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「あ、いや?! いったいどういうことだ? ぐっ……」


腕を掴まれて動揺する熊の獣人。

力を込めても俺の手を振りほどけないと分かると、情けない顔になっていて実に滑稽だった。


「いっ……!」


自分より強い相手がいるなんて、まったく考えていなかったのか?

覚醒もしていないのに、なぜあんなに威張っていたのか分からないが、教育のつもりで腕を掴んだ手に力を込めた。


「ぎゃあっ。い、痛い!」

「痛がらせるためにやってるんだ。お前が可愛いからじゃない。見上げるのは首が痛いんだが、そろそろ目線を合わせる気にはならないか?」


掴んでいた腕を下に引き下ろした。

だが、片膝が地面についただけだった。

プライドだけは立派だな。


まあ、それだからこそ天地も分からずに調子に乗っていたんだろう。


大きな過ちを犯したわけでもないし、これくらいで十分だろうと思い、どう締めるか考えていたその時、いつの間にか俺の肩に「ポン」と音を立てて手が置かれた。


びくっ。


「その辺で十分じゃないか。もうやめてやれ。大人しくするんだろう?」


俺の肩を掴んだまま諭すように言われると、熊の獣人は激しく頷いた。


「は、はい! もちろんです!」

「君も聞いただろう? こちらの友人が悪かったと言っている。今回は見逃してやってはどうかね?」

「次からは騒ぎを起こすな。」


俺は掴んでいた獣人の腕を放した。

奇襲してくる可能性も考えて反撃できるよう構えていたが、意外にも謝罪までして引き下がった。


「すまなかった。」


……いや、だったら最初から何であんな騒ぎを起こしたんだ?


