表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/24

第24話(最終話) その先へ



朝。


塔の中に、いつもの音が戻っていた。


魔力の循環音。

階段を伝う風。

遠くで鳴く鳥の声。


すべてが、「元通り」だった。


だが――

同じではない。


トールは、中庭に立っていた。


十四歳の魔法使いの弟子。それは変わらない。


けれど、一度、塔を預かった者の立ち姿だった。



「……今日から、また修行だ」


トールは、自分に言い聞かせるように呟いた。


ウエルは、少し離れた位置でその背中を見ている。


「急ぐ必要は、ありませんよ」


「……分かってます」


トールは、

振り返らずに答えた。


「でも、止まる気も、ありません」


ウエルは、一瞬だけ目を細めた。


「……それで、いい」



クロは、庭石の上で前脚を組んでいた。


「やれやれだにゃ」


「……何がだ」


「なぜ子供は、子供でいられる時間を短くするにゃ」


トールは、少しだけ苦笑した。


「……クロから見て、オレはどうだ」


「まだ、子供だにゃ」


即答だった。


「だが」


一拍。


「自分が子供だと分かっている分、悪くない」


トールは、その言葉を静かに受け取った。



蔵書階層。


整理された机。閉じられた魔導書。

異世界転移の本は、元の棚に戻されている。


「……終わったこと、なんだな」


トールは、本の背を指でなぞった。


忘れるためではない。しまうためだ。



昼。


ウエルは、久しぶりに自分で茶を淹れていた。


「……留守の間、あなたは多くを学びました」


「はい」


「知識だけではありません」


ウエルは、カップを差し出す。


「判断。責任そして、別れ」


トールは、カップを受け取った。


「……全部、必要でした」


ウエルは、ゆっくりと頷いた。


「ええ」


「……魔法使いにとって、特に」



午後。


庭で、簡単な訓練をする。


木の魔法。成長と癒し。


芽は、まっすぐに伸びた。


無駄がない。


「……上達しましたね」


ウエルの言葉に、トールは首を振る。


「……前より、分かるようになっただけです」


「それを、上達と言うのです」



夕方。


塔の影が、長く伸びる。

トールは、バルコニーへ上がった。


魔導ソーラーパネルは、停止している。


もう、何も引き寄せない。


「……ちゃんと、帰れたかな」


答えは、返ってこない。


それでも、不安はなかった。



クロが、隣に座る。


「後悔は?」


「……ない」


即答だった。


「寂しさは?」


「……ある」


「それでいいにゃ」


クロは、満足そうに言った。


「それを抱えられるなら、もう大丈夫だ」



夜。


灯りの下で、トールは帳面を開いた。


――留守番記録

 ・全行程終了

 ・塔、異常なし

 ・管理、完了


最後の一行を、少し迷ってから書き足す。


――得たもの

 ・覚悟

 ・選択

 ・別れを受け止める力


ペンを置く。


「……終わったな」


「終わったにゃ」


クロは、欠伸をした。


「だが、人生は続く」



塔の外では、世界が動いている。


村も。

北部も。

別の世界も。


そして――

トールの時間も。


まだ未熟だ。


だが。


一人で立つことは、もう知っている。


ウエルは、静かにその背中を見送った。


安心と、ほんの少しの寂しさを胸に抱いて。


クロは思う。


(……まだまだ、

 子供だにゃ)


だが同時に。


(……それで、

 いいにゃ)


夜は、穏やかに更けていく。


塔は、今日も静かにそこに立っている。


――その先へ進む者を、

見守りながら。


〈完〉


サヨコの帰還後をいつか書きたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