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エルヴンハイムで見たものほどではないにせよ、ある程度の大きさはあるものだと思っていた。


だが、湖の中心にあるあの木が世界樹だというのか。

よく見ようと眉をひそめた。


外から見てきたものとまったく同じ姿、そして魔気に侵食された状態を見る限り、間違いなさそうだった。


俺が世界樹の姿をじっと見つめていると、

出発の合図が下された。


「行きましょう。」


今回も先頭に立ったのはリリカだった。

彼女は何のためらいもなく湖へと足を踏み入れる。


ちゃぷん。


どういう仕組みなのか、足は水に沈むこともなく、湖の上に浮かんでいた。


俺たちが立ち入った神域は、物質界と精神界の交差点に位置する世界樹の心象世界であり、許可を得て入った者は湖の上を平地のように歩けるのだと、足取りで示してみせる。


俺もリリカに倣って、湖へと一歩踏み出した。


ちゃぷん。


湖面の波紋が、水紋のように広がっていく。

水の上を裸足で歩くなんて、ここが現実ではないとはいえ、十分に印象的な光景だった。


中央にある世界樹へ近づくにつれ、蛍のように淡い光を放つ、色とりどりの物体が俺たちの周囲に集まってきた。


触ってみようかと手を伸ばしたが――


ひゅっ、ひゅっ。


あまりにも素早く、虚空を切るばかりだった。


リリカもノエルもいるというのに、触れることもできないそれらが、やけに俺の周りを飛び回っている。


追い払うように手を振ってみたが、そのたびに散っては戻ってくる。

まるで暖簾に腕押しだと思い、無駄だと悟ってやめ、彼らが周囲を飛び回ろうと気にせず、水の上を歩き続けた。


そんな俺の様子が面白かったのか、リリカは口元に淡い笑みを浮かべて言った。


「私やノエル様は定期的に来ていますから新鮮味はありませんけど、ユジン様はここが初めてですもの。皆、珍しかったみたいですね。」

「皆……?」


友達というならエルフのはずだが。

どう見てもそうは見えないのだが?


「はい。エルヴンハイムのエルフは、死ぬと望むだけここに留まり、現世への未練がなくなると、魂は行くべき場所へ旅立つのです。彼らにとって、ここはしばし身を休める安息の地のようなものですね。生きている時は知りませんでしたけど、こうして出会えたのなら……友達、ではないでしょうか。」


ぼんやりした姿から精霊かとも思ったが、エルフの魂だという。


「……そうですね。」


その話を聞いて、地下で見た光景が思い出された。

植物に覆われていて、最初は何なのか分からなかったが。


ここに来て彼女の説明を聞くまでは、世界樹はエルフをただの養分としているだけだと思っていた。

だからあまり良い印象はなかったのだが、こうして互いに満足している関係なら、それも悪くないのかもしれない。


世界樹を神木として崇めるエルフにとって、ここは天国同然だろう。

たとえ一時的なものであったとしても。


話しながら歩いているうちに、俺たちはすぐに島の近くまで来ていた。


「見た通り、状況は良くなさそうだな。」


確かに、ここまで近づくと、

遠目では分からなかったものが見えてくる。


世界樹のある島からは、石油のような液体が流れ出しており、すでに島の周囲の湖の一部は黒く染まり、魔気が溜まることで生じる、あの独特の焼け焦げた灰の匂いが漂っていた。


