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リリカが確認したところによると、
鋼の砦には都市の主がいないらしい。
エルブンハイムには世界樹様がいて、
ユージンと向かう場所にはヴァンパイアが頂点に立っている。
鋼の砦には主はいないというが、
だからといって管理する人員がいないわけでもなく、ここは他とは違い、鍛冶の腕で砦を管理できる人員を選ぶのだという。先日会ったギズモもその一人だった。
マスターになるほどの腕があれば誰でも挑戦できるという話だが、聞こえてくる話によれば、全員ドワーフだそうだ。
「先に行け」
一瞬の騒ぎはあったものの、リリカは自分を呼ぶというドワーフに会うことにした。
敵というものは、見えるよりも見えないものの方が脅威である。
方法は洗練されておらず粗野だが、こうして名乗り出て自分を訪ねてきたのだから、脅威はなくなったと判断したのだ。
それより違和感を覚えたのは別のところだった。
明らかにこの件とは関係なさそうなのに、
彼女に従ってくる獣人がいた。
「なぜついてくるのですか?」
「姉さんに何かあれば、私がユージン兄さんに顔向けできませんよね。兄さんの仲間なら、私の仲間や同然ですから!」
感じる気配からして、覚醒はしているようだ。
それでも、彼女より強くはないと感じた。
誰が誰を心配しているのか分からないが、止める必要性は感じなかった。
そして、あの大きな獣人がそばにいれば、雰囲気を作るときに役立つだろう。
「···お好きにどうぞ」
「はい!」
リリカとゴムゴムは、彼らに従ってマスターのいる場所へ向かった。
到着すると、そこには二人のドワーフが待っていた。
「お前が今回、上段を率いて我ら鋼の砦に入った魔族か?」
「そっちは違うだろ。隣のエルフだ」
「そうか?最近忙しくてな。知らなくても仕方ないだろう。なんで大声を出すんだ?」
年配のドワーフ二人が椅子に座ってやり取りする様子から、二人の間に序列の上下はないことが分かった。
「ふう···客が来たんだから、その話は後にしよう」
「はい」
一方のドワーフは、言われたことで拗ねた様子を見せた。
自由奔放と言うべきか···?
その様子を見たもう一人が首を振り、
何事もなかったかのように鋭い目つきに変えた。
「ここに呼んだ理由が気になるだろう」
「はい。おそらく上段に関する話でしょう」
「そうだ。長くは言わん。突然訪ねてきて、見慣れぬ酒をあれだけ売ると言えば、安定していた市場が乱される」
今の言葉で、認めたも同然だ。
エルブンハイムから持ち込んだ酒の販売を妨げたと。
「味見したが、美味かった。私はいいと思った」
その間に少し撒いたものを味見したのだろう。
「クフム、私も完全に反対しているわけではないと分かってほしい。美味しい酒は多ければ多いほど良いのだから」
「でも、なぜ販売を止めるのですか?」
「ご存じの通り、魔界は厳しい場所だ。今後、友になるかもしれない相手に簡単に場所を譲れないということだ」
つまり、誠意を示せということか。
「私たちはどうすればいいのですか?」
「クフム、まあ···大きなことを望むわけではない。小さな信頼を一つほしいだけだ」
「鋼の砦は名も知れぬ古いダンジョンの上に建てられた。ダンジョンで出る資源を使っていたが、採算が合わず閉鎖した。しかし管理人がいないせいか、モンスターが溢れ出て外に出るのだ」
「モンスターの処理を任せてもらえれば、我々はエルフとの関係改善に尽力すると約束しよう。どうだ?」
拒否するならやってみろと言わんばかりの顔。
ちょうど訪れたエルフを傭兵として使うために、今回のことを仕組んだのだ。
「やりましょう」
モンスターを処理することで、
彼らの言う信頼を得られるなら、
それ以上安いものはないとリリカは考えた。
「出陣する日時を知らせてもらえれば、案内役の兵を付けよう」
「今、行きます」
「そうか···それなら少し待てば案内するドワーフを付ける」
ダンジョンをよく知る者を待つ間、
隣にいた獣人が珍しく囁いた。
「私が最後まで姉さんをお守りします」
「よろしくお願いします」
「任せてください」
しばらくして、案内役のドワーフがやってきた。
彼に従い、ダンジョンのある場所へ移動した。
しかし、なぜか手伝う兵士の姿は見えなかった。
「他の兵士はいつ合流するのですか?」
「え?私以外の兵士も来るのですか?聞いてませんが。えっと···エルフ側で増員するのではなかったですか?」
