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ゴムゴムと再会して、夜が明けるまで飲み明かした。
リリカは途中で先に部屋に戻ると言ったので、二人だけで食事をしたが、久しぶりに男同士で過ごすと酒がどんどん進んだ。
そして、ゴムゴムも俺と同じ宿で部屋を取ったらしい。
「ここ、めっちゃ高いね?」
軽んじて言ったわけじゃなく、本当に高い。
俺も特級魔石を精製して得た金でなければ、とても手が出せないほどだ。
「お金はたくさんあります」
「…どうして?」
「私のものじゃなくて、家のお金が多いんです」
ああ、なるほど。
そういうことか……納得できる。
この奴、金持ちの坊ちゃんだったのか。
ゴムゴムが食べる様子を見ると、シルバーランクの傭兵の給料だけでは食費が賄えないだろうと思って、何度かごちそうしたことがあったが、ようやくすべての疑問が解けた。
家の支援があれば、あれだけの食費もここに来たのも納得がいく。
「羨ましいな。お金の心配はないだろうに、どうして傭兵をしているんだ?」
「家にいると雰囲気が窮屈で自由を求めて脱出したんです。ついでに修行もして」
まあ、よく分からないけど、
それぞれ事情があるんだろう。
「うはあ、私はそろそろ寝に行きますね。ではまた」
「うん、疲れてるだろうからゆっくり休んで」
あくびをするゴムゴムを見送って、リリカの部屋に上がった。
とはいえ、すぐ隣の部屋だが。
朝早く行く場所があるので、もしその時まで俺が寝ていなければ起こしてほしいと言われていた。
聞かなかったが、ここに来る時に一緒にポータルで来たエルフたちに会いに行くつもりらしい。
表面は冷たそうでも、心は温かいエルフだから、一緒に来たエルフたちのことを心配しているのだろう。
目の前で、俺はドアを叩く前に目を閉じて聴覚を研ぎ澄ませた。
部屋からはゆっくりだが規則的な呼吸が聞こえる。
足音や物音がないことから、まだ寝ているようだ。
「俺に聞けばいいのに、もどかしいな」
淑女の部屋に無断で侵入しろと言うのか?
「お前、人間の心が分かってないな」
万一嫌われるかもしれない行為を勧めるアイリアンの言葉は軽く無視して、ドアをノックした。
トントン。
聴覚に優れたエルフらしく、
ドアを数回叩くと目を覚ました。
「どなたですか?」
「ユージンです」
油を塗ったような音とともにドアが開き、寝癖のついたリリカが姿を現した。
ん?
なんだ、この桃の香りは?
いつ果物を買ったのだろう?
ドアの向こう、ベッドの前に置かれた桃が一つ見える。
「昨日は飲みすぎて、一人だったら起きられなかったかもしれません。ありがとうございます」
「朝までゴムゴムとビールを飲んで良かったですね。気をつけて行ってください。私は自分の部屋に行きます。用があれば起こしてください」
リリカを起こした後、俺は自分の部屋に入りベッドにうつぶせになった。
もう用事はなく、装備ができるのを待つだけだ。
◇
「先に上がっておきます」
「もうですか?」
「何がもうだよ。今何時だと思ってるんだ。眠ければ先に入ればいい」
「私ももう少し居たいんですが、明日の朝早く行く場所があって……もし起きられなかったら、その時まで起きていたら起こしてくれますか?」
「私たちもこれを飲み終えてから部屋に戻るつもりですけど……朝まで起きていたらそうします」
「姉さん、先に入ってください」
まだ酔うほど飲んでいたわけではないが、リリカは明日行く場所があったので先に席を立ち部屋に戻った。
そしてベッドに横になる前に体を洗うため、
隅にあるシャワールームに入り水道をひねった。
シャワーから流れるお湯を受け、疲れを洗い流した。
シャー……
ここに来てまだ一日だが、便利な物をたくさん見た。
精霊を友にできないドワーフが器用だと、リリカは思った。
ポータルも開けるようになったので、エルブンハイムにも変化の風が吹くだろう。
シャワーを浴びながら、ふと、
少し前の集まりが妙な組み合わせだったと考えた。
