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会社に出勤して作業道具を取り出し、人数分の荷物を積み込んでトラックに乗り込んだ。


俺の仕事はゴミ処理場の清掃。

汚くてきついという以前に、魔界では清掃員の印象がよくなく、他の連中はやりたがらない仕事だが、前世で持っていたスキル《浄化》が使えるおかげで、少し我慢すれば俺にとってはそれほど難しい作業ではなかった。


道が悪いせいでトラックの荷台に乗っていると、地面の凹凸を全身で感じることになる。


ガタン。


不満を抱いていたのは俺だけじゃなかったらしく、誰かが運転席に向かって大声で怒鳴った。


「ちゃんと運転しろよ!ケツが痛ぇんだよ」


返ってきたのは、窓から突き出された中指だった。


「プッ」

「クスクス」


周囲の嘲笑に、男は歯ぎしりしながら怒りを飲み込んだ。


揺れるトラックの上でしばらく尻を酷使されているうちに、胃の中がむかむかしてきた。


数日前から始まっていた魔界編入百周年祭が昨日で終わったのだが、祭りの期間中は酒が安くて飲みすぎたせいで、胃の調子が最悪だった。


浄化を使えば酔う前にアルコールを飛ばすこともできたが、酔うために飲んでいるのに、それじゃあ酒がもったいないだろう。


ガタン。


「着いたぞ。降りろ!」

「へいへい」


どっと。


手際よく荷台の荷物を降ろし、一緒に動くチームを分けた。


俺たちのチームは、俺とハンス、それからジョッシュ。


ハンスとは半年近く同じチームで作業している仲で、ジョッシュはさっきトラックで恥をかいた男だ。誰にも引き取られず、経験があるという理由で俺が面倒を見ることになった。


一緒に入ることになったジョッシュが、妙に馴れ馴れしく話しかけてくる。


「へへっ、よろしくお願いしますよ、兄貴たち」

「なんで兄貴なんだよ。年はお前のほうが上だろ」

「年齢だけがすべてじゃないっすよ。お二人の名声はかねがね聞いてます。二人一緒なら事務所でも並ぶ者がいないって」

「水に落ちても口だけは浮いてきそうだな」


ハンスの言葉に、ジョッシュは手を振って言った。


「俺もそういう連中は大嫌いっす」


そんなやり取りを横目に見ながら、俺はゴミ処理場の入口を守っているインプのもとへ向かった。


「今日も来たのか。休まずに来るとは、ずいぶん真面目だな」


俺の背の半分にも満たないインプ。

下級魔族だが、見た目に反して魔法使い。

俺のような人間がどうこうできる相手じゃない。


インプは笑いながら言った。


「クスクス。お前がいつ死ぬか賭けをしてるんだが、もし死にたくなったら俺に教えろよ。あの世への渡し賃くらいは用意してやる」

「死ぬつもりはないから、そんな賭けはしないほうがいい」

「さあな。弱い人間が死に場所を選べると思ってるのか?行け」


中に入っていいという合図を受け、俺たちは防毒マスクをつけて中へ進んだ。


「初めて来た連中は、死にたくなけりゃベテランの言うことをよく聞け。生きてまた会おうぜ」


人々が散っていくのを見届けてから、俺は蟻の巣のように伸びる通路を先頭に立って歩き出した。


ゴミ処理場というのは文字どおり、街で不要になった汚物が集まる場所だ。


こうした場所があちこちにあり、定期的に清掃しないと変異スライムが発生する。


ぐちゃっ。


俺は持ってきた電撃棒でスライムコアを砕いた。

粘つく液体がずるりとまとわりつく。

棒を振って振り払う。


周囲を警戒しながら、汚染されたスライムを処理していった。


ここはゴミ処理場。

たまに金になりそうな物が捨てられていることがあり、運が良ければ一日分の酒代くらいは稼げるのだが――

思いもよらないものに出くわした。


「これって、あれじゃないか?噂でしか聞いたことなかったけど、本物とは……」

「兄貴たち、こいつ死んでるみたいっすよ?」


俺たちの目の前で通路いっぱいに横たわっていたのは、街の主が宴で使ったとされるドラゴンの死骸だった。


ここへ来る途中、以前よりスライムが少ないと思っていたが、死骸にびっしり張り付いていて見えなかっただけらしい。


スライムが群がる光景はおぞましかったが、その鱗から放たれる奇妙な魅力に見とれていると、ハンスが沈黙を破った。


「ぼさっとしてないで片づけるぞ。一儲けできる!」


金になるものを前に、ハンスは目の色を変えて死骸に付いたスライムを倒し始めた。


「ジョッシュ、来て手伝え」

「はい!」


俺もその流れに加わった。


全部でいくらになるんだ?

