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思いがけない衝撃に、呆然としていると。

アイリアンが手を挙げて、芽生えを指さした。


「それより、これを見ろ。」


何を見ろっていうんだ?

大きくなった以外、変わったところはないが。


事情が分からず、もう一度視線を向けると。

芽生えが心象に入ってきた理由だと言って、話を続けた。


「魔界の生物は、知らず知らずのうちに魔気の影響を受けて生きている。つまり、体内に魔気を蓄積しているということだ。」

「まあ、そうだろうな?」


マナも全く無いわけではないが。

魔気の分布が高いのだから、当然の話だった。


「そうだ。お前のような非常に特異な例を除けば、避けられないことだ。私ですらそうだったのだから。」


確かに、心臓を拾った時のことを思い返すと。

黒い染みがあって、浄化を使った記憶がある。


「それはお前にとって良いことだ。アボミネーションに浄化を使った時のことを思い出せ。通常の攻撃より、はるかに大きなダメージが入っただろう。亡者だったからというのもあるが、魔族にも通じる良い手段だ。」


魔族に使ったことはないから分からないが。

彼女がそう言うなら、そうなのだろう。

だが。


「それと、浄化と芽生えに、どんな関係があるんだ?」

「覚醒の際、ごく一部の者だけが系統を発現する。最初にお前と契約した時は、私の系統を軸に発展させていくつもりだったが、浄化能力を見て考えが変わった。」


確かに、アイリアンの系統能力は悪くなかった。

いや、少し前までは、ミノに偶然使った能力を自分のものにするため、ずっと修練していた。


魔法が使えると知ってからは。

彼女に任せてもいいのではないか、という考えに傾いていたが。


「どういう理屈かは分からないが、お前の浄化は覚醒系統能力ではなかった。成長も止まっている。」


反論の余地なし。

前世の能力は引き継がれてきたが。

その能力は、昔も今も変わっていないのだから。


「ってことは、浄化は成長の余地があるってことか?」


耳寄りな話だった。


「そうだ。可能だ。心象に入ってきた理由でもある。覚醒後に系統を発現した者は、格の上昇とともに系統能力も向上していく。ちょうど、お前は発芽の段階でもあるし、時期としては最適だ。私が手を貸す。二つを合わせてみないか?」


浄化スキルが成長できるのなら、こちらとしては願ったり叶ったりだ。

そうしてアイリアンの言葉に従い、浄化スキルを移そうとした瞬間。

誰かに髪を掴まれ、魂を引き抜かれるような感覚がした。


その不快な感覚が、どれほど続いただろうか。

もう耐えられないと思った、その時。


ふぁあああ─


以前にも感じた。

境地が上がる時の、法悦の喜びを存分に味わった。


だが、前とは違った。

最初は、新しい世界で目を覚ました感覚だったとすれば。

今回は、自立するために最初の一歩を踏み出したような感じだろうか?


永遠のような瞬間が終わり。

再び目を開けると、そこは自分の部屋だった。


そんなふうに、成長の余韻に浸っていると、

ゴムゴムの声が俺を現実に引き戻した。


「何が何だか分かりませんけど、終わったならご飯でも食べに行きません?」


勘がいいのか、どうして終わったと分かるんだ。

それにしても、冷蔵庫を開けて家の食料を荒らしてたが、あれは食事にカウントしないのか?


