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瞬間的に起きた出来事に、誰一人として口を開けないまま、ひとところに集まったアボミネーションが、まるで心臓のように鼓動を打ち始めた。


その様子は、まるで繭のように見えた。


「こんなクソ! 隊長!」


インソルターの仲間たちが彼を救うために飛び出し、同時多発的に繭を攻撃する。

その行動は効果があるように見えたが、落ちた肉片がうごめきながら繭へと吸い寄せられ、元に戻っていった。


俺とは比べものにならないほど優れた肉体回復。


その時、繭からウニのような鋭い棘が飛び出し、周囲にいた魔族たちへと飛来した。


ドン、ドン。


太い棘を受けて倒れる魔族たち。

生きているのか死んでいるのかは分からないが、少なくとも重傷なのは間違いない。


「ひっ! に、兄貴、兄貴あれ見ましたか?」

「どうやら退いた方がよさそうだな。不吉だ」

「ごくり……俺もあれが何なのか分かりませんけど、関わらない方が良さそうです」


心臓のように脈打つ肉塊を避け、急いでその場を離れようと動いた、その瞬間。

目の前に銀色の物体が現れた。


「どこへ行くつもりだ」


カル・アイリアン。

俺と契約したシルバードラゴン。


「久しぶりだな」

「に、兄貴、あれは何です? 使い魔ですか?」


ゴムゴムの言葉に、アイリアンは不快そうな顔で言った。


「私を使い魔ごときと比べるとは、いい度胸だな」

「……あ、悪かった」

「いい。それより、あそこにいるアボミネーションが問題だ」


アイリアンは状況を理解しているのか、翼を持ち上げて繭を指した。


「だから急いでここを離れようとしてたんだ」

「不可能だ。先ほど吸収した個体を基に、あれが目覚めれば枝を伸ばした状態になる。逃げてもすぐに捕まる」


俺は今、発芽の段階。

根の次が枝だと言っていたな。

ということは、俺より四位階も上。

一段階くらいなら何とかなる気はするが、これはさすがに――。


「じゃあ、どうしろってんだ?」

「ここであれを殺す」


殺せ、だと?

俺より二段階も上なのに?

正直、気が進む選択肢ではない。


だが、逃げられないというのも嘘には聞こえず。

どうにかして、ここであの忌まわしいものを処理しろということだった。


ゴムゴムがこちらを見て、本当にやるのかと目で問いかけてくる。


「じっとして死ぬわけにはいかないだろ。やるしかない。嫌ならお前だけ行け」

「いえ。兄貴がここにいるのに、俺だけ行けるわけないじゃないですか。死ぬなら一緒です」

「誰が死ぬって? 死にたいなら一人で死ね」

「ええっ、ひどいですよ」


俺は愚痴るゴムゴムを後ろに置いて、アイリアンを見た。


「それで、あいつを倒す方法は?」

「お前には特殊な能力があるだろう。それを使え」


浄化スキルのことか?

どうしてそれを知ってる?

いや、今はそんなことはどうでもいい。


「浄化を使えば、あいつを殺せるのか?」

「否」


きっぱりとした否定。

じゃあどうやって殺せって言うんだ、と喉まで出かかったところで、アイリアンが続けた。


「浄化と言うのだな。私が眠りについていても、すでに形を成していた以上、お前に起きていること程度は分かる。浄化を使えばアボミネーションは弱体化する。その隙を突け」


アイリアンの説明はこうだ。


あれは通常のアボミネーションではなく、誰かが呪いの込められた呪物を使って人工的に作ったものらしい。

もともと死の気配が濃いアンデッド系モンスターに、さらに呪いが重ねられているため、浄化には弱いという。

ぐずぐずしていれば目覚めるから、早く動けと急かされた。


「よし、最悪死ぬだけだ。行くぞ、ゴムゴム」

「はい!」


俺は繭へと近づきながら、マナを活性化させた。

着込んでいる鎧と合わせて、少しでも身体能力を引き上げるためだ。


いつ棘が飛んでくるか分からない。

接近しながらも、緊張を解くことはなかった。


あと数歩。

ここまで近づくと、繭の状態がはっきりと見えた。


肉塊だから柔らかいと思っていたが、

どこか硬い殻を見ているようだった。


俺は浄化を使うため、銃を肩に掛け、慎重に両手を繭の上に置いた。


「ごくり」


冷たい金属のような感触が伝わってくる。

まだ反応はないが、いつ敵と判断されて攻撃されるか分からない。

俺は深呼吸をして、スキル《浄化》を発動した。


すると、俺の手が繭の中へと沈み込んでいった!


