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リリカとゴムゴムはドワーフの案内に従ってダンジョンを回った。
最初に訪れたのは「石の墓」と呼ばれる場所だった。
四方にそびえる石柱は墓のように陰鬱に立っており、
鋭い岩は尖った歯のように天井に向かって伸びていた。
石柱から冷気が漂っているのか、肌に触れる感覚がひんやりしていた。
「天然の冷蔵庫みたいなもんです。食料を置けば一週間は新鮮に食べられますよ。特にビールが……」
リリカは彼の言葉を一応聞き流して周囲を見回したが、
地形が特殊なこと以外、目立った現象は見つからなかった。
次に行ったのは、大きな空洞であちこちに穴の跡がある場所だった。
「ここは見た目からしてちょっと変なところですよね?私はここ嫌いです。なんだか蜂の巣に入ったみたいで。」
空洞の壁の一角。
岩の割れ目に穴が開いていた。
見た目は崩れた跡のように見えたが、
近づいてみると単純な崩壊の痕ではなかった。
手で整えたような階段の跡。
エルヴンハイムにもこういう構造物があるので、
時間に耐えきれず削られたものだと分かった。
誰かがここに住んでいた痕跡なのだろうか。
手で壁面をなぞって見ていると、
指先にカチッと引っかかる異質な物体を感じた。
古い埃を「ふうっ」と吹き飛ばすと、
人の形をした一片が姿を現した。
いや、人というよりもっと素朴に見えた。
じっと見ていると、横からゴムゴムが近づいてきた。
「なんだか私に似てる気がしますね?こいつ、なかなかのイケメンだ。」
その言葉にリリカはさすがに肯定できず、ドワーフに尋ねた。
「これ、何かご存じですか?」
「うーん、ダンジョンのあちこちにそういう形状は見かけるけど……私の知る限り、探検初期にゴーレムが出たらしいんだ。ずいぶん昔の話で私は見てないけど、そう聞いた。」
「ゴーレムなら残っているはずですよね?」
「うはは!無理無理。全部溶鉱炉に入ったからね。あ、ダンジョンの下に大きなゴーレムが眠っているらしいという噂があるけど、残っているのはそれ一体だけだ。」
今の状況ではあまり役に立つ話ではなかった。
いくつか回って空振りばかりだったが、かなりの水量がある場所に到着した。
「ここが最後だ。地下水が湧き出るのか知らないけど、飲料水として使う場所だね。」
地上にあれば湖として名前が付いてもおかしくない規模だった。
そしてここに到着したとき、リリカはねじれた魔気の流れを感じた。
エルフはマナに敏感な種族。
世界樹が浄化作用を果たせなかったとき、
魔気に染まった者たちはダークエルフに変わったのではないか。
リリカは耳飾りを弄った。
エルフがエルヴンハイムの外に出る際に使う耳飾りは、一定期間使用者のマナと連動して魔気を防ぎ、微弱ながら浄化能力も備えている。
無条件ではないため、本来なら適当なときにエルヴンハイムに戻る必要があるが、ユージンの浄化能力があるので、そうしなくても彼の一行に合流できた。
リリカは集中して魔気の流れを追いながら進んだ。
種類は違えど、魔気も一種の気の流れ。注意を払えば見逃すこともない。
獣人とドワーフはリリカの後ろをついていき、ある場所で立ち止まった。
「ここですか?」
ゴムゴムから見ると、今まで通った道と変わらないように見えた。
「この場所が問題の根源とは断定できませんが、有力な候補の一つなので一度確認してみます。」
集中して間もなく、
リリカは魔気が不規則になる地点を正確に見つけた。
「ここをご覧ください。」
リリカが指した場所をゴムゴムとドワーフが確認したが、
石が壊れている以外、特に異常は見つからなかった。
「これってどういうことですか?」
「詳しい事情は分かりませんが、壊れた石がダンジョンの暴走を抑えているんです。」
これは自然の流れを利用した一種の陣法だった。
規模が大きいだけで、エルヴンハイムも似たような方式を使っている。
守護者として教育を受けたリリカは、一目でそれと分かったのだ。
「…よく分からないけど、陣法を構成していたものが壊れたから、似たように作って地面に埋め直せば解決ですね?」