どうせやる仕事だ、金になるなら悪くない。

電撃棒を構え、死骸に張り付いたスライムを突いた。


ぐちゃっ。

シューッ。


すると、今までとは違う濃い魔気が顔を覆った。


「っ……」


思わず眉をひそめ、慌てて手を上げて浄化筒を押さえる。


不浄なエネルギーを遮断する防毒マスクを着けているのに、鼻と目がひりついた。


俺は作業を止め、後ろへ下がった。


「やめろ」


鼓膜に直接響くような声。


ぴたり。


二人は動きを止め、怪訝そうに俺を振り返った。


「俺たちで手に負える相手じゃない。戻って人を呼ぶか、上に報告し――」

「ダメだ!!」


言い終わる前に、ハンスが怒鳴った。


「人を呼んだら全部持っていかれるだろ!分けたら何も残らねぇ。俺たちだけでやるんだ」

「三人じゃ危険すぎる」

「ユージン、頼む!一回だけでいい!お前だってこんな生活嫌だろ?今回だけ目をつぶれば、人並みに暮らせるようになるんだ……!」


防毒マスク越しに、ぎらついた目で睨むハンス。


その様子に、背筋を冷たい汗が伝った。


「ジョッシュ、お前もそう思うよな?」

「え?あ、はい!他の連中にくれてやるのはもったいないっすよ。どうせ金があっても博打か酒に消えるような奴らですし、俺たちだけでやったほうがいいっす」


ジョッシュまで同調する状況で、ここで引こうとすれば危険だと本能的に悟った。


「……わかった。お前の言う通りにしよう。ただし、危険だと感じたらすぐ引き返す」

「信じてたぜ!俺だって命は大事だ、心配すんな。ジョッシュ、さっさと稼ぐぞ」

「へへっ、了解っす兄貴!」


再び作業を始める二人。

俺も持ち場に戻って作業を再開した。

ただし、さっきより距離を取って。


ぐちゃっ。

シューッ。


どれくらい作業を続けただろうか。

腫瘍のようにこびりついていたスライムをほぼ取り除いた頃、胸元に装着していた浄化筒の交換シートが真っ黒に染まっているのに気づいた。


俺は急いで背負っていたバッグから、予備の浄化筒を取り出して交換する。


カチッ。

ガリリッ。


「ふぅ……はぁ……」


浄化筒を交換しながら、必死にこらえていた息を吐き出し、荒く呼吸した。

空気が少しはマシになった気がする。


少し休もうかと思ったそのとき、露わになった胸骨の隙間から、きらりと光る物体が目に入った。

後で確認することもできたはずなのに、運命のような引き寄せを感じた。

気づいたときには、それを手に取っていた。


宝石のように見えるが、黒い斑点が付いていたため、浄化を使うと本来の色へと戻った。


小さいし、隠して持ち出せば分け前に出さずに済むだろう。


宝石をポケットにしまい、二人が何をしているのか確かめようと、彼らのいる方へ移動した。


胴体を回り込んで近づくにつれ、貝を剥ぐような音が大きくなっていく。


案の定、スライムをすべて処理し終えたのか、ハンスが短剣でドラゴンの鱗を剥ぎ取っていた。


ジョッシュはどこだろうと周囲を見回すと、壁の片隅で腕を垂らし、背中を預けているではないか。


「ジョッシュはどうした?」

「あいつ、浄化筒を一個しか持ってきてなかっただろ?」

「!!」


ハンスは倒れたジョッシュを忌々しげに一瞥しながら、少しでも多く鱗を剥がそうと手を動かし続けた。


近づいて様子を確認すると、まだ息はあるが、揺すっても意識を取り戻さない。

状態を見る限り、今すぐ出なければ危険だった。


今この瞬間でも、もう遅いかもしれない。

治療も受けられずに死なせるわけにはいかず、俺は慌てて撤退の準備を始めた。


俺を見ていたハンスが言った。


「何してる?時間通りに出るなら、一本でも多く持っていくだろ」

「ジョッシュを連れて出たほうがいい。このままじゃ死ぬ」

「…今じゃなきゃダメか?」

「今だ。今やってる分は、また戻って回収すればいい」

「外にいるインプがいるだろ。出たら二度と入れないかもしれない」


防毒マスク越しに漏れる、刃のように冷たい声。


「俺たちは同じ種類の人間だと思ってたが、俺の勘違いだったか?」


短剣を握る彼の動きが荒くなった。


長い付き合いで、それなりに親しくなったと思っていたが、その殺気立った姿に、口の中がからからに乾いた。


ぴたり。


鱗を剥いでいたハンスが手を止めた。


「もっと持っていきたいが、まあこの辺が限界だろう」


そう言って体をひねり、手にしていた短剣を投げた。


ヒュッ──

ズブッ。


「ぐぁっ……」


ハンスの手を離れた短剣が、ジョッシュの胸元に突き刺さった。

ジョッシュが血を吐き出す中、ハンスは冷え切った声で近づいてくる。


「ユージン、冷静に考えろ。連れ出したところで治療費もなかっただろ。仲間である俺たちが、楽にしてやるべきだ」


死体から短剣を引き抜きながら、彼は続けた。


「予備の浄化筒を持ってこなかったあいつの落ち度だ。死んだ人間のことは気にするな。俺たちはこれからのことだけ考えたほうがいいだろ?さて……今から出ても、ギリギリだな」