「もっと深く入れろ」


アイリアンの言葉に従い、押し込むように手を突き立てた。

音は聞こえなかったが、手を伝って、あいつが悲鳴を上げているような感覚が伝わってくる。


攻撃を受けたことで、繭から棘が飛び出した!


ひやり。


先ほどの威力を思い出し、

このまま引き抜くべきかと一瞬迷ったが――。

浄化の影響を受けた棘は、スライムのように溶けて消えた。


それを見て、今が好機だと判断し、

残った力を振り絞って浄化を叩き込んだ。


「うおおおおっ!!」


バキバキッ。


目覚めようとしているのか、繭がひび割れ始める。


力を使い切った俺は、慌てて繭から距離を取った。

浄化にこれほどの力を使ったのは初めてで、

ここまで消耗するとは思っていなかった。


完全に脱力している。


俺は隣にいるゴムゴムを見て言った。


「ゴムゴム、悪いけど俺きつい。ちょっとの間、一人で耐えてくれないか?」

「任せてください!」


胸をドンと叩いて言う。

あの打たれ強さなら、俺が息を整えるまで持ちこたえてくれるだろう。


バキッ。


繭の中からアボミネーションが姿を現した。

半分は引率者の顔、もう半分は形を判別できないほど溶けた顔。


「クゥゥゥゥゥ─!」


生まれながらに不完全であることを知っているのか、哀れな泣き声が広がった。


それを見たアイリアンが、安堵したような口調で言った。


「効果はあったみたいだな。不完全な状態で生まれた」


あれが?

見た目だけなら、今まで見たどのドラゴンよりも強そうだが……。


引率者と融合し、もはや何と呼べばいいのかわからないそれが、繭から出てこちらを見つめた。


いや、正確には、繭に手を突っ込み浄化を使った俺を睨みつけている。


「ゴムゴム、頑張れ!」

「はい!」


奴が近づいてくる。


ドスン、ドスン。


事前に話していた通り、俺が回復する時間を稼ぐため、ゴムゴムが前に出た。


俺はしばらく彼の背中を見つめた後、少しでも早く体を回復させるため共用修練法を行いながら状況を注視した。


そして、二体の巨躯が激突する。


ドン。


体格はほぼ同じで、見た目だけなら互角に見えたが、意外にも戦況は俺たちが有利だった。


ゴムゴムが鋭い爪を繰り出して引っかくと、相手の肉片が削ぎ落とされ、よろめく。


俺が出るまでもないか?

気を良くした俺は腕を振り上げ、声を上げた。


「押し切れ!そのまま行けば勝てるぞ!」


だが、アイリアンは今の状況が気に入らないのか、不機嫌そうな声で言った。


「その状態だと、ゴムゴムという奴はすぐに倒れる。応援はやめて、回復に集中しろ」

「どういうことだ?」

「相手は生まれたばかりの赤ん坊同然だ。だから今は押されているだけだが、基礎能力に差がある上、戦闘データを吸収する速度が速い。今も動きが良くなっているのが分かる。よく見ていろ」