「腹、減ってないのか?」

「……え? なんで腹が減るんですか?」


なぜそんなことを聞くのか分からない、という無垢な顔で聞き返され、

俺は理解するのを諦めた。


ちょうど、俺も何も食べていなかったし。

ゴムゴムと飯を食いに行くのも悪くなさそうだ。


「冷蔵庫から何かつまみ食いしてただろ。」

「ああ、あれは食前運動みたいなものですよ。何か食べたいものあります?」


よく食べるやつを、どこに連れて行けばいいのか思いつかなかった。

こういうのは、ゴムゴムみたいに食べるのが好きなやつに任せた方が、うまく選ぶ。


「俺は何でも食べられるから、お前が食べたいところでいい。」

「はいっ! ちょうどトンカツが食べたかったんで、そこに行きましょう。」

「トンカツ? 嫌いなやつを探す方が難しいな。」


そうして俺は、ゴムゴムに連れられて、

彼の行きつけだという店へ向かった。


「トンカツ二人前、お待たせしました。」

「いただきます。」


思ったより礼儀正しいゴムゴム。


もぐもぐ。


あまりにも美味そうに食べるものだから。

俺はしばらく、ぼんやりと彼の食べっぷりを眺めていた。


「兄貴、食べないんですか?」

「……あ、今から食べる。」


俺もトンカツを一切れ、口に運んだ。

噛むと、サクッという音とともに肉汁が広がる。

この店、なかなかやるな、と自然に思った。


俺が一切れ食べている間に。

ゴムゴムは、皿に積まれたトンカツの塊を一つ平らげていた。

そんなふうに食事をしながら、ゴムゴムは以前の出来事を持ち出した。


「ごくん。兄貴、俺たち息も合ってましたし、一緒に仕事してもいいんじゃないですか?」

「それなりに合ってたな。」


以前のように、何が起きるか分からないし、

今回はゴムゴムが死にかけたから街へ連れてきたが、

次は俺が同じ目に遭うかもしれなかった。


あの時、一人でいた傭兵は俺たち二人以外に誰もいなかった。

あそこにいた連中は、これまでの経験で分かっていたのではないだろうか。


目に見えない流れ矢で、死ぬこともあるということを。


「おっ! じゃあ一緒にやるんですか?」


俺の言葉に、目を輝かせるゴムゴム。

期待に満ちた様子で身を乗り出してきたが。

残念ながら、俺の返事は彼の期待に沿うものではなかった。


「いや。いい提案ではあるが、今は一人でやりたい。」

「うーん……それなら仕方ないですね。」


一緒に行動すれば仲間がいて心強いが。

今は成長に集中すべき段階だったし。

どうしても話せない事情もある。


「その代わり、同じ依頼で会うことがあったら、その時はまた一緒にやろう。」

「はい。それもいいですね。」



食事を終えた俺たちは、依頼を終了することを伝えるため、傭兵ギルドへ向かった。


期限なしの依頼ではあったが。

俺は一度で十分だと判断したし。

ゴムゴムは死にかけたうえに、アボミネーションと一度やり合って自分の未熟さを痛感したらしく、実力を向上させたいと言って、修練を名目に俺と行動を共にすることにした。


俺は受付嬢のところへ行き、この件を伝えた。


「……この時刻をもって終了です。」


短かったが、濃密だった初依頼は、これで幕を閉じた。

傭兵ギルドでの用事が終わると、ゴムゴムが俺を振り返って口を開いた。


「治療費は、分けて送りますね。」


俺が彼を治療するために、イサベルへ支払った薬代のことだ。


「ゆっくりでいい。」


本音を言えば一括で受け取るのが一番だが、金がないというなら仕方ない。

かといって、乾いた雑巾を絞るように無理を言うわけにもいかないし。

今日の食事代を見ただけでも、なぜ金が足りないのか察しはつく。


俺の言葉を聞いたゴムゴムは、頭を掻きながら言った。


「はは、どうお礼を言えばいいのやら。ユージン兄貴のおかげで生き延びたようなものですし、記念に俺が夕飯を奢りますけど、行きませんか?」


びくっ。


来る前にあれだけ食べたのに、まだ?


