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これまでの出来事を通じて親しくなったとはいえ、
リリカが俺について他の都市へ行くというのはまた別の話だ。
地球のように都市間の移動が簡単なわけでもなく、
都市といっても内部を見れば種族構成も異なる。
各都市は別の国と言っても差し支えないほどだ。
なぜついてくるのか疑問だが、とりあえず話を聞いてみることにした。
「理由はありますか?」
「世界樹様がこれまでエルフのために魔気をマナに変えてこられたことはご存じですよね?」
「はい、そのおかげでノエル様が世界樹様を助けていると聞きました」
「そうです。今までは綱渡りのように危うく過ごしていたのですが、今回敵の襲撃で事態が起こったんです。結果的には、今回世界樹様が安定化したことで、より良くなりましたけどね。ほら、見てください」
そう言ってリリカが世界樹を指した。
魔気に侵され黒く変色していた世界樹は、今や本来の姿と調和していた。
「世界樹様から連絡がありました。ユージン様が今後数回力を尽くせば、以前のようなことは起こらないそうです」
「良かったですね」
本来の役割も果たせるようになり、魔界の環境にも順応できたということだった。
ここで一生暮らすわけでもないし、数回だけなら俺も手伝っても構わない。
「いつから始めればいいですか?」
「世界樹様も時間が必要なようで、一度で終わるわけではないみたいです。とはいえ、ユージン様をエルヴンハイムに縛り付けることもできませんよね? だから誰か一人がついて定期的に連絡を取るのが良いという話になり、その仕事に私が志願しました」
俺の知らないところでいろいろ決まっていたんだな。
断れないだろうな。
まあ……リリカくらいなら問題ない。
俺より強いし。
「わかりました。それでいきましょう。今後よろしくお願いします」
「私もよろしくお願いします」
俺たちは手を取り合って振った。
リリカと共に出発することを決めてからこの一週間ほどで、ようやく特級魔石の浄化作業を終えた。
数百年分も溜まっていたせいか、本当に多かった。
そのため、もらうことになっていた報酬も持ちきれないほどだったが、
リリカの両親からアカシックポケットを一ついただけた。
部屋一つ分の小さな空間ポケットでも、相当高価なものだと知っているが、快く渡してくれたのだ。
「リリカをよろしく頼むぞ」
よそへ行く娘を頼むという意味が込められた、賄賂のような贈り物だったが、
元々彼女に親切にしてやるつもりだったので、高価でも遠慮なく受け取った。
エルヴンハイムを離れ、鋼の要塞へ向かう日。
俺たちは皆の見送りを受けながら、ポータルに身を任せた。
◇
依頼を成功させたバルタザールは、レイナと共に隠された迷宮ダンジョンの入り口に到着した。
「記録通りなら、物はこの中にある」
彼女の言葉に手を伸ばそうとしたその時、
「やめておいた方がいい。普通の結界ではなく、空間断絶を起こす結界だから、俺くらいの空間術師でないと入れない」
その言葉を受け、バルタザールは影から新鮮なモンスターの死体を取り出した。
そして結界に向かって投げると、
スウ─
赤みがかった結界に触れた瞬間、モンスターの体から血が吸い出され、ミイラになった。
良い兆しだった。
結界の近くで半日待った結果、
一人が入れるほどの穴が開いた。
「今だ。入れ。一週間待つ」
チラッ。
「契約は守るから心配するな。何より、お前のやろうとしていることが成功してほしいんだ。昔からユリアは気に入らなかった」
「行ってきます、レイナ様」
バルタザールが結界の中に入ると、すぐに穴は塞がった。
もう後退はない。
迷宮ダンジョンで多くの出来事があったが、
ダンジョンとの相性が良く、どうにか中心部に到達しオーブを手に入れることができた。
オーブからは深紅の波が押し寄せるかのようだった。
ヴァンパイアの始祖の血が入ったオーブを手に入れたのだ。
「時間通りに出てきたな。品物は?」
「ここにあります」
懐に入れたオーブを見せると、レイナは満足そうな顔をした。
計画に必要な最後の一片を揃えたバルタザールは、タノスヘブンに入るや否や、計画を実行に移した。
オーブからヴァンパイア始祖の血を抽出し、
透明で髪の毛より小さい虫を集めた壺に注ぎ込んだのだ。
長い時間をかけて改造した虫たちが始祖の血を吸った。
しばらくすると、虫たちは血と見紛う色に変化した。
そして以前に手配しておいた血液銀行の職員の元へ行き、小さな袋を渡した。
「これだけで本当に孤独をなくしてくださるのですか?」
「はは、俺はお前に孤独を与えたことはあっても、間違ったことを言ったことはあるか? お前は血液タンクにこれを入れればいいだけだ。簡単だろう?」
「……信じます」
袋を受け取り、建物に入っていく職員の後ろ姿を見送り、バルタザールは拳を固く握った。
ついに始まる。
才能がないと評価されていた彼が、どうやって六位階まで上り、どう超越者になるのか、世に示す時が来たのだ。