呆れていると、俺の肩を掴んでいた魔族が、熊の獣人は種族的に血の気が多いだけで悪い奴らではないから、悪く思わないでくれと説明してきた。


「どちら様ですか?」

「ははっ、私はここの副ギルド長だ。騒がしいから来てみたら、なかなか面白い見世物があってね。人間のようだが、あんな粗暴な奴を制圧するとは大したものだ。」


傭兵ギルドの副ギルド長、ということだろう。

気配もなく背後に立たれたことといい、どれほど強いのかも測れないあたり、俺より上なのは間違いない。


「誰にでもできることですよ。」

「ははは、魔族が謙遜しすぎるのはいけない。力があるなら、ほどほどに誇示するのも美徳だ。」

「肝に銘じておきます。」


「魔族」という言葉を聞いたのは久しぶりだった。

皆が人間と呼ぶから、なかなか耳にしない言葉だ。

魔族というのは種族を指すというより、どこに属しているかを示す言い方で、出身地を聞くのに近い。


「君もさっきの彼と同じで、傭兵登録に来たのか?」

「はい。」

「等級は?」

「初回登録は全員カッパーだと聞きましたが?」


カッパー等級だと聞いた副ギルド長は首を傾げた。


「そうか? おかしいな。君、覚醒しているだろう?」

「してます。覚醒。」

「やはりな。私が見間違えるはずがない。なのに、なぜカッパーだ? 案内係は確認しなかったのか?」

「されてません。」

「ふむ……人間だからか。人間の覚醒者は珍しいからな。案内係、こいつはシルバー等級で発行してやれ。」


おお、シルバー等級。

実力的にはゴールドも狙えそうだが、さっきの件もあるし、ここは大人しくしておくのが無難だろう。


ゴールドなんて、すぐだ。


「承知しました、ザルカッシュ様。」

「よし。我らの人間殿、名前は?」

「ユージンです。」

「ユージン、ユージン……口に馴染むいい名前だ。傭兵ギルドへようこそ。今後の活躍を期待している。」


彗星のように現れたザルカッシュが太い尻尾を揺らして去ると、先ほどまでの騒ぎが嘘のように静まり返った。


俺は肩をすくめ、傭兵登録を続けるために席へ戻った。


「今日はユージン様のおかげで、負傷者も出ずに済みました。ありがとうございます。」

「隣で少し騒がしくしただけですよ。こういうことはよくあるんですか?」

「うーん……一日に一回くらいは。戦闘職の方が多いですから、どうしても器物損壊なども多くて……。」


苦笑する彼女の様子を見ると、普段から相当苦労しているのだろう。

やはり接客業は誰にでも務まるものじゃない。


「それにしても、覚醒されているのに気づかず、危うくカッパー等級で発行するところでした。シルバー等級で発行しますが、よろしいですか?」

「はい、ぜひ。」

「ふふ、少々お待ちください。」


書類を改めて作成し、しばらくしてから俺はシルバー等級の傭兵証を受け取った。

傭兵証は銀色の四角い札で、名前と所属が刻まれており、発行にも相当な費用がかかった。


登録料に加え、カッパーからアイアン、さらにシルバーまでの昇級費用を一括で支払わされたからだ。

一度で済むのに、なぜ全部取るのか理解できない。


「私どもも本当はそうしたくないのですが、慣例ですので……。」


慣例なら仕方ない。払うしかない。

それでも一気にシルバーまで上がれたのだから、気分は上々だった。


基本は済んだ。

次は仕事探しだ。


「依頼を受けるにはどうすれば?」

「二階の掲示板をご覧いただいてもいいですし、こちらでお受けすることもできます。」


ここでも受けられるなら、わざわざ上がる必要はない。


「では、こちらで。シルバー等級でできる仕事は何がありますか?」

「少々お待ちください……」


彼女は脇に差してあったファイルを取り出し、俺にできる仕事を説明してくれた。

基本的に、自分より下の等級の仕事はすべて受けられるらしい。


ざっと目を通すと、カッパーよりはマシな依頼が確かに多いが、どれもピンと来なかった。


そんな中、目を引く依頼があった。


「これは何ですか?」

「ああ、それは条件付き依頼です。応募された方の中から、こちらで選考して斡旋しています。」

「俺も応募したいんですが。」

「それが……実績が必要ですし、依頼主が最低条件を設けていて、その基準を満たさないと……」


彼女の言葉を受けて改めて見てみると。

小さな文字が書かれているのが見えた。

なんでこんなに見づらくしてあるんだ?


書かれている条件を見ると、傭兵の等級から依頼回数、さらには位階の区分まで細かく設定されていた。


ここから選びたかったが、無理だと言われた以上仕方がない。

自分にできそうな仕事の中から、比較的まともに見えるものを指で示して彼女に見せた。


「じゃあ、この依頼でお願いします」

「アンデッド討伐ですね、受け付けいたします」


最近はタノス・ヘブン周辺にアンデッドが頻繁に出没していて、多くの傭兵が選ぶ依頼だそうだ。


初依頼としては悪くない選択だと言われ、持っていくものはないのかと聞くと、アンデッドは特性上、頭を叩き潰さないと動きが止まらないという。傭兵ギルドでの用事を終えた俺は、ちょうど近くに武器屋があったので、見物がてら入ってみることにした。


店に入ると、武器を品定めする魔族たちで足の踏み場もなかった。

俺もその中に紛れて、店内を見て回った。


「おお……」


誰が使うんだと思うような人の背丈ほどもある大剣から、ゲームでしか見たことのないモーニングスターまで。

魔族というだけあって種族が多様で、使う武器の種類も豊富なんだなと感心する。


ひと通り見ていると、店員の小僧が近づいてきて、探している武器があるかと聞いてきた。


「アンデッド討伐の依頼に行くんだけど、何かおすすめの武器はある?」

「あっ! 最近よく行かれる方が多いですね。普段使っている武器は何ですか?」

「ない」

「え?」

「今まで武器を使ったことがないって言ってる」


武器を使ったことがないという言葉に、小僧は目に見えて動揺した。

それでも店員だけあって、すぐに気を取り直し、俺に武器を勧めてきた。


「……あっ、えっと。初出陣ということですね。でしたら、あれなんていかがですか?」

「悪くないな」


武器を買うなら、鈍器系がいいだろう。

一本くらい持っていてもよさそうだ。


何がいいかと見回していると、隅で埃をかぶっている品物が目に入った。


「あれは何だ?」

「ショットガンですけど、銃器類はあまり売れないので、あそこに置いてあるんです」


それを見た瞬間、前世で観た映画を思い出した。

バイクに乗りながら銃を回して装填するのが格好よかったんだよな。


中国といえば拳法、アメリカといえばガンアクションじゃないか。

見ているうちに、俺の心はショットガンを使ってみたいという方向に傾いていった。


「売れてないなら安いんだろ。他の武器を買ったら、おまけで付けてくれたりする?」

「あはは……それは難しいですね。最近は作っているところがなくて、希少性があるんですよ」


気に入ったのが顔に出すぎたか?

