲良くなれる自信もありません」

「それは、とても難しいことだと、私も思います」


(何の話をしているんだろう)

 リオンは、横で聞きながら思った。


「一方で、私は日本語が好きです。研究者になりたいと思っていました」

「それは、素晴らしい仕事ね」

「私の『できること』は浄化の力を使うことなのかもしれません。しかし、『やりたいこと』や『なすべきこと』が、私にはまだ分からないのです」


 菜の花は、うつむいた。


 シオナは、静かに菜の花を見ている。

「それらは、いずれ自分自身で気づき、確信するものです」

「そういうものなんですね」

「しかし、周囲の人と話すことも大切です。ノナやお友だちと話してみなさい」


(丸投げした)

 リオンは思った。


「シオナ様」

「はい」

「私は、まず、金ぴかでなくなればいいなあ、と」

「それも大切ね」

「この金ぴか、どうやって止めるんですか?」

「うふふ」

「えええ」


(逆に、俺の場合は、なんで光らなかったんだろう)

(……まあ、光らなくてよかったけど)

 リオンは、考える。


 菜の花は、窓の外を見る。風が少し冷たくなってきた。

 成人の儀は朝のことなのに、もう遠い昔のことのように感じた。


 隣で、リオンも同じ窓の外を見ていた。

読んでいただき、ありがとうございます。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると、とても励みになります。


本作は完結まで執筆済みで、全56話・約14.9万文字です。

3/29(日)まで毎日20時に更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