アイリアンの言葉に、俺は二体の戦いを注意深く観察した。


何を見ろっていうんだ。

どう見てもゴムゴムが優勢に見えるが……。


「!!」


いや、最初は差がないように見えたが、

よく見ると時間が経つにつれて、相手が受けるダメージが減っている。


アイリアンの言う通りだ。

ゴムゴムは防御力が高く、時折食らう攻撃を耐えているが、このままでは危ないのは俺たちの方だ。


俺は体を回復させるため、さらに力を入れた。


どれほど時間が経っただろうか。

驚いたことに、茶を一杯飲む暇もないほどの短時間で、ゴムゴムは倒れてしまった。


「グァッ!」


ドン。


倒れたゴムゴムの体のあちこちには、錐のような棘が突き刺さっていた。

その姿を見た俺は下唇を噛みしめ、立ち上がった。


まだ体は半分も回復していない。

だが、あの様子を見る限り、俺が回復するまで待ってくれるほど都合のいい展開はなさそうだ。


俺は震える気持ちを抑え、奴に近づいた。


奴も俺が近づくのを見て距離を詰めてきたかと思うと、

引率者が使っていたのと似た長さの槍が、手から飛び出した。


ちっ、反則だろ。


シュッ。


俺は奴の繰り出した攻撃をかわした。

すると回収された槍が再び飛んできて、

それを掴んだ俺は力比べの末、奪い取った。


俺は槍を突きつけ、言った。


「武器はお前だけのものじゃないんだぞ」

「キヒヒヒ」


俺の言葉を理解しているのかは分からないが、不快な笑いを漏らし、

奴が俺の持つ槍を指差した瞬間、それが溶けてしまった。


「!!」

「キヒヒヒ」


ひょい。


再び槍を取り出す奴。

俺はそれを見て、構えを正した。


「攻撃するときは、浄化を纏え」


浄化?

確かに、奴には浄化がよく効いていた。

それで互角に渡り合えていた部分もある。

アイリアンの助言を受け、俺は拳に浄化を纏わせた。


ビクリ。


すると、浄化を纏った拳を見て、奴は警戒する様子を見せた。

一度痛い目を見たせいか、体が覚えているらしい。


「来ないなら、こっちから行くぞ」


身体能力は互角。

しかも互いに戦闘経験が少ないのなら、注意さえすれば接近は難しくないはずだ。


俺は拳を強く握り、奴との距離を詰めた。

だが、近づくのを許さないと言わんばかりに、相手も同じだけ距離を取る。


とにかく近づかないと、殴ることもできない。

俺は自分の回復力と耐久力を信じることにした。


猛獣が獲物を狩るような心持ちで、適切な瞬間を待つ。


チャンスが来た。

俺は奴の槍を掴み、自分の方へ引き寄せた。


ガッ。


予想していたかのように、槍を手放す奴。

これまで狙っていた機会が無駄になるかと思った、その瞬間。


バキッ。


奴の足元に滑らかな氷の床が生まれ、それを踏んでバランスを崩した。


すべては一瞬の出来事だった。


「今攻撃しないでどうする!」


何が起きたのか分からなかったが、

アイリアンの声で我に返った俺は、奴に接近し、


「人を舐めやがって。殴られても同じことが言えるか、試してやる!」


浄化を纏った拳を突き出し、

全力で奴の顔面を殴りつけた。


ドガァン─!


顔を殴られた奴は地面を転がり、もうもうと土煙を上げた。

俺は視界の悪い中、奴が飛び出してくるのを警戒しつつ、先ほどのことを尋ねた。


「どういうことだ?」


氷の床が生まれた時、心臓にあったマナが消費されたのを感じた。

俺がやった覚えはない。となると、心当たりは一人しかいない。


「何だ?助けるべきじゃなかったか?」

「いや、そうじゃなくて。魔法も使えたのかと思って」

「体がなくても使えないわけじゃない。お前の力を使えばいいだけの話だ」


話を聞く限り、

使い魔と大差ない存在のようだ。


俺の考えていることを口にすれば、きっと怒るだろう。

時には、黙って流した方がいいこともある。


少し話しているうちに、

いつの間にか土煙が晴れ、地面に倒れ伏すアボミネーションが見えた。


近づいて確認すると、

俺に殴られた頭部の半分が吹き飛んでいた。


「今回は再生できないみたいだな」


再び立ち上がるかもしれないと、しばらく様子を見ていたが、

先ほどのように体が再生する兆しは見られなかった。


終わったのだと実感した俺は、周囲を見渡した。


無数のアンデッドと傭兵の死体に囲まれたゴムゴム。


「あ……」


俺はゴムゴムが生きているか確かめるため、彼に近づいた。


彼の周囲には、一人の人間が流したとは思えないほどの血が、地面を濡らしていた。


すべて、彼の体から流れ出た血だ。


「このままじゃ、失血多量で死ぬ……」

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