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タノス・ヘブンで長く暮らしてきたが、都市の外へ出るのは今回が初めてだった。


これまで一番遠くまで行ったのはゴミ処理場の清掃の時だったが、それも外縁部までで、外に出たわけではない。


揺れる車に身を任せていると。

遠くに、魔法で作られたという城壁が見えてきた。

高さはせいぜい10メートルほどだが、横にどれほど続いているのか、果てが見えない。


重機で作るとしたら、都市の全人員を城壁建設に投入しても足りなかっただろうに、こうして見ると改めて魔法というものの凄さを感じる。


しばらくして南門に到着。

各自荷物を持って、乗ってきた車から降りた。

俺たちを引率してきた魔族が、衛兵のところへ行って報告をする。


「ご苦労さまです」

「何、いつものことだ。今日は少し人数が減ったな。これが単価か?」

「はい」


こちらを振り返って俺たちを見る衛兵。

ざっと一瞥すると、日が沈む前には戻れという言葉とともに門を開けた。


「これより外に出る。バラけて行動しようが固まって行動しようが構わんが、日没までに必ず南門前に戻れ。行くぞ!」

「今日もアンデッドの首を取りに行きますか」

「どっちが多く狩れるか賭けない?」

「いいね!」


どっと押し出されるように外へ出ていく人々。


以前来たことのある者たちは慣れた様子で先に去っていき、俺のように初めて来た者たちだけがその場に残った。

すると、隣にいた獣人が声をかけてきた。


「兄貴、行かないんですか?」

「俺がなんでお前の兄貴なんだ?」

「俺より強けりゃ兄貴です」


先日、傭兵ギルドで会った熊の獣人だった。


「お前、どうやってここに来た? コッパー等級の傭兵じゃ無理だろ」


俺と同じ時間に傭兵登録をしたのなら、覚醒していない一般人はコッパー等級の傭兵札を渡される。

ここに来られないのが普通、という意味だ。


分身の術でもない限り、物理的に依頼を100件こなす時間はなかった。


「ふふ、その時に見たリザードマンが、どれだけ自分の腕に自信があってあんな騒ぎを起こしたのか、実力を見てやろうって俺を連れていったんです。勝ちはしなかったけど、鍛えてきたレスリングの腕を見せたら、俺の真価を認めてくれてアイアン等級をくれたんですよ。あいつ、強いのは強かったですけどね」


だろうな、俺も身動き取れなかったし。

傭兵の中で副ギルド長になるには、それなりの腕前が必要なんだろう。


「兄貴もここに来てるってことは、アイアンですか?」

「いや、シルバーだ」

「おお! やっぱりただ者じゃないと思ってました! 俺はゴムゴムです」

「俺はユジンだ」


前にもこんなことがあった気がするが……。

どこだったか、眉間にしわを寄せて思い出しかけた記憶を辿っていると、ゴムゴムがいつ行くんだと急かしてきた。


「いや、なんで? 先に行けばいいだろ」

「せっかくの縁ですし、一緒に行こうと思って」

「俺と?」

「はい」


変なやつだ。


「好きにしろ」

「はいっ!」


俺が門を出ると。

ゴムゴムも横に並んでついてきた。

このまま後ろから不意打ちされたりしないだろうな?


嫌な想像をしたせいか。


ヒュオオ──


城門を出て、まだ数歩しか進んでいないのに、他国の空港に降り立った時のような、どこかよそよそしい空気を感じた。


「くん、くん。死の気配が濃いですね」

「そんなのも嗅ぎ分けられるのか?」


物珍しくて聞くと。

ゴムゴムは指で鼻を指しながら言った。


「前に嗅いだのと比べて、ってことです。アンデッドがこの辺りにかなり集まってるみたいですね」


獣人は元の種族の性質をある程度受け継ぐとは聞いていたが、こんなことまで分かるとは。


あれ?

ということは、モンスター探しが楽になるんじゃないか?