「……気持ちだけ受け取っておく。俺は用事があるんだ。次にしよう。」

「はい。そうしましょう。ではまた今度。俺はこれで失礼します。」


去っていく彼に、手を振って見送った。

別れ際に一緒に行くこともできたが、アイリアンから聞いた話が気にかかり、ギルドに報告した方が良さそうだったので、彼を先に帰した。


俺は再び受付嬢のもとへ向かった。


「副ギルド長に、お話があるのですが。」

「どのようなご用件で、ザルカッシュ様にお会いになりたいのでしょうか?」

「以前受けた依頼で、特異な点がありまして、報告したいのです。」

「改善案や依頼に関するお問い合わせは、別途受付をしておりますので、そちらの窓口をご利用ください。」


新人傭兵だからか、取り次いではもらえなかった。

入ったばかりの若造が、良い案件があるからと社長に会いたいと言ってきたら、俺でも断るだろう。


普通なら、一度断られた時点で引き下がるところだが。

なぜか胸騒ぎがして、もう一度だけ聞いて、それでもダメなら帰ろうと決めた。


「直接お伝えした方がいい内容だと思いまして。」

「うーん……」


彼女は俺をじっと見つめると。

それなら話だけはしてみる、と言って、少し待つよう告げ、どこかへ電話をかけた。


「……はい。直接お会いしたいそうです。名前はユージン、シルバーランクの傭兵です。あっ、はい……分かりました。」


ガチャ。


電話を切った受付嬢の口元に、俺は注目した。


「一度会ってみるそうなので、3階へ上がってください。今行って大丈夫ですよ。」

「ありがとうございます。」


礼を言い、副ギルド長に会うため階段を上った。

傭兵たちが集まる2階を通り過ぎ、建物の最上階である3階へ到着。

固く閉ざされた扉の前に立ち、静かにノックする。


コン、コン。


「ユージンです。入ってもよろしいでしょうか。」

「入れ。」


ギィィ。


扉を開けて中へ入り、椅子に座っているリザードマンのザルカッシュに挨拶した。


「はじめまして。」

「よく来た。立ったままでいないで、ソファに座ったらどうだ。」


どさっ。


彼の勧めに従って硬めのソファに腰を下ろすと、ザルカッシュも俺の前に来て向かい合って座った。


「それで、私に会いたいと言ったそうだな。理由を聞かせてもらおうか。」


そう言いながら、彼はテーブルの上のトレーにあったピーナッツを掴み、口の中へ放り込んだ。


ガリッ。


ソファに背を預け、鋭い牙で殻ごと噛み砕くその姿は、

もし取るに足らない用件で騒ぎを起こしたのなら、今食べているピーナッツのように穏便には済まさない、という無言の警告にも見えた。

正確には、種族が違うせいで、どんな表情をしているのか分からなかっただけだが。


その様子を見ていると、早く話せと言わんばかりに顎で促されたので、口を開いた。


「南門で発行されているアンデッド討伐の依頼を受けたのですが、そこでアボミネーションに遭遇しました。」

「ふむ、それが単価か? 君は知らないだろうが、それくらいなら遠出すれば珍しくもない。最近は蘇った死体が頻繁に出没しているから、その一部が流れてきたのだろう。」

「普通の個体でしたら、副ギルド長にお会いしたいなどと連絡はしません。その個体は、呪物の影響で作られたものです。」

「!!」


ようやく興味を持ったのか、ソファにもたれていた体を起こし、俺の見間違いではないかと問い返してきた。


「違います。一緒にいた腕の良い傭兵たちが死亡し、しかも変種へと変化していました。間違いありません。」

「まあ、傭兵が死ぬのは珍しいことではない。だが、君が行った南門だけでなく、他の場所でも今回は死傷者が多く出ているのが気になる……呪物となると、誰かが意図的にやったということだが、その確信はあるのか?」

「知人に確認したところ、確実だそうです。」

「その知人とは?」


確信はあるが、それがアイリアンだとは言えない。

どう答えるべきか迷った末、別の魔族の名を出すことにした。


「魔女工房のイサベルさんをご存じでしょうか……」

「ああ! 彼女なら信用できる。」


名前を聞いた途端、大きく頷くザルカッシュ。

イサベルを知っていると分かり、疑念は氷が解けるように消えた。


彼はしばらく頬を掻きながら考え込むと、今回の件は自分で調べると言い、呪物について教えてくれたことへの礼を述べた。


「他の連中なら、金だけ受け取って帰っただろうに。相手は君には手強かったはずだが、どうやって生き延びた?」


どうして死ななかったのか、という意味だろうか。

俺は正直に答えた。

ゴムゴムと共闘し、浄化を使って倒したと。

すると、驚いた表情で聞き返してきた。


「系統能力者だったのか? そういえば、初めて会った時よりも境地が上がっているな。根を張ったか。有望な若者を見つけた以上、見過ごすわけにはいかない。さて……今週の成果と変種討伐、それに境地を考慮すれば、私の裁量でゴールドランクへ昇格させてやれそうだ。」

「ありがとうございます?」


思いがけず、傭兵ランクが上がってしまった。

ゴールドランクって、特典も多かったはずだし、俺としては悪くない話だ。

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