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ギズモに依頼してから一週間が経った。
すぐに行ってもよかったが、急ぐこともなかったので一日遅れて彼を訪ねた。
しかし、一日遅れたせいか、不満そうに彼に一言言われてしまった。
「どうしてこんなに遅く来たんだ!」
「え?一日しか遅れてないんですけど?」
「その一日でどれだけのことができると思ってるんだ。待ってる間に首がもげるかと思ったぞ。」
ちゃんと期限に間に合わせたんだな。
正直なところ、ここに来て「もう少し時間をくれ」と言われるのは嫌だったので、一日遅れて来たのもある。
「他の仕事をしていればいいじゃないですか。」
「手が空いていなきゃ意味がないだろう。俺の作った作品を見て涙を流すお前の顔を見てこそ、気が済むんだ。」
どんなに良いものを渡しても、
俺の目から涙が出るのを見るのは難しいだろう。
ああ、冷たい炭酸飲料を一口でも飲ませれば、針で太ももを刺してでも涙を流させる覚悟はある。
だいたい味の似た食べ物はあっても、炭酸飲料はなかなかないんだ。
たまにポテトフライと炭酸飲料が猛烈に恋しくなることがあるんだ。
「じゃあ、どれ、ちょっと見せてもらおうか。楽しみだな、何が出てくるか。」
「こいつの言い方を見ろよ。お前が使うんだから心配しなくていいのか?」
「ここまで言ってるんだからちゃんと作ってくれたでしょ?心配したって物が変わるわけじゃないし。」
「ふん、ここに置いとけ。持ってくるからな。」
装備を持ってくると言ってから間もなく、ギズモが衣類を抱えて出てきた。
いくらなんでも布切れかよ?
気合いを入れて俺の好みに合わせて作ってくれると言っていたので、それなりに期待していたのに……
ギズモが装備をテーブルに置き、一つ手に取ったと思ったら、なんと三つあった。
はためく。
一番大きな布切れを払うと、
大きな服の姿が現れた。
「うん、雨具ですか?雨に濡れればいいだけですけど。」
「そんな目で見るからダメなんだ!マントだ、マント!」
ああ、ひとまず安心だ。
今着ている鎧と重ならない。
「お前、その不穏な目つきは何だ。」
顔にそのまま出てしまったらしい。
まあいいさ。
彼は俺の上司でもないし。
俺は客であり被害者だった。
大切な物があんな役立たずに変わったのを見た。
それでもデザインの才能はあるのか、なかなか格好良く作られていた。
「いい感じですね。試着してもいいですか?」
「お前の物だ。好きにしろ、ふん。」
俺の褒め言葉が悪くなかったのか、
口ではそう言いつつ手は正直だった。
彼が差し出すマントを受け取り、身に着けた。
絹のように柔らかく、着ている感覚がほとんどない。
さらにデザインも俺の好みにぴったりだった。
「どうですか?」
「そんなの着る機会もないから分からないけど、見た目はいいですね。」
「よく似合ってますよ。」
俺がマントを着て品評会を開いていると、
ギズモが横でマントの性能について話した。
「マントを着ていれば、たいした攻撃でも大丈夫だ。損傷箇所が大きくなければ自動修復機能もついてる。」
その言葉を聞いて俺は驚いた。
こんな服にそんな機能が?
一つの機能だけでも、まともな家一軒分の価値はありそうな機能だ。
「いいですね。」
素直に感想を言うと、
彼は得意げに追加機能もあると自慢した。
「ふん、さらに常に一定の体温調整機能と自動洗浄機能もついてる。」
「さすがギズモさんに来てよかったです。でも涙は出せませんね。」
「ちっ。」
「それは何の物ですか?」
俺はテーブルに残っている物を指した。
長い白い布が二つ、包帯か?
見ただけでは何に使うのか全く分からない。
「なぜ気になる?教えようか?」
「はい。正直期待してなかったんですけど、マントが思ったより良くて驚きました。」
気取らない褒め言葉に、ギズモはわざとせき込みながら言った。
「くっ、武器を使わないって言うから、俺が一つ作ってみた。手に巻いて使うんだ。」
「手に巻く?それを……?」
包帯のように薄いのを手に巻く?
あんなのどこで使うんだ、と言いたい気持ちが喉まで上がった。
しかし、たいしたことなさそうに見えたマントもこれだけ良いなら、期待してもいいんじゃないかと思った。
「さあ見ろ。エルフ、剣は持ってるだろ?出してみろ。」
ギズモが包帯を持ち、左右にピンと張った。
「はい。」
ぱつ。
「それでこれを切ってみろ。」
ギズモの言葉にリリカが俺を見た。
まだ受け取ってはいないが、その物の所有者である俺に同意を求めているのだろう。
俺はうなずいた。
壊れても文句は言わないと。
合図を受けたリリカが剣を上から下に振る。
スギュッ?