何事もなかったかのように袋を空け、ドラゴンの鱗を拾って詰め込む。


放っておけばよかったのに、余計なことを考えるなという、俺への警告なのだろう。

状況を思い、思わずため息が漏れた。


今さら蒸し返しても空気が悪くなるだけだ。

俺もハンスにならい、袋を手に取って鱗を詰めた。


「…大丈夫か?」

「何がだ?」

「ジョッシュのことだ」

「今日初めて会ったやつが一人死んだくらいで、俺が泣き喚くとでも?助けられないなら、金を取るしかないだろ」

「やっと、俺の知ってるユージンに戻ったな。歓迎する」


タノス・ヘブンは、死が蔓延る場所だ。

俺もここで生まれ育った住民。

ここで彼と対立すれば危険だということくらい、分かっている。


鱗を無理やり袋に詰め込んだ俺たちは、それぞれ背負い、来た道を戻り始めた。


無言で歩いているうちに、入口へと辿り着いた。

だが、待っている者は一人もいなかった。


「他の連中は先に出たみたいだな」

「そうだな……ジョッシュの件は大丈夫だよな?」


俺が余計なことを言うのを警戒しているのか、念を押すように聞いてきた。


「何かあったのか?」


ニィ。


俺は扉の前に歩み寄り、インプを呼んだ。


ドン、ドン。


「来たぞ。開けてくれ」

「なんだ?遅かったな。キキッ、他のやつらは先に帰したけど」

「俺の担当は変異スライムが多かった」

「よく働いたなら、少し休まなきゃな」


……なんだ?

生前にはしなかった気遣いだ。


「そのつもりだ」

「一緒に行ったやつらは?」

「ここに一人いる」

「そうか。キキキ……」


陰鬱な笑い声が、内側にまで響いてくる。


「外から開けてもらわなきゃ開かないって……分かってるよな?俺、気をつけろって忠告しなかったか?」

「……さすがインプだな。冗談も洒落にならない」

「キキッ……次に来るとき、お前は生きているかな?」


その言葉を聞いて、ただの冗談じゃないと悟った。

仕事前からやたら絡んできた理由も、今なら分かる。


俺は扉を壊す勢いで叩いた。


ドン! ドン!


「てめぇ!俺が帰らなかったら所長が黙ってると思うか!」

「知ったことか。人間が一人死んだだけだろ。…もう一人いるよな?お前が誰でもいい。ユージンを殺せば、外に出してやる」


外から聞こえるインプの言葉に、俺は荷物を放り投げ、すぐさま扉から距離を取った。


ハンスの顔は、これまでで一番冷え切っていた。


「あいつの言葉を信じるつもりじゃないよな?」

「お前の言う通り、信用できる相手じゃない」


ハンスが袋を下ろした。


短剣を弄びながら近づいてくる姿に、俺は少しずつ後ずさった。

だが、離れた分だけ距離を詰めてくる。


「そのうち開けてくれるかもしれない。少し待ってみるってのはどうだ?」

「俺もそうしたいが…これを見ろ」


服をめくって見せたシートは、真っ黒だった。

予備の浄化筒に替えたはずなのにこの状態。

とっくに限界が来ていたのだろう。


「馬鹿なジョッシュのせいで一人で作業して、もう限界だ。…一人は生き残るべきじゃないか?」


その言葉を合図にしたかのように、ハンスが踏み込んできた。


俺は唯一の武器である電撃棒を構え、前に突き出した。

戦闘経験は少ないが、リーチを考えれば勝機はある。


バチバチッ。


棒の先から走る火花を見て、気持ちを奮い立たせた。


「これまでの情に免じて、苦しまないように送ってやる」


間合いを測り、ここだと思った瞬間、接近してきたハンスへ武器を振るった。

だが、ハンスはそれをかわし、懐に潜り込んできた。


ドン。


「ぐっ……」


短剣を握るハンスの腕を掴んだが、体当たりの衝撃で、手にしていた武器を落としてしまった。


倒れた俺の上に、ハンスが跨がり、体重をかけて押さえつけ、脚で俺の上半身をがっちりと固定した。


すべてが、瞬きする間の出来事だった。

体をよじっても、抜け出せない。


「おい!それは違うだろ!お前一人で出たって、あれを持ち出せると思ってるのか!」

「…じゃあな」


腕から力が抜けるにつれ、短剣との距離が徐々に縮まっていく。

このままでは、何もできずにやられる。


そのとき、頭の中に声が響いた。


「――私はカル・アイリアン。力が欲しいか」


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