「じゃあ、そろそろ動くか。ゴムゴム、どっちに行けばアンデッドがいそうだ?」


ゴムゴムは空に向かって何度か鼻をひくつかせると、すぐにモンスターのいる方向を見つけた。


「くん、くん。あっちが一番近いです。そっちに行きましょう」


性能のいい感知機が手に入ったものだ。

ゴムゴムの指した方向へ移動し、十分も経たないうちにアンデッドを発見した。


だが、先客がいたため、進みかけた足を止めた。

そんな俺を不思議そうに見るゴムゴム。


「ほら、アンデッドいますけど、行かないんですか?」

「他のやつらが先に来てるだろ」


それがどうした、という表情。

わざわざモンスターを横取りする気にもなれず、俺は別の場所へ行こうと言った。


「モンスターなんていくらでもいるのに、わざわざ揉める必要ないだろ?」

「俺たちより弱そうなのに、なんで揉めるんです?」

「……ただ、俺が嫌なだけだ」

「じゃあ、別の所に行きましょう」


俺も一生ここで暮らしてきたが。

時々、こういう原住民の生々しい感覚についていけないことがある。


それでも文句も言わずついてくる様子を見ると。

ジャルカッシュの言った通り、悪いやつではなさそうだ。


「他の魔族と遭遇しないようにできないか?」

「うーん……それは難しいですね。亡者の匂いが強すぎて、他の匂いが全部かき消されちゃうんですよ」


それなら仕方ない。

モンスターレーダーがあるだけでも十分だ。


俺たちは再び動き出して間もなく、別のアンデッドの群れを見つけた。


「ユジン兄貴、俺が先に出てもいいですか?」


俺はうなずいた。


パン、パン。


ゴムゴムは拳を打ち鳴らし、前へと飛び出した。

数は多いが、他のパーティの狩りを見る限り、一人で対処できないほどではない。


重たい体で走り出すと、地面がドスドスと揺れる。


走りながらアンデッドに体当たりすると。


ドン。


宙に浮くように吹き飛ばされるアンデッド。

だが名前負けしないというべきか、まるで効いていないかのようにすぐ起き上がり、ゴムゴムに襲いかかった。


「うははっ!」


周囲をアンデッドに囲まれているというのに楽しそうに笑いながら腕を振るうが、数が多すぎて、離れた場所にいる俺の方にも何体かが近づいてきた。


ガチャッ。


進んで出るつもりはなかったが。

じっとしていても向こうから近づいてくるのはどうしようもない。


ちょうどゴムゴムがあんな様子だったのを見て。

ショットガンを使ってみたくて、体がうずうずしていたところだった。


ショットガンを肩に担いだ俺は。

引き金に指を添え。

先頭にいた奴へ向けて引き金を引いた。


ドン─!


凄まじい轟音とともに飛び散る散弾。

照準を合わせなくても、穴だらけになるアンデッド。

戦っていたゴムゴムも、突然の音にこちらを振り返った。


一度使っただけだが。

俺は銃器が廃れていった理由を理解した。


大きすぎる音と、そこそこの威力。

もちろん気軽に使えない高価さも理由の一つだろうが、威力さえあれば使わない理由などないはずだ。


大きな音は自分の位置を知らせる。

銃の威力は……人間相手ならともかく、魔族やモンスターに通じるかは疑わしい。


ドン ドン!


それでも撃ったときの爽快感があって、楽しい。

祭りで風船や人形を撃つゲームが、しかも動いているだって?


それは我慢できない。


ドン ドン!