エルフの魂たちも、これ以上はついて来られないのか、いつの間にか姿を消していた。


「以前のようには回復できないかもしれん。覚悟はしておけ。」


分かってはいたが、口に出せなかった問題を、アイリアンはためらいなく突きつけてきた。


ちらりと見ると、ノエルは顔色一つ変えておらず、

リリカは不安を隠しきれないのか、下唇をぎゅっと噛みしめていた。


そうだ、大事な場面で動揺して何もできなくなるくらいなら、事前に予防注射を打っておく方がいい。


いつの間にか、俺たちは世界樹のある島へと足を踏み入れていた。

島といってもサッカー場がいくつか分ほどの広さしかなく、立っているだけで周囲の状況がすべて視界に入る。


植物が、刻一刻と枯れていく。

まるで今の状況を見せつけるかのように、俺たちの前にあった木が急速に干からび、青々としていた葉が生気を失っていった。


「うーん……」


リリカには悪いが、

俺も黙っているだけで、正直なところアイリアンと同じ考えだった。


もともとノエルの助けで、かろうじて均衡を保っていたというのに、

先日のアンデッドの集中攻撃を受けて、耐えられる体力が残っているとは思えない。


堤防も、補修工事はできても、一度大きな穴が開けば水圧のせいで塞げなくなるではないか。


今の世界樹は、まさにその状態だった。


俺一人がいて、どれほどの助けになるかは分からないが、

ここまで来た以上、できる限りのことはするつもりだ。


それでも駄目なら、それまでの話だ。


さくっ。


俺たちは先ほどよりも足早に動いた。

島が小さいため、世界樹の前まではすぐに着いたが、近くで見ると、決して小さくはなかった。


その時、地面がぐらりと揺れた。

まるでモグラでもいるかのように、地面がぼこぼこと盛り上がる。


隣の二人は、それが何なのか察しがついたようで、強張った表情を浮かべている。


聞こうかと思ったが、やめた。

どうせすぐに、俺にも分かることだからだ。


ぷはっ――!


次の瞬間、地中から細長い何かが飛び出し、土煙を巻き上げながら猛スピードで迫ってきた。


「あっ!」


思わず漏れた残念そうな声の中、リリカが宙から細身の剣を取り出し、俺たちの前に立ちはだかった。


ドン!

ぶわあっ――


突進してくるそれを、たった一本の剣で受け止める。

ぶつかり合った衝撃で風が巻き起こり、土埃が一気に吹き飛ばされた。


「!!」


姿を現したそれは、木よりも太い胴体を持ち、

先端がどこにあるのか分からないほど長い蛇だった。


一目でただ者ではない。

頭をもたげると、こちらが大きく見上げなければならないほどだ。


ツスス。


蛇は舌をちろちろと出しながらこちらを窺っている。

まるで獲物を狩る前に相手を見定めているかのようだった。


リリカが前方を警戒しながら言った。


「ここは私が抑えます。お二人は世界樹様をお願いします。」

「一緒に片づけてから行った方が早くないですか?」


相手がどんな存在であれ、こちらは三人。

それにノエルもいるのだ。俺としては当然の疑問だった。


だが、返ってきた言葉は予想外で、俺は戸惑った。


「リリカの言う通りにしてください。今の状況を見る限り、それが最善です。ああ見えても相手はヨルムンガンド。世界樹が使役する存在で、この空間では死にません。あれを相手にして力を消耗するより、私たちは力を温存すべきです。」

「!!」


その言葉を聞いてから、途方もなく巨大な蛇を見やった。

ただならぬ雰囲気はあったが、ヨルムンガンド?


北欧神話のあの蛇か?

