表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/33

21

道を進んでいると、精霊を召喚してアンデッドを処理するエルフの姿が目に入った。


精霊を扱えるエルフの割合は、全体の十分の一(1/10)だったか?

多いと言えば多く、少ないと言えば少ない割合だが、緊急事態で皆が集まって戦っている以上、無視できない戦力に見えた。


おかげで、行く手を阻むアンデッドだけを処理しながら、立ち止まることなく進むことができた。


しかし。


「ク、クハッ。」


狼獣人型のアンデッドが、俺の足を止めた。

その周囲に積み重なるエルフの死体。


プシュッ。


奴が腹部を貫いていた腕を引き抜くと、

エルフは人形のように地面へと崩れ落ちた。


眉をひそめる。


嫌悪感や恐怖を覚えたわけではない。

非効率な行動だという考えが、胸をざわつかせただけだ。


理性がない分、より本能に忠実なのだろう。


奴も俺に気づいたのか、鋭い牙をむき出しにして近づいてきた。


「グルルル。」


血が腕を伝ってぽたぽたと滴り落ち、

全身が赤く染まっているのを見るに、

どれほど多くのエルフを殺したのか、想像もつかない。


どこかで見たことがあるような……。

湧き上がる既視感を無理やり押し殺し、俺も動いた。


ギュッ。


拳に集まる光の塊。

今にも消えそうなほど微弱だったが、

周囲が夜のように暗いため、松明を手にしたかのように明るく輝いた。


重い体で突進し、跳躍して頭突きを仕掛けてくる奴をかわし、脇腹へ拳を叩き込む。


ドン!

バキッ。


殴られて地面を転がった奴は、隅に積まれていたオーク樽を粉砕してようやく止まった。


死んだかどうかは分からないが、

確実に終わらせようと、俺は奴に近づいた。


チャプ、チャプ。


酒を入れていた樽だったのか、

近づくほどに鼻を突くアルコールの匂い。

もったいない酒を無駄にしたな、などと思いつつ。


「ん?」


倒れたまま起き上がれずにいるが、

黒い気配に包まれ、体が再生しているように見えた。


このまま放置すれば、復活して暴れ回るのは目に見えている。


それを防ぐために頭を叩き潰そうとした、その瞬間。

傷口の奥に、生物の体内にあるはずのない物が入っているのが、かすかに見えた。


黒い気配も、そこを中心に広がっているようだ。


核、みたいなものか?

どうやらあれが本体らしい。

持ち帰る気にもなれず、俺は足で踏み潰した。


バキッ。

シュウウッ。


「うっ。」


狙いを定めて砕くと、

禍々しいそれから濃い魔気が噴き出し、空中に散っていった。


俺は顔をしかめ、急いで顔を背けた。

これほど質の悪い魔気を感じたのは、廃棄物処理場で遭遇した時以来だ……いや、あまりにも一瞬で散ったから、はっきり確認できたわけではないが、それ以上かもしれない。


いずれにせよ、塵一つ残らず消え去った以上、復活などできまい。


再び急いで動こうとしたところで、アイリアンが声をかけてきた。


「成長した実感はどうだ?」


突然、何を言い出すんだ?


「何が?」

「今、お前が倒したアンデッドのことだ。以前、お前と戦った奴だろう?」

「ええっ!? い、いつ?」

「気づいていなかったのか。」

「似たような奴がいくらでもいるからな。それで、俺がいつそいつと戦ったって言うんだ?」

「うーん……火炎系の能力を使っていた奴と戦ったことがあったはずだが。」

「あっ!」


炎と聞いて思い出した。

確かに、そんな奴と戦った覚えがある。


「名前はマルコだったか? でも、前に戦った時よりあっさり終わった気がするな。アンデッドになって弱体化したのか?」

「いや。奴も呪具を用いた邪道ではあったが、お前と戦った頃より強くなっていた。単に、お前も強くなり、その差が縮まっただけだ。」


それで成長云々と聞いてきたわけか。


「どう感じたか、だったな。正直、何の実感もない。俺は自分より弱い奴のことは覚えないから。」

「虚勢を張るな。」


そう言われて、肩をすくめた。


時間を取られたが、いよいよ動こうとした瞬間、予想もしない光景に足が止まった。


「あれ……俺のせいじゃないよな?」


世界樹の一部が、黒く染まっていくのが見えた。


俺だけの幻覚ではないらしく、あちこちからエルフたちの嗚咽が聞こえてくる。


あれが幻であるはずもなく、本体に異変が起きているのだろう。


「そんなはずはない。かろうじて保っていた均衡が、限界に達しただけだ。まずはノエルと合流した方がいい。」


そうだよな。

俺に何ができるというんだ。


アイリアンの言葉に従い、ノエルと合流するため移動した。

それ以降、俺を困らせるほどの敵はいなかった。



ノエルと合流すると、なぜか建物はがらんとしていた。

ラピエルに返す借りがあって探してみたが、彼の姿も見当たらない。


「他のエルフたちは?」

「ここにいるリリカを除いて、皆アンデッドを防ぎに行きました。」


なるほど、ちゃんと自ら前線に出たわけか。

ここにいた戦力はエルヴンハイム最強の精鋭たちだ。危機に際して、自分の保身だけを考え、後ろ手に見物する地球の上層部とは違う。


「リリカさんは、ここに残っているんですね?」

「神域に入るために残りました。」

「……」

「神木の守護者なしでは神域には入れません。私も同胞を救いに行きたいですが、これもまたエルヴハイムのためなので、ここに残ったのです。」


つまり、あのオバサンとまた顔を合わせるってことか?

