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境地が上がる際、人によって差はあるが、力が増幅される時期があるという。

その時間は短く強烈だが危険な時期でもあるため、普通は安全な場所を用意してから修練を行うのだが、アイリーンの話はそれを利用してみよう、というものだった。


以前、格が上昇した時、これまでになく魂が満ちていると感じた瞬間があった。


初めて覚醒した時と、ミノに命の危機をさらされて境地が上がった時だ。

あの時を思い出すと、悪くない考えのように思える。


アイリアンの言葉を聞いて決心がついたのか、

彼女は一段と真剣な表情を浮かべて言った。


「適応の過程がないという話が本当なら、試してみる価値はあるわ。私とユージンの系統能力には根本的な違いがあるもの。ここまで来た以上、後悔は残したくない」


そう言うや否や、わずかなためらいもなくドラゴンハートを取り出した。


うっ。


以前見たものより、倍は大きく見える。

人で言えば心臓も同然だ。

それをあんなにも簡単に取り出す姿に、驚かされた。


「多くない?」


アイリアンから見ても多いらしい。

俺の記憶が間違っていたわけではなさそうだ。


「やるなら、徹底的にやらなきゃ」

「それならいい。ユージン、食べなさい」

「ああ」


俺はノエルの手の上に載せられたドラゴンハートに触れた。

今しがた取り出したばかりで、ぬるりとしており、彼女の体温が残っている。

どうやってノエルを説得するか悩んでいたが、その心配は不要だった。

だが、食べろと言われて一応触れてみたところ、以前はそうしなかったことを思い出した。


「本当に食べるのか? 前は掴むだけでよかっただろ」

「あの時と今では状況が違うの。どうしても食べたくないなら、あなたの望む形にしてあげることもできるけど、その場合は力のロスが出る。摂取するのが一番いいわ。本当に嫌なら、あなたのやりたい方法でやってあげる」

「いや、いい」


気持ち悪さはさておき、そんなことを言われて後者を選ぶわけがない。

手にしたドラゴンハートを口へ運び、一口大きく噛みついた。

見た目に反して、プリンよりもあっさりと喉を通った。


残りもすべて食べてしまおう。

境地が上がった時の感覚を、再び味わうことができた。


はぁぁぁ──


法悦に、喜びに震える魂。

刹那が永遠のように感じられるその瞬間、ノエルの声が俺の意識を呼び覚ました。


「意識を失わないでください。私も手伝いますから、今回は一緒にやりましょう」


そうだ。

世界樹を元に戻し、ラピエルに手を入れると決めていたんだ。


とん。


意識を保つために目を閉じ、心を落ち着かせていると、隣から俺の手首を掴まれた。


俺は彼女に導かれるまま、身を委ねた。


「私が先に始めますから、合図を出したら浄化してください」


再び、春の日差しのような気配が俺を包み込んだ。


「はい」


ノエルが能力を使うと、

再び世界樹が安定していくのが見えた。

違う点があるとすれば、最初の時よりも、その速度が明らかに遅くなっていることだ。


これが、俺にとって最初で最後の試みだろう。


「今です」


ノエルの合図に、俺は浄化を使った。



……なんだ、これは?


