表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/24

第22話 静かな朝


朝。


塔の中に、光が差し込んでいた。昨日と同じ。けれど、確実に違う。

トールは、自分が立っている場所をしばらく見つめていた。


バルコニー。

術式があった場所。


そこにはもう、サヨコを示すものは何も残っていない。

ただ、冷えた石床に魔法陣だけがあった。


「……終わったな」


独り言は、風に溶けた。



「成功したにゃ」


クロが、背後から言う。


「術式は、完全に閉じているにゃ」


「……再発は?」


「少なくとも、同じ条件では起きないにゃ」


トールは、小さく息を吐いた。


「……そうか、だが、念のため魔導ソーラパネルは停止しておこう。また、別の魂を引き寄せてしまうかもしれない。」





炊事場。


朝の支度をする。


鍋に水を張り、火を入れる。


ついつい昔の動作。


「……保存パンと干し肉」


そう呟いてから、

一瞬、手が止まる。


(……いや)


トールは、

サヨコが教えてくれた食事を用意した。




食卓に座る。


いつもの場所にサヨコはいない。


「……」


クロが、

サヨコがいた場所を見た。


「寂しいかにゃ?」


「……いや」


トールは、

短く答えた。


「寂しいかも」


クロは、

何も言わなかった。



食事を終え、

帳面を開く。


――送還術式

 ・成功

 ・霊的残滓なし

 ・魔導ソーラーパネル停止


淡々と記録する。


手は、震えていない。

だが、胸の奥に空白がある。

それを、否定しなかった。



昼。


結界の点検。


魔力は、驚くほど安定していた。


「……負荷が、減ってる」


「当然だにゃ」


クロが言う。


「狙われる理由が、なくなったにゃ」


「……理由、か」


トールは、空を見上げた。


そこに、赤い光はない。


魔導ソーラパネルを停止させたので、結界核にはトールが直接に魔力を補充した。



午後。


蔵書階層。


昨日まで必死に探していた本が、今はただの散らかっているだけになった。


「……必死な時は、気にしてられなかった。片づけるとなると嫌になる。」


クロが、棚の上で尻尾を揺らす。


「それが、生きているということにゃ」


「……生きてる、か」



夕方。


村へ出る。

買い出しは、必要最低限。


「……食材、変わったな」


以前なら、保存重視だった。


今は、栄養と鮮度。


「……教わった、ってことだな」


口に出してから、少しだけ笑った。



夜。


塔に戻ると、静けさが迎える。

怖さは、ない。

寂しさは、ある。


トールは、椅子に腰を下ろした。


「……クロ」


「何だにゃ」


「オレ、ちゃんと送れたか?」


クロは、すぐには答えなかった。


やがて、

静かに言う。


「選ばせて、支えた。それ以上は、ないにゃ」


トールは、目を閉じた。


「……ああ」



夜空に、星が戻っていた。


一つの役目は、終わった。


だが、トールの日常は続く。


守るべき塔。

巡る魔力。

そして――

次に進むための、確かな一歩。


静かな朝は、終わりではなかった。


始まりだった。


十四歳の管理者が、寂しさをかみしめた十三日目だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