26
一週間にわたる祭りは楽しかった。
一番良かったのは果実酒だ。
酒はエルフが信じられないくらい上手く作る。
肉を食べないからそっちの方向に特化したのだろうか。
全部味見してみようと決めたが、種類が多くて新しいものが次々と出てきた。
そして祭りが終わった今、
俺は金を稼ぐために特級魔石を浄化している。
なぜこんなことをしているかというと……
仕事もうまくいって気分も良いだろうし、
残った金を考えずに酒を飲んで残高を使い切ったことが過去にあったからだ。
「私が出しましょうか?」
祭りを案内してくれたリリカが、金を出すと言ってくれたことがあった。
男として、そこで酒を飲むために金をくれと言えるわけがない。
「帰りの旅費も足りないし、私、エルヴンハイムでできる仕事はありませんか? できれば高収入で……」
「思いつくことがいくつかあるので、一度調べてみますね」
そうして働いた対価として、少額ながら金を貸してもらい、
今は部屋で特級魔石を浄化しているところだ。
他の都市では特級魔石は都市のインフラやポータルの開放に使うが、
エルヴンハイムではこれまでただ貯めるだけで使っておらず、蓄積量が半端ではなかった。
俺はそれを浄化して金を稼ぎ、
エルヴンハイムは特級魔石を使えるようになる――互いにウィンウィンの仕事だ。
しかも。
「ここに来るときは飛行艇に乗って来ましたよね?」
「ええ」
「それなら私たちがポータルを開いてあげます。それに乗って行ってください」
都市間の長距離輸送にしか使わないポータルを個人用に開いてくれるというので驚いた。
「えっ? 本当ですか?」
「ユージン様のおかげで特級魔石を使う機会があったので、このくらいはしてあげないとね」
そうしてポータル使用の許可を得た。
景色を楽しむという旅行の醍醐味は失われるが、
早く家に帰って足を伸ばして休める方がありがたかったので、素直に感謝した。
俺は浄化した魔石を片隅に置き、
新しい魔石を取り出してテーブルに並べた。
以前なら一つも浄化するのが大変だっただろう。
だがノエルからドラゴンハートを手に入れて四位階にまで到達したおかげで、一度に十個浄化しても以前のように負担を感じる程度になった。
位階一つの差は大きいが、
俺の感覚では位階が一つ上がっただけでこれほど差が出るのは極端に思えるし、世界樹を浄化した経験の方がより大きく影響しているのではないかと思う。
今日分の仕事を終え、俺は部屋に戻ってベッドに横になった。
ここでの仕事が終わったら、タノスヘブンに戻ったら俺は何をしようか?
特級魔石の浄化で報酬をもらえるので、今後は傭兵の仕事をしなくても済むだろう。
前世で叶えられなかった“ファイア”をここで達成できるとは思わなかった。
すぐにでも他のドラゴンを探しに行くのも良いだろう。
片隅に置いた世界樹の樹皮に視線を移す。
布団で覆って寝られるほどの量だ。
「アイリオン」
「何?」
「これ、どこで使うの?」
「使い道は多いはずだ。普通のものじゃないから、どう使っても想像以上の結果をもたらすだろう。あれはそういうものだ」
特別なものだというのは俺も分かっている。
なんと八位階の副産物なのだ。
これを持ってきたときの反応には度肝を抜かれた。
中にはひざまずいて泣く者もいたほどだ。
「そう言われても、どう使えばいいか分からないけど……」
するとふと、前世で見た映像が思い浮かんだ。
「心象に持って行けるだろうか?」
「何をしようとしているのか分からないけど、やってみないことには分からない。あれは可能かもしれない」
その言葉を聞いて、俺は勢いよく立ち上がり、世界樹の樹皮を持って座った。
「何をしようとしてる?」
「ああ、やってみたいことがあるんだ」
目を閉じ、久しぶりに心象に入る。
いた! 世界樹の樹皮も心象に持ち込めた。
「ふふふ……」
俺が不気味に笑うので、ジャーンは「また何やってんの?」という顔で俺を見ていた。
今日は思う存分やらせてもらおう。
俺は新芽のところへ歩み寄った。
位階が上がったせいか、ずいぶん成長している。
かつての細身の姿は消え、枝が豊かに四方に伸びている。
「よし、やってみようか」
俺の考えはこうだ。
心象は現実ではない。
だが新芽は確かに存在している。
世界樹の樹皮も存在する物だ。
さあ、ならば。
心象の中では俺は神である。
この二つで何をしてみるか……
俺は心象に持ち込んだものを広げ、新芽を包み込んだ。