本来ならきれいに真っ二つに切れるはずの包帯は、ギズモの手から落ちるだけで、切れた跡は一つも見えなかった。
「耐久性はマントと同じだ。温度調整などの機能はないけど、使い勝手はいいだろう。」
「大事に使います。本当に報酬は要らないんですか?」
「俺は一言で二言は言わん。ほんとに感謝するなら、今みたいな良い素材を持ってまた俺のところに来い。久しぶりに良い素材で手応えを感じたから、またハンマーで叩くインスピレーションが湧く。遠くには行かん。」
「そうできるか分かりませんが、手に入れたら寄ります。」
去る前に包帯の使い方を教わり、両手に装着した。
包帯の上から触ると、その下の肌の感覚が伝わる。
まるで自分の皮膚のようで違和感がなかった。
包帯を巻き、マントを羽織った俺はリリカとゴムゴムと共にエルヴンハイムへ向かうポータルに身を任せた。
◇
リリカと俺は家を出て、タクシーを拾うために街へ出た。
「今日は昔の知人のところに行きます。」
「訪ねるということは、恩人ですか?」
所長が恩人なのか?
行き場のない俺に仕事をくれたのが恩人かもしれない?
そうだとしてもブラック企業だったけど……
「そうとも言えるし、違うとも言えるんですけどね。」
「それってどういう意味ですか?」
ぶっきらぼうな彼女の様子に、俺は肩をすくめた。
「さあね。実は俺もよく分からないんです。」
鋼の城から戻って以来、リリカと一緒に住んでいる。
幸い部屋は二つあるので、一つずつ使っている。
不便なら新しい家を探してやると言ったが、
大丈夫だと言うので同じ家に住むことになった。
どうせ今の家も賃貸で、金がないわけでもないので、もっと大きいところに引っ越してもいいのだが、リリカが大丈夫と言うので……
いや、実は俺が家を買いたいので、どうやってリリカを説得しようか考えていた。
ざわざわ。
タクシーを拾おうとしたら、路上に魔族が倒れていた。
周囲の魔族が何事かとその方へ集まり始めた。
話を聞くと、どうやら死んでいるらしい。
他殺の痕跡はないとのこと。
魔族は飯を食うより戦うことが多いので、間違いではないだろう。
さらに魔界が厳しいとはいえ、ああやって道端で倒れることも滅多にない。
大抵の魔族は体が丈夫なので栄養失調で餓死することはなく、戦場で戦って死ぬことが多かったからだ。
ちょうど客を降ろしている空のタクシーを発見。
他の誰かがタクシーを拾う前に、俺たちは急いで動いた。
ユージンが去った後。
死んだ者に興味を失った魔族たちは去っていった。
ガタン。
しかし、死んだと思われた魔族が微かに痙攣を起こし、その体から目に見える小さな虫が死んだ魔族の代わりに、別の宿主を探しに出て、日光を浴びて灰になって消えた。
◇
「タクシーで来たってことは、暮らしぶりが良くなったのか?」
「それをいつ見たんですか?」
「俺、ここに何年もいるんだ。座ってても分かるもんだぞ。で、隣の白いのは誰だ?まさかこいつか?」
ゴブリン所長が小指をひょいと立てた。
結婚してるのかと聞いているのだ。
「そういうわけじゃないですよ。本当に結婚する相手なら、なんでそんなこと言うんですか?」
俺はぶっきらぼうに答えた。
「お前?そんなわけないだろ。」
所長は自信たっぷりに言い返す。
うーん……俺のことをよく知りすぎだな?
「エルフは黒い剣しか見ないからだ。嬢さんも分かるだろ?」
「大丈夫です。」
「ほら、エルフ嬢さんも分かるって言ってるじゃないか。俺は人間の顔の区別は得意じゃないけど、ブサイクなのは分かる。」
「口だけ達者なのは相変わらずですね。」
「そうか?でもここには一生来ないと思ってたくせに。なんで来たんだ?」
「死んだかどうか見に来たんです。でも元気そうで何よりですね?」
「へっ、お前より長生きするから心配するな。」
「ひどいことを平然と言いますね。でもその腕はどうしたんですか?」
最後に見たとき、彼の腕には包帯が巻かれていた。
今は名前も思い出せない奴らが所長の右腕を壊したのに、今見るといつ怪我したのか分からないくらい完璧に治っていた。
「これか?」
所長は腕を風車のようにぐるぐる回して、健在ぶりを誇示した。
「薬塗って、飲んで、そうやって治ったんだ。」
「治療費、高かったでしょう?」
魔界だからといって、アイテムや回復ポーションがあふれているわけではない。
欠伸はともかく、使えるものは逆に手に入りにくい。
争いが頻発する場所では、命の予備ともいえる物を手に入れるのは難しい。
手に入れても守る力がなければ奪われ、冷たい死体になるのがこの世界だ。
「食って生きるためのことだから、俺の体は大事だと分かってる。死んでも金を持っていくわけじゃないし、使う時は使わなきゃな。」
「普段あんなに頑固にしてるから、弱ってるのかと思いましたよ。」
「こいつ、態度が大きくなったな。」
その言葉に、俺は肩をすくめた。
「ここに来たときから成人だったんですよ。元気そうだし、いいもの食べたんでしょうね。いくらかかったんですか?」
「なんだ?今さら良心が疼いたか?」
「そんなわけないでしょ。」
今だからこそ、互いに気にしないように話せるのだ。
俺たちのどちらかが間違っていたら、こんな会話はできなかっただろう。
「このくらいだ。」
所長は指を伸ばしながら、控えめに期待に満ちた目で俺を見上げた。
俺がここで働いていたときより成功したのが、彼の目にも見えるのだろう。
プライドを守るために受け取らないと言うこともできるだろうが、
そんなことをせず、素直な姿を見せる所長が良かった。
いや、冷静になろう。
所長は子どももいるゴブリンのおじさんだ。
俺はアカン空間のポケットに手を入れた。