埃をかぶっているくらいなんだから付けてくれてもいいだろうと思ったが、商売人じゃないだけあって察しが甘かった。


金を稼いで何に使うっていうんだ。

こういう時に使うものだろ。


どうせ今回の仕事は単発の傭兵募集じゃなく、タノス・ヘブン一帯を例年並みまで安定させるのが目的だ。これを機に色々な武器を試して、自分に合うものを見つけるのも悪くない。


「ショットガンを買ったら、弾薬は少し付けてくれる?」

「へへ、本当はダメなんですけど、一箱と清掃道具をお付けしますよ」

「よし、じゃあ弾薬も買う」

「ありがとうございます! どれくらいにしますか?」


弾薬一箱といっても数が少なかったので、追加で購入した。

ところが弾薬代が馬鹿にならないほど高く、本体より弾の方が高くつく始末だった。


思った以上に金はかかったが。

明日ショットガンを試せると思うと鼻歌を歌いながら家に戻った。


帰り道で買ってきたフライドチキンを食べながらショットガンを磨いて油を差していると、時間はあっという間に過ぎた。


何発装填できるのか確かめようと親指ほどの大きさの弾を入れてみると、五発も装填できるショットガンだった。

持ち上げてみると、ずっしりとした重さが何とも言えない安心感を与えてくれる。


そういえば、薬室にも装填できると聞いた気がするが……。

あちこち触って試した末、結局もう一発追加して六発装填した。


翌日、俺はバッグを背負い、案内係に教えられた場所へ向かった。

到着すると傭兵たちが長蛇の列を作っていて、俺もその後ろに並んだ。順番が来ると身元を確認され、石ころのようなものを一つ渡された。


「これを受け取れ」

「これは何ですか?」

「見りゃ分かるだろ。魔石だ」


誰が知らないっていうんだ。

つまり、使い切った魔石をなぜ俺に渡すんだって話だ。


「これを何に使うんですか?」

「なんだ、シルバー等級のくせに使い方も知らないのか? 今回の仕事でどれだけ貢献したかを、魔石に溜まる残留マナ量でカウントするんだよ」

「あ……」


確かに、そういうものでもないと真面目にやらないか。

一人一人監視するわけにもいかないだろうし、いい方法だ。


「分かったならどけ。後ろに並んでるのが見えないのか?」


ちらりと後ろを見ると、俺の後ろに並ぶ魔族たちが、こいつはなんでこんなに時間がかかるんだという顔をしていた。

初めてなら分からないこともあるだろうに、まったく笑えない連中だ。


魔石を受け取った俺は後方へ移動し、準備が整うのを待った。

しばらくして集合の声がかかり、俺を含め周囲に散っていた傭兵たちが一か所に集まった。

ざっと見ただけでも数十人は集まっている。


今日の作戦範囲や目標数などの説明を聞いていると、隣にいた魔族が話しかけてきた。


「それ、何の武器だ? 棒か?」

「これですか? 棒じゃないですよ」

「どこをどう見たら棒なんだ?」

「じゃあ、何に見える?」

「金属の棒に穴が空いてるところを見ると、魔道具じゃないか? 俺の言う通りだろ?」


それも違うんだが……。

本当に銃は人気のない武器なんだな。


俺は二人の魔族の誤解を正してやった。


「魔道具じゃなくて、銃ですよ」

「銃?」

「そんなものがあったのか?」


少しよそ見をしている間に、校長先生の訓話のような退屈な話は終わっていた。

俺は魔族たちの中に紛れ込み、今日の仕事場へと向かった。

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