そして八位階の世界樹の樹皮を巻き付けるという意思を発現させた。
◇
「何か変わったことはない?」
「うーん……」
その言葉に、俺はしょんぼりした。
結果として、世界樹の樹皮を巻き付けることには成功した。
元々一つの存在のように、新芽に吸収されて違和感なくなった。
問題は、本当に違和感なくなっただけで、変化がないことにある。
ゲームで全財産同然のアイテムを失う覚悟で10%の確率を突破して強化したのに、何の能力も上がらず+1だけ上がった感じ――
実際にやってみるとあまり気分の良いものではなかった。
幸い、受け取った量が多かったので半分ほどは残っているのがせめてもの慰めだ。
翌日、残った分を活用しようとリリカを訪ねた。
「ちょうど私もユージン様を探そうと思っていたところです。重要なことではないので、先に話してください」
「もらったものをどう使うか、意見を伺いたくて」
「色々方法がありますよ。装備を作ったり、よく乾かして煎じて飲むと良いです」
どうやら食べるより装備にする方が良さそうだ。
俺は喜んで、装備にしたいという意見を伝えた。
「ですが、私たちが魔界に来ることになってから、その道の名工の系譜は途絶えてしまったんです」
「できないということですか?」
「できないというわけでは……」
リリカはためらう。
そして認めたくはないが、無理やり言うように口を開いた。
「あのドワーフなら可能かもしれませんね。昔から世界樹の枝を探していると言っていましたし……」
ん? どこかで聞いた名前だ。
「もしかしてギズモのことですか?」
「え? 知り合いですか?」
「……少しだけ。仕事上で知っているだけで、一方的に知っている感じなので、あの方は私のことを知りません」
リリカからあの名前が出るとは。
そんなに有名なドワーフなのか。
種族がドワーフだということも今知った。
魔界でもドワーフと言えば名工の種族として通る。
「近辺でギズモより器用なドワーフはいないでしょう。その方なら、ユージン様が望むことを叶えてくれる能力があるかもしれませんね」
決めた。
ギズモというドワーフのいる場所へ行くことにする。
本来ならタノスヘブンへ直行するつもりだったのに。
「ところで、何かあったんですか? 昨日と違う気がするんですが、その……匂いが……」
彼女の言葉を聞いて、腕を上げて匂いを嗅いでみた。
くんくん。
変わったことはないはずだ。
朝にシャワーも浴びたし、汗の匂いもなかった。
「おかしいな。何もしてないのに、何が違うんですか?」
「その……いい匂いがするって言えばいいのかな。あ、いや、匂いがするというより。元々もいい匂いはしてたんですけど、もっと良くなった気がするんです。誤解しないでくださいね」
顔を赤らめて話すリリカ。
彼女の言葉を聞いて、今日ほかのエルフたちも同じような顔でチラッと見ていたことを思い出した。
中にはナザ、エルフでさえも。
なぜだ。
これは普通の問題ではない。まさか……?
まさか、世界樹の樹皮で新芽を強化したことで、エルフたちが俺に好意を持っているのか?
それ以外には思い当たらなかった。
「ぐああっ!」
くそ、伝説のアイテムを使って得た能力がたったそれだけだなんて……
あまりに惜しくて、俺は頭をかきむしった。
「どう、どうしたんですか?」
一瞬正気を失っていた俺は、リリカの助けで何とか我に返った。
良い方向に考えよう。
たった一日でエルフの好感を得る能力を手に入れたなんて?
このまま時間が経てば、地面から甘い味がするかもしれないじゃないか?
ふう、また一つ黒歴史が増えたな。
「大丈夫ですか?」
「おかげさまで大丈夫になりました。持病があってですね」
「そうですか……エルヴンハイムには優秀な医師が多いですが、紹介しましょうか?」
「はは、そういう種類ではなくて、平生背負って生きるものですから……それより、用事があると言っていましたよね。何のために私を探していたんですか?」
「どうやら私、ユージン様について行かないといけないようです」
「……?」
俺についてくるだって?
どういうことだ?
なぜ?
それとも俺が知らないエルフだけの隠語でもあるのか?
俺はまったく分からない顔で彼女を見つめ、
指で彼女と自分を指しながら言った。
「つまり、リリカさんが私について他の都市に行くということですか?」
「はい」
「え? いったい、なぜですか?」




