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母の名、子の名、そして菜の花  作者: 劇団だるい
第二章 成人の儀
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リオン

 リーネとミラの活躍によって、「ノア・大サーカス団構想」は阻止された。

 儀式は続く。


「次、リオン」

 銀髪の少年が、祭壇に向かう。背筋がまっすぐ伸びている。


 会場はまだざわついている。ほとんどの視線が、まだ金ぴかの菜の花に向いていた。

 菜の花は、リオンの後ろ姿を見ていた。


 訓練場で何度か見かけた少年だ。少し、背が伸びた。

 吹き飛ばされても、何度でも立ち上がっていた。「目標があるから」と言っていた。


 リオンが、祭壇に立つ。シオナが、手をかざす。


 そして——再び、光があふれた。

 白い光だ。力強い光。

 菜の花を包んだ金色の光とは違う、銀色がかった白い輝き。研ぎ澄まされた光だった。


「これは……」

 シオナが、目を見開く。


 光が集まり、四角形になった。リオンを囲むように、透明な壁が立ち上がる。

 四角形の光は、ゆっくりと形を変えていく。


 角がほどけ、線が細まり——結界は、剣になった。

 銀色に輝く、美しい剣だった。


「結界の力。勇者の力です」

 会場が、再び騒然となった。


 結界の力——聖女と対をなす、勇者の力。

 十五年、現れていなかった。それが、今日、聖女と同時に現れた。


 会場がざわめく中、リオンは静かだった。


 リオンは、剣を手に取った。黙って見つめている。右手で柄を握り、左手を添えた。訓練場で木剣を構えるときと同じ持ち方だった。


 やがて、リオンは静かに光の剣を消した。

 光はおさまった。聖堂は再び静寂に包まれた。


「……うぇ?」

 菜の花の口から、妙な声が漏れた。

「ノア、どうしたの?」

 ミラが、小声で聞く。

「あ、いや……何でもない」

「何でもなくないでしょ、今の声」

 リーネが、呆れた顔をする。


「祝福を。あなたの人生に幸多からんことを」

 シオナの声が、厳かに響いた。

 三人は、慌てて口をつぐむ。


「あとで、私のところに来なさい」

 シオナは、リオンにも小さい声で、一言加えた。

「……はい」

 リオンの声は、落ち着いていた。

 でも、その手が少しだけ震えているのを、菜の花は見た。


 リオンが、自分の席に戻っていく。

 騎士見習いの仲間たちが、リオンを囲んでいる。背中を叩いたり、握手を求めたり。リオンは、困ったような顔で応じている。

 一人の見習いが「すげえな」と言った。リオンは小さく「ありがとう」とだけ答えた。

 それが、リオンの精一杯の表情に見えた。


 会場の空気が、一変していた。

 聖女と勇者が、同時に現れた。それは、何を意味するのだろう。


 菜の花は、リオンを見ていた。


 ふと、リオンがこちらを見た。目が合った。灰色がかった青い目。

 少し、困ったように笑っていた。彼もまた、戸惑っているようだった。

 なぜか、その顔を見て、少しだけ安心した。


 聖女と勇者。

 自分たちは、何をすることになるのだろう。菜の花には、まだ分からなかった。

 でも、一つだけ分かることがあった。


 今夜、ノナが話してくれること。

 それと、今日起きたこと。それらは、きっと、つながっている。


 菜の花は、窓から差し込む光を見上げた。ステンドグラスを通した色とりどりの光。

 それに自分の金ぴかが混ざって、とてもきれいだ。


「あのさ」

 菜の花が、自分の金ぴかの手を見ながらつぶやく。


「ん、なんだ?」

 リーネとミラが、菜の花を見る。

「勇者は、金ぴかにならないの?」

「……」

「……」

「不公平じゃない?」

「知らないよ」

「リオンは、かっこよく光の剣を出して、すっと消したでしょ」

「うん。かっこよかった」

「私は、ずっと金ぴかでしょ」

「そう……だね」

「おかしくない?」

「私たちに言われても」


「シオナ様に聞いたら?」

「さっき聞いた。『うふふ』って言われた」

「答えになってないな」

「うん」


「でもさ、ノア」

 ミラが言った。

「なに」

「私は、金ぴかに慣れてきたよ」

「それ、なぐさめになってないよ」

「そうか」


 静かに、成人の儀は終わりを迎えた。

読んでいただき、ありがとうございます。

もし気に入っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると、とても励みになります。


本作は完結まで執筆済みで、全56話・約14.9万文字です。

3/29(日)まで毎日20時に更新予定です。

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