リオン
リーネとミラの活躍によって、「ノア・大サーカス団構想」は阻止された。
儀式は続く。
「次、リオン」
銀髪の少年が、祭壇に向かう。背筋がまっすぐ伸びている。
会場はまだざわついている。ほとんどの視線が、まだ金ぴかの菜の花に向いていた。
菜の花は、リオンの後ろ姿を見ていた。
訓練場で何度か見かけた少年だ。少し、背が伸びた。
吹き飛ばされても、何度でも立ち上がっていた。「目標があるから」と言っていた。
リオンが、祭壇に立つ。シオナが、手をかざす。
そして——再び、光があふれた。
白い光だ。力強い光。
菜の花を包んだ金色の光とは違う、銀色がかった白い輝き。研ぎ澄まされた光だった。
「これは……」
シオナが、目を見開く。
光が集まり、四角形になった。リオンを囲むように、透明な壁が立ち上がる。
四角形の光は、ゆっくりと形を変えていく。
角がほどけ、線が細まり——結界は、剣になった。
銀色に輝く、美しい剣だった。
「結界の力。勇者の力です」
会場が、再び騒然となった。
結界の力——聖女と対をなす、勇者の力。
十五年、現れていなかった。それが、今日、聖女と同時に現れた。
会場がざわめく中、リオンは静かだった。
リオンは、剣を手に取った。黙って見つめている。右手で柄を握り、左手を添えた。訓練場で木剣を構えるときと同じ持ち方だった。
やがて、リオンは静かに光の剣を消した。
光はおさまった。聖堂は再び静寂に包まれた。
「……うぇ?」
菜の花の口から、妙な声が漏れた。
「ノア、どうしたの?」
ミラが、小声で聞く。
「あ、いや……何でもない」
「何でもなくないでしょ、今の声」
リーネが、呆れた顔をする。
「祝福を。あなたの人生に幸多からんことを」
シオナの声が、厳かに響いた。
三人は、慌てて口をつぐむ。
「あとで、私のところに来なさい」
シオナは、リオンにも小さい声で、一言加えた。
「……はい」
リオンの声は、落ち着いていた。
でも、その手が少しだけ震えているのを、菜の花は見た。
リオンが、自分の席に戻っていく。
騎士見習いの仲間たちが、リオンを囲んでいる。背中を叩いたり、握手を求めたり。リオンは、困ったような顔で応じている。
一人の見習いが「すげえな」と言った。リオンは小さく「ありがとう」とだけ答えた。
それが、リオンの精一杯の表情に見えた。
会場の空気が、一変していた。
聖女と勇者が、同時に現れた。それは、何を意味するのだろう。
菜の花は、リオンを見ていた。
ふと、リオンがこちらを見た。目が合った。灰色がかった青い目。
少し、困ったように笑っていた。彼もまた、戸惑っているようだった。
なぜか、その顔を見て、少しだけ安心した。
聖女と勇者。
自分たちは、何をすることになるのだろう。菜の花には、まだ分からなかった。
でも、一つだけ分かることがあった。
今夜、ノナが話してくれること。
それと、今日起きたこと。それらは、きっと、つながっている。
菜の花は、窓から差し込む光を見上げた。ステンドグラスを通した色とりどりの光。
それに自分の金ぴかが混ざって、とてもきれいだ。
「あのさ」
菜の花が、自分の金ぴかの手を見ながらつぶやく。
「ん、なんだ?」
リーネとミラが、菜の花を見る。
「勇者は、金ぴかにならないの?」
「……」
「……」
「不公平じゃない?」
「知らないよ」
「リオンは、かっこよく光の剣を出して、すっと消したでしょ」
「うん。かっこよかった」
「私は、ずっと金ぴかでしょ」
「そう……だね」
「おかしくない?」
「私たちに言われても」
「シオナ様に聞いたら?」
「さっき聞いた。『うふふ』って言われた」
「答えになってないな」
「うん」
「でもさ、ノア」
ミラが言った。
「なに」
「私は、金ぴかに慣れてきたよ」
「それ、なぐさめになってないよ」
「そうか」
静かに、成人の儀は終わりを迎えた。
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本作は完結まで執筆済みで、全56話・約14.9万文字です。
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