「……」
どうやら支援してくれると言ったのは、案内役だけということだったらしい。
「…ああ、先にどんな場所か視察に来たわけか。まあ、初めてだから大勢で行く必要はないな。元々はそうではなかったのに、ある時からモンスターが多く出て、雇った傭兵でも手に負えなくなったというわけだ」
その言葉を黙って聞いていたゴムゴムが、胸をポンポンと叩きながら言った。
「今まで弱っちい奴ばかり雇ってたんだな。今回は俺たちが来たんだ、心配すんな」
自信がすごかった。
戦闘では些細な差が勝敗を分ける。
自信があるだけでなく実力も十分なら、後ろを任せても問題ないだろう。
リリカは彼をおまけのように思ったが、実際どうかは見てみないと分からないことだった。
「着きました。誰もいないせいか、薄気味悪いですね」
彼の言う通り、ダンジョンの奥深くから冷たい風が吹き込んできた。
ダンジョンに入る前、リリカは新鮮な空気を大きく吸い込み、言った。
「先に行っていただけますか?」
その言葉に、案内役のドワーフはぴょんと跳ねた。
「この人数で降りるのですか?私は戦闘員ではないので、スライムでも出たら死にます」
「···それなら、私が前に立ちますので、後ろから道を教えてください」
「クフム。それなら······」
結局、リリカとゴムゴムが前に立ち、
案内役は後ろから道を示すことになった。
ダンジョンに入ると、光一つなく暗かった。
それでもエルフは夜目が利くので、少し気をつければ歩けないほどではなかった。
「お二人とも大丈夫ですか?」
「この程度なら問題ありません」
ゴムゴムも平気そうだ。
「暗いな···どれどれ」
ドワーフは懐を探り、火打石を取り出した。
そして壁に近づけて何度か打つと、壁に沿って炎が立ち上り、内部を明るく照らした。
ドワーフは見せつけるように笑いながら言った。
「これで大丈夫です。行きましょう」
これでは対応が遅れるのも仕方がない······
そんなことが起きないことを願うばかりだ。
入口付近のためか、まだモンスターの姿は見えなかった。
後ろから聞こえる荒い息遣いと足音が静寂を破った。
どれだけ奥まで進んだだろうか。
モンスターの気配を感じた。
「来ます」
ゴムゴムも気づいた。
ドワーフの唾を飲む音も大きく聞こえた。
パッ。
リリカは手首のブレスレットから武器を取り出した。
驚く視線を感じながらも、前だけを見つめた。
迫りくるモンスター。
スッ。
簡単な手の動きでモンスターを倒すリリカ。
それが始まりだったのか、絶え間なくモンスターが現れた。
「私が前に出ます。うおらっ!」
ゴムゴムが前で防いでくれるので、
攻撃するだけで済み、素早く片付けることができた。
「おお、お二人ともすごい実力ですね」
「今までこんな奴らに手こずってたのか?この程度なら時間の問題だな」
「ふう···どこから出てくるのか、尽きることがありませんね。だから最初は金稼ぎ用に傭兵が駆けつけたのに、物量の前に太刀打ちできず、一人また一人と死んでいったので、誰も来なくなったのです。聞くところによれば、プラチナ以上の傭兵を呼ぶと言っていましたが、それが皆さんですか?」
リリカとゴムゴムの実力を確認したドワーフは、最初より緊張が解けた。
以前案内を担当した傭兵たちとは明らかに違う実力、前回のような危険なことは起きないだろうと思ったのだ。
「いや、私はシルバー等級ですけど、リリカさんはどうなんです?」
「うーん···残念ながら、私は傭兵等級というものはありませんが······」
「あはは···そんな等級が重要ですか。そんなこともありますよね。やはり実力が優先でしょう。ははは!」
口が滑らかになったドワーフは、その後もダンジョンについて多くのことを話した。
ダンジョン内にある希少鉱石や食べられるモンスターなどについて。
「それより、このような事態が起きた理由、心当たりはありますか?」
「うーん···あまりにも突然のことなので······」
「では、ダンジョン内で特異な現象が起きる場所や、人為的な地形のある場所があるか、一度考えてみてください」
リリカの言葉に、ドワーフはうなずき、思いを巡らせた。
足で地面を軽く蹴りながらダンジョンを思い出すと、いくつかそんな場所が思い浮かんだ。
「いくつかあるようですが、行っても何もないでしょう。ダンジョンが古いので、すでにすべて明らかになっていますから」
「そうでしょうね。それでも、とりあえず確認してもらえるよう案内をお願いします」