引き金を引くたびに鼻を突く煙が立ち上るが、その匂いも悪くない。


弾をすべて使い切った俺は。

後退しながら再装填し、また撃った。


それを何度か繰り返すと。

アンデッドはもう動かなくなっていた。


「兄貴、それって銃ですか?」


俺より先に戦いを終えたゴムゴムが近づいてきた。

物珍しそうに銃を眺めている。


「おう。」

「鉄の棒から雷みたいな音がする割には、攻撃力が弱いですね?俺にも一発撃ってみてください。」

「……本気か?」

「珍しい武器ですし、今を逃したらいつ体験できるんですか。」

「怪我したらどうする。」

「舐めれば治ります。」


知り合いの獣人に銃を向けるのは気が引けたが、特に何も言わずゴムゴムに銃口を向けた。


本人が平気だと言うし、俺自身もゴムゴムみたいな獣人にどれほど通じるのか気になっていた。


「いくぞ?」

「来い!」


ドン─!

ドドドッ。


ショットガンを受けたゴムゴムがびくりと身を震わせる。

顔を覆っていた腕を下ろし、当たった部分を撫でながら言った。


「ちくっとします。」

「怪我は?」

「ありません。」


大きなダメージは無理でも、傷くらいはつくと思っていたが、予想以上に役に立たなかった。


覚醒していなくても。

魔気を使えないわけではない。

銃は骨と腐った肉だけになったアンデッドにしか通じない、ということだ。


それでも楽しかったから、損ではない。

銃の威力を確認した俺たちは、次の獲物を探しに向かった。


ゴムゴムが確認し、向かって狩る。その繰り返し。

それを何度か続けるうちに、俺たちを案内してきた魔族と出くわした。


「兄貴、あそこに見たことない奴がいますよ?」

「だな。ちょっと気味が悪い。」


案内役の一団と戦っているアンデッドの数も相当だったが。

丸い形で、1トントラックほどの大きさの正体不明の肉塊があった。


それだけなら、珍しい奴もいるものだと流せただろうが。

そいつの体には、他のアンデッドの体や顔が絡み合っており、嫌悪感を覚えた。


しかも、その中の一つがこちらを見ている気がして不快だった。

案内役の一団は苦戦しているのか、押され気味だった。


「助けに行こう。」

「なんでです?助けてくれなんて言ってませんけど。」

「奴らが死んだら、俺たち家まで歩いて帰る羽目になるかもしれない。」

「あ……それは困りますね!」


俺とゴムゴムは、アンデッドと戦っている集団に合流した。


「手伝いに来ました。」


その言葉に、戦っていた魔族がちらりとこちらを見て頷いた。


「外側の奴らから片付けよう。」

「はい!」


俺はゴムゴムを前面に立たせ、後ろからショットガンをぶっ放し、着実に数を減らしていった。


ドン。


後ろから撃っているだけなので楽だった。

武器屋で鈍器を買っていたら、俺もあの混戦に巻き込まれていただろう……。


たった二人加わっただけなのに、俺たちが手助けすると。

アンデッドの数は一気に減った。

周囲を見回す余裕も生まれた。


案内役が、巨大なアンデッドと互角の戦いを繰り広げている。

俺は、彼の仲間らしき魔族に近づいた。


「奴は何ですか?」

「アボミネーションだ。滅多に出ないが、あいつはその中でも特にデカいな。」

「手伝わなくていいんですか?」

「何のために?むしろ嫌がるだろ。前にも何度か相手にしてるから大丈夫だ。所詮アンデッドだしな。」


その言葉を聞いて、俺も腕を組み、戦いぶりを眺めた。


体格差が無意味に思えるほど、互角の攻防を続けている。


互いの距離が開いた瞬間。

案内役が正拳突きの構えを取り、手に黒い気配がうねるように集まった。


彼の手から感じる、強烈な気配。

アボミネーションも危険を察したのか。

車輪のように体を転がし、土煙を巻き上げながら突進してきた。


互いが激突しようとした、その瞬間!

男が右手を突き出す。


パン!!


風船が弾けるような音とともに、四方へ飛び散る肉片。


「手伝わなくていいって言っただろ?」


だが、その言葉も虚しく。


シュワワワッ─


飛び散った肉片が、生きているかのように突然案内役に覆いかぶさり、飲み込んだ。

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