何かがおかしい。

おかしいどころか、致命的に間違っている。


確かに俺はノエルと一緒にいたはずなのに、なぜか世界樹の心象ではない、別の空間へと移動してしまったようだ。


それもそのはず。


ゴゴゴゴ……。


目の前で山脈が動き、リアルタイムで地形が変わっていた。


いや、よく見ると山脈が動いているのではなく、巨大な蛇が、自分よりはるかに小さな魔族の軍勢を相手に戦っている最中だった。


訂正する。

戦いというのは、体格が釣り合ってこそ成り立つ。

あれは戦いではなく、蟻を踏み潰すような虐殺だ。

信じがたい光景に、今の自分の状況も忘れ、しばらく呆然と見入ってしまった。


あいつ、どこかで見た覚えがある。

最近見た蛇といえば、ヨルムンガンドくらいだが。

あいつも大きかったが、限度というものがある。これは次元が違う。


その時。


「ここへ、どうやって入ってきたのですか?」


背後から、幼い声が聞こえた。

気配もなく感じられた突然の声に、俺は距離を取り、振り返った。


「?」


壁以外、何もないではないか。

周囲を警戒しながら、俺は言った。


「今のは誰だ? 隠れてないで、出てこい」


言い終わるや否や。


ぽこん。


壁だと思っていた場所から、以前見た女性の上半身が飛び出してきた。


「うーん……」


見覚えのある顔。

そこでようやく、俺が壁だと思っていたものが世界樹だったと気づいた。

だが、魔気の影響か、外見が変わっている。

髪の色や肌の色などが。


顔を上げ、空を見た。

世界樹の広がった枝や葉が、陽光を遮っている。雲が空を覆っているわけではない。


ということは、山脈のように巨大なあの蛇は、本当にヨルムンガンドなのか。

背中に冷たい汗が流れた。


「ここはどこですか?」

「ここは、私の深層意識の奥。今あなたがいる心象世界よりも、さらに深い場所と言えるでしょう」


夢の中の夢、というやつか。

なんとなく、ここに長居してはいけない気がした。

どうやって出るのか尋ねようとしたその瞬間、世界樹の方から口を開いた。


「かつて私は、一つの世界の神として崇められていましたが、彼らの期待に応えられず、侵略者に敗れてしまいました。今見ているのも、過去に起きた出来事です」


ヨルムンガンドを見ただけでも、到底負けるとは思えないのに、どうして敗れたというのか。


「魔族の侵攻は苛烈でしたが、我々の世界も最盛期を迎えており、持ちこたえること自体は難しくありませんでした。十年、二十年……そうして戦線が膠着する中で、それが現れたのです」


ゴロロ……。

ドォンッ。


突然、遠くから黒い雨雲が押し寄せてきた。

夢のような場所だと言っていたが、世界樹の影響を受けているのだろうか。


「それは災厄でした。私と同じ位階だったはずですが、防ぐことはできなかった。今にして思えば、一つの世界と複数の世界が衝突したようなもの。最初から勝てる戦いではなかったのです。勝てないと悟った私は、せめて世界の一部だけでも守ろうと、これまで積み上げてきた位階を落としてまで作り上げたのがエルヴンハイムです」


世界樹の言葉を聞いていると、黒雲の中に何かがあるように感じられた。

遠くてはっきりとは見えないが、ヨルムンガンドも同じように感じたのか、魔族の軍勢を後にして、黒雲へ向かって高速で進んでいった。


「ノエルや、君と共に来たシルバードラゴンも、かつては我らの世界に属する住人でしたが、今の状況を見るに、そのシルバードラゴンは君を通して悲願を果たそうとしているようです。こうして君と直接会ってみると、可能性がないとは言えませんが、実に険しい道を選ぼうとしていますね」


クアアア──


ヨルムンガンドが咆哮を上げ、黒雲の中へとばねのように跳ね上がった。

まるで翼でも生えたかのように空を切り裂いて突進したかと思うと、

次の瞬間、「ピカッ」と閃き、隕石のように地上へ叩き落とされた。


ドガァン──


巨体が落下した衝撃で、地震でも起きたかのように大地が鳴動する。


ヨルムンガンドを打ち倒した存在が近づいてくるのか、黒雲も次第に迫ってきた。その時、世界樹が私を引き寄せた。


「たとえ虚像の存在とはいえ、ここで魔王を目にすれば、位階の差によって君の精神が損なわれます。見ない方がいいでしょう。今こうして会話できているのも、ノエルの尽力あってのこと。私が意識を失う前に、君はやるべきことを成し遂げなさい」

「ノエルにもできなかったことを、俺にできるでしょうか」

「自分に疑念を抱くなら、ここへ来るまでに乗り越えてきたことを思い出しなさい。ここにいる私は、より根源に近い存在です。外的にはノエルが、内的には君の系統能力が私の敵となるのなら、可能性はさらに高まるでしょう」


俺が怖がっていたのは、できないことそのものじゃない。

誰かの口から「お前ならできる」と言ってほしかっただけだ。


俺は世界樹の手を取り、浄化を使った。

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