「それなら私がやれますよ。」
「本当にできますか?」
「おう!ドワーフを何だと思ってるんだ。俺たちは子供の頃から玩具を自分で作る種族だ。」
二人の会話を聞いていたリリカが口を挟んだ。
「それなら簡単だけど、これは魔法と呪術的処理を施した物だから、普通の方法では無理です。」
「じゃあどうするの?」
「城にいる同胞の中で、レベルの高い魔法使いがいるので、ここに連れて来る必要があります。」
魔法的処理だけでは無理だが、
魔法に精霊を加えれば呪術を代替できるだろう。
壊れた石を魔法使いに見せるため、落ちている石を拾ったリリカは、来た道を戻るために動いた。
ダンジョンを出て上段がある場所に行ったリリカは、持ってきた石を魔法使いに見せた。
「可能だと思います。」
ただし、数日の準備期間が必要だと言われた。
「ユージンには言わないでいただけますか?」
「なぜですか?」
「エルフの問題なので、私たちだけで解決しようと思っています。」
そう言ったが、恩人に無駄な心配をかけたくないリリカだった。
「うーん…そうしましょう。私だけを信じてください。」
ダンジョンに入って出た数日後、
三人は再び集まり、魔法使いとともにダンジョンに入り、壊れた部分を修復した。
するとダンジョンに設置された陣法の流れが円滑に動き始めた。
すべての作業を終えたエルフの魔法使いはリリカのそばに近づき、低く呟いた。
「リリカさん、この陣法の中心に使われるアイテムは自然に破壊されるには膨大な時間が必要でしょう。他のものを見る限りそうは見えません。」
「…どういう意味ですか?」
「人為的な破壊のようです。どうされますか?」
「放っておきなさい。私たちが依頼されたのはモンスターの処理なので、やるべきことは終わりました。」
「そうしましょう。」
そのとき、ドワーフが二人の間に近づいてきた。
「くっ、全部終わったのか?」
「はい。ダンジョンのモンスターだけ処理すればいいです。以前のように現れることはないでしょう。」
「うっひゃー、エルフの娘さんもご苦労様。うんざりな奴らを見なくて済むのは嬉しいね!」
にっこり。
ダンジョンでの任務を終えたリリカはドワーフのマスターを訪ね、
任務完了の報告をした。
「早いな。モンスターだけ処理すれば出てこないのは確実か?」
「ダンジョンの異変を処理しましたので、予想通りなら大丈夫です。」
その言葉にマスターが怪しむと、リリカが一言添えた。
「ダンジョンを整理し、モンスターが現れないことまで確認してから約束を履行してもらいます。」
「うむ、そうするか。エルフの娘さんに連絡すればいいか?」
「私は別の都市に行く予定なので、上段に連絡していただければ大丈夫です。」
残った仕事は、強鉄の城に残るエルフだけでも可能なことだった。
個々の能力も十分なので、突発的な状況が発生しても十分対応できるだろう。
すべての仕事を終えたリリカはゴムゴムとともに宿に戻った。
ちょうど夕食の時間だったので、リリカはその間苦労した彼に食事を振る舞いたいと言った。
「ここ数日間お疲れ様でした。ユージンに言わなかったこともありがとう。」
「約束ですし、ちょっと体を動かしただけですよ。」
彼のような男性だからこそ、ユージンと近くにいられるのかもしれない。
注文した料理が出され、リリカは空のグラスに持ってきた果実酒を注いだ。
ゴムゴムはグラスを手に取り、飲む前に香りを嗅いだ。
「わぁ…本当にいいですね?」
「たくさんあります。」
「いただきます。乾杯。」
「乾杯。」
互いにグラスを打ち合わせ、頭を傾けた。
リリカはひと口、ゴムゴムは一杯を。
「美味しい。食べてる途中で死んでもわからないね。」
「何だよ?どうして死ぬんだ?」
トコトコ。
お腹が空いて降りてきたら、ゴムゴムとリリカが私だけ置いて一緒に夕食を食べているのが見えた。
リリカのグラスに酒が注がれているところを見ると、酒も一杯やっている様子。
親しくなった二人を見て、私は満足そうな表情で言った。
「二人はいつこんなに仲良くなったの?」