人間、エルフ、そして獣人。
獣人は獣性が強い。
性格上、他者と関わるのが苦手で、
彼ら同士で序列が決まっていなければ単独行動を好むと聞く。
ユージンに躊躇なく近づいたところを見ると、二人はとても親しいのだろう。
社交性があると……
「ん?」
髪を洗いながら果実に触れた。
久しぶりに心を落ち着けたら、枝から桃が育ったようだ。
頭に枝があるということは、世界樹と契約した一族の証。
誇らしい証ではあるが、果実がなるのは必ずしも良いことではなかった。
正体不明の者の襲撃でしばらく事態の収拾に追われ、その間は果実がなる気配はなかったが、これでは何もできない。
眠れないということだ。
数日寝なくても問題はない。
しかし、今はそうしたい気分ではなかった。
リリカは果実が熟すのを待ってから眠った。
翌日、
案の定、一人で起きられなかった。
ユージンが起こしに来て、ようやく仲間のもとへ行けた。
「リリカさん、昨日行ったことはうまくいきましたか?」
「はい。でも、何か良くないことがありましたか?」
「それが……」
雰囲気が良くないので責任者に聞くと、ドワーフたちの反応が尋常でないという。
酒だと確認して喜ぶが、なぜか購入をためらう反応だと。
「まだ判断するのは早いので、他の場所も回ってみてください」
「分かりました」
「助けが必要なら、私がいるところに連絡を送ってください。鋼の砦にいる間は手伝います」
本来なら状況を見て顔を出すだけにするつもりだったが、上段の空気が尋常でないと感じたリリカは、翌日も朝早く起き、上段がある場所へ足を運んだ。
路地を回って進むと、リリカは誰かがついて来る気配を感じた。一人ではない。
上段へ行く道を迂回したのに、ついて来るので後をつけられているのは確かだ。
今すぐ制圧して誰が差し向けたか突き止めることもできるが、まだ危害を加えてこないので、しばらく放置することにした。
上段に到着し、責任者に会うと、今回も皆購入をためらっていると言われた。
「彼らの上部からの指示が出たのでしょう。そうでなければ、買いたいと言う場所が一つもないはずがありません」
もっともな言い分で、ここまでついて来ていたのもそのためだ。
尾行を見る限り、背後に影響力のある者がいるのは確かだが、
ここではエルフが異邦人なので、慎重になる必要があった。
「当分、私が言うまで単独行動しないように伝えてください。見て回る場所はすべて見たようなので、必要があれば訪ねてくるでしょう。販売ルートはここだけではないので、手ぶらで戻っても責められないはずです」
「分かりました」
見送られ、宿へ戻る道。
リリカは尾行がついて来ていることを感じた。
もう接近しようとしているのか?
後ろからためらいなく近づいてくる。
攻撃されたらすぐ反応できるように、
体を緊張させた状態で振り返った。
「どこに行ってたの?」
ゴムゴムだった。
「ちょっと用事で出かけてきました。ところでゴムゴムさんは?」
「ユージン兄さんとご飯でもと思って向かおうとしたら、後ろ姿を見たらリリカ姉さんがいるじゃないですか」
リリカはゴムゴムと話しながらも、周囲の警戒を忘れなかった。
やはり彼以外にも、ここを監視している気配がある。
「気になることでもあるの?」
ゴムゴムの感覚は鋭いようだ。
とはいえ、この件に関係のない獣人に話すわけにもいかない。
別の方向に注意を向けることにした。
「首にあるのは何ですか?見たことないけど」
「ああ、これですか?どう見えますか?今回、注文制作したものです」
「かっこいいですね」
「うふふ、でしょ?」
彼の首には棘のネックレスが掛かっていた。
鋼の砦で装備を作ると言っていたが……なぜか、首を守るだけで十分らしい。
「帰り道、一緒に行きましょう」
今日は大事なことはないだろう。
「そうですね」
ゴムゴムと宿へ戻ろうとしたところ、
あまりにも油断していたのか、周囲を取り囲まれた。
「そこのエルフ。マスターに呼ばれた、一緒に行くぞ」