たとえ別物でも、その名だけで強そうだ。

しかも世界樹の使い魔。

容易な相手ではないだろう。


俺はノエルのもとへ寄った。


「世界樹、見た目以上に深刻な状態みたいですね。急ぎましょう。」


こちらはリリカに任せ、

俺たちは世界樹のもとへ向かって動き出した。


異変を察したのか、車ほどもある頭が動き、こちらを追ってくる。


こちらに来るつもりらしいが――


「お前の相手は私だ!」


再びリリカがヨルムンガンドの前に立ちはだかった。


カン。


剣と蛇がぶつかったとは思えない音が響く。

彼女が強いことは分かっていたが、自分よりはるかに大きな体躯の魔物を押し返しているのを見て、改めて見直した。


やはり、聞くよりも実際に見る方が実感が湧く。


奴もこちらの意図に気づいたのか、先ほどよりも動きが激しくなった。

それでもリリカがしっかりと食い止めてくれていたおかげで、無理なく迂回することができた。


俺とノエルは世界樹の前に到着した。


「それで、どうするんですか?」

「祈りです。」

「祈り、ですか?」

「以前の方法が通じることを祈るしかありませんね。」


突拍子もない話だと思ったが、祈ると言われてみると、彼女といえど決定的な手段があるわけではないのだろう。


生きてきて祈ったことなど一度もなかったが……

茶々を入れている場合ではないので、黙ってうなずいた。


まずは様子を見ると言い、

唇をきゅっと結んだノエルが世界樹に手を置いた。


トン。


そして目を閉じ、集中する。

彼女の身体から緑色の光があふれ出した。


正確には、胸元から生まれた光が身体を伝い、肩から腕へ、そして世界樹に触れている手へと流れていく。


ふわぁ。


見ているだけで心が温かくなる光だった。

一日中眺めていても心地よさそうなほどに。

間違いなくノエルの系統能力に関係しているのだろう。


気のせいではなく、魔気に侵されていた表面も元の姿へと戻っていく。


「……くっ。」


見た目とは裏腹にきついのか、額には玉のような汗が浮かんでいる。

その様子を横で見守る俺にできるのは、心の中で頑張れと応援することだけだった。


お茶を一杯飲むほどの時間が過ぎる頃には、

半分以上汚染されていた世界樹が、今では所々に染みを残すだけの状態にまで回復していた。


誰の仕業か知らないが、攻撃ばかり派手で、

俺まで出張る必要はなかったらしい。


世界樹さえ元に戻れば、リリカと戦っているヨルムンガンドも正気に戻るだろうと、

すべて終わったかのように油断した、その時――


どさっ。


ノエルが突然、その場に崩れ落ちた。


「大丈夫ですか?」

「一気に心力を消耗しただけです。少しすれば回復します。それより……問題です。」


彼女の視線の先を見ると、

先ほどの努力が無駄だったと言わんばかりに、回復したはずの魔気の侵食が、制御不能なほどの速さで再び広がっていた。


彼女が必死に費やした力が無に帰していく光景に、俺は焦りながら口を開いた。


「俺がやってみましょうか?」

「事が起きる前なら、ユジンの系統能力でも助けになったかもしれませんが……今となっては難しいでしょう。エルヴンハイムの方々には申し訳ありませんが、これ以上遅れる前に撤退すべきです。」


ここで引き返すしかないのか。


リリカには酷な話だが、ここで死にたいわけでもない。

それもやむを得ない判断だ。


ノエルはエルヴンハイムが好きで、客分として力を貸していただけだ。

彼女にとっては、ここまでやっただけでも十分だろう。


だとすれば、俺はここに来た目的を果たさねばならない。

俺がエルヴンハイムに来た理由は、ノエルからドラゴンハートを受け取ることだ。


これまで見てきたノエルなら、脱出してから頼んでも渡してくれそうではある。

だが、ここまで来て何もせずに帰るのは嫌だ、という思いが湧いてきた。


そんな俺の気持ちを察したのか。

ここに来てからずっと静観していたアイリアンが、初めて口を開いた。


「ノエル、今すぐドラゴンハートを渡せ。ユジンが境地を越える際に溢れ出す力を使えば、何とかなるかもしれん。」


あまりのことに、アイリアンの言葉を聞いたノエルの眉が、山のように跳ね上がった。


「本当か?! 適応の過程もなく、境地を越えるというのか?」

「そうだ。私が選んだ子だ。でなければ、ここまで来ていない。」

「……信じよう。」


アイリアンの重みある言葉に、彼女の表情から疑念は消え、行動に迷いはなかった。


ごくり。


ノエルの口から、以前見たものよりもさらに大きなドラゴンハートが吐き出された。

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