別れてから、まだそんなに経っていないのに、このまま情が湧きそうだ。


「どこに行っていたんですか? 部屋にいなくて、ずいぶん探しましたよ。体からお酒の匂いがしますね。」


ノエルが、つんと澄ました顔で俺を見つめる。

ああ、部屋に入った時から皆の雰囲気が悪かったのはそのせいか。

体の匂いで、俺が酒を飲みに外へ出ていたと思われたらしい。


「それが……」


俺は誤解を解くために、昨夜起きた出来事を話した。


「もう世界樹に会ってきたということですか。ふむ……」

「そ、そんなことが……」


同じ話を聞いたはずなのに、反応は三者三様だった。

ノエルは俺が世界樹に会ってきたという点に、リリカは俺が拉致されていたという部分に注目したのだ。


反応を見る限り、ラピエルが俺を攫うつもりだということは、リリカには伝えていなかったようだ。


しばらく険しい表情をしていたリリカは、

気持ちを落ち着かせると、硬い表情のまま俺を見て、深く頭を下げた。


「申し訳ありません、ユージン様。ラピエルがそのようなことを企てていたとは存じませんでした。お客様をお招きしておきながら、このような不愉快な思いをさせてしまい、百回お詫びしても足りませんが……お詫びのしるしとして、私にできることなら何でもいたします。」


ん? 何でも?

彼女に悪感情はないが、ここまで言われると、受け入れるのが礼儀のような気がした。


大それたことを望むつもりはない。

帰る時に、活動資金をたっぷり用意してもらえれば十分じゃないか?


リリカは由緒ある家の令嬢だし、その程度は負担にもならないだろう。

俺は懐が潤って嬉しいし、彼女は心の重荷を下ろせる。まさに一石二鳥だ。


俺は彼女のために、声を低くして言った。


「顔を上げてください。そこまで頭を下げる必要はありません。知っていてやったわけでもないでしょう? 責任は後でラピエルに取らせますから。」

「知らなかったからといって、見過ごしていい問題だとは思えません。」

「うーん、そこまで言うなら……」

「ユージンがいいと言っているのに、いつまでも続けるのは見苦しい。次から同じ過ちを繰り返さなければ、それでいいだろう。この件はここまでにしよう。」


さすがに見かねたのか、

これまで存在感を消していたアイリアンが、初めて口を開いた。


いや、そうじゃなくて……。

大人の度量を見せる、という俺の計画が崩れてしまった。


俺のために出てきてくれたのはありがたいが、

どうせなら普段からそうしてほしいものだ。


とはいえ、ここで否定するほど空気が読めないわけでもない。


「アイリアンの言う通りです。誰がそんなことになると分かるものですか。」

「そう言っていただけるのでしたら……寛大なお心に感謝いたします。」


よし、これで終わりだ。

何の罪もないリリカを利用したところで、後味が悪くなるだけだ。


空気を変えようと、俺は別の話題を切り出した。


「ところで、神域へはいつ向かうんですか?」

「ユージン様がいらっしゃったので、今すぐ出発できます。」


なんだ、俺を待っていたのか。


「それじゃ、遅くなる前にそろそろ行きましょうか。」

「はい。ご案内します。」


まだ手遅れではなさそうだ。

俺たちは神域へ向かうため、席を立って外へ出た。


「きゃっ!」

「?」


不意に聞こえた女性らしい悲鳴。

何事かと思えば、リリカが世界樹を見て驚き、声を上げたのだった。


悪いわけじゃないが、

この一行に、あんな声を出す人物がいるとは思わなかった。

これまでの印象から、もっと肝の据わったタイプだと思っていたので、意外だった。


世界樹を指さし、リリカがどもりながら言う。


「こ、これは何ですか!? 世界樹様が……!」

「どうやら今回の攻撃で、これまで保っていた均衡が崩れたようだな。ひとまず神域へ行ってみなければ、事態を収拾できるかどうか分からん。」


確かに、以前より黒く染まった部分が増えている。

これ以上進行すればどうなるか分からないが、良い兆しではないだろう。


俺たちは急ぐことにした。


神域へ至る道は、世界樹の影響が及ぶエルヴンハイムの中で、特定の時間帯にランダムな場所へ出現するらしい。


俺たちはリリカを先頭にして移動した。

場所が分かる彼女がいれば、道のり自体は難しくない。


問題は――。


「グアアッ!」


肌の色が鈍い褐色へと変わったエルフが、理性を失って襲いかかってきた。

一人や二人ではない。今この瞬間も、街のあちこちから現れ、数は増え続けている。


「殺さないでください。今は理性を失っていますが、世界樹様の民です。問題が解決すれば、元に戻りますから。」


言うのは簡単だが。


殺すだけなら簡単だ。

だが、皮膚が変色してから身体能力が向上したのか、

命に別状なく制圧するのは、かなり骨が折れる。


「堕落してダークエルフに変じた。許容量を超える魔気を受け入れたせいで理性を失っているが、時間が経てば正気に戻るはずだ。」

「それは、いつだ?」

「さあな……各々の器次第だろう。」


要するに、バッテリー切れを待てというわけか。


ドン。


拳で殴り、

蹴り飛ばし、

掴んでは投げる。


市街地を進むにつれ、押し寄せるダークエルフの数は増え、俺たちの対応も次第に荒くなっていった。


これ以上は無理だと感じ、俺はリリカに向かって叫んだ。


「このままじゃ、今日中に神域へ辿り着くことすらできない! 他に方法はないのか!?」


事実上、世界樹か同胞か、どちらかを切り捨てろと言っているに等しい残酷な言葉だったが、

皆で座して滅びるくらいなら、今こそ選択するしかなかった。


「わ、私は……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