表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/24

第10話 料理という会話

夜。


炊事場に立つトールの背中を、サヨコは少し離れた位置から見ていた。

鍋に水を張り、乾燥野菜を入れる。魔道カセットコンロの火は安定している。手際も悪くない。


だが――

出来上がるものは、

いつも同じだった。


「……ね、トール」


「何だ?」


鍋を見つめたまま、短く返す。


「それ、悪くはないけど」


「……けど?」


サヨコは、言葉を選ぶように一拍置いた。


「体、もたないと思う」


トールの手が、

一瞬止まる。


「……具体的には?」


「炭水化物と、

 タンパク質はある」


サヨコは、

指折り数えるように言った。


「でも、量が少ないし、種類も偏ってる」


クロが、床から口を挟む。


「ボクも、そう思っていたにゃ」


「……いつから?」


「三日前からだにゃ」


「言えよ」


「言ったにゃ」


クロは平然としている。



トールは、鍋の火を弱めた。


「……お前、料理できないだろ」


「うん。魂だから」


サヨコは、あっさり認めた。サヨコは何も触ることができないのだ。


「でも、教えることはできる」


「……理由は?」


トールは、少し警戒した。


サヨコは、少しだけ視線を伏せてから言った。


「わたし、栄養士を目指してた」


その言葉は、静かだった。


「高校三年で、受験生で」


「……エイヨウシ」


聞き慣れない職だ。


「食べることで、体を作る仕事」


サヨコは、簡単に説明する。


「病気の人とか、成長期の子とか」


トールは、自分のことを思い浮かべた。


十四歳。

成長途中。

魔力を使う日々。


「……オレに、当てはまるな」


「うん」


サヨコは、即答した。



クロが、低く唸る。


「理にかなっているにゃ」


「……クロ?」


「魔力効率が、ここ数日でわずかに落ちている」


「……気づいてたのか」


「管理しているからにゃ」


トールは、鍋を見下ろした。


「……教えてくれ」


その言葉は、思ったより早く出た。


サヨコは、少し驚いたように目を瞬かせる。


「……いいの?」


「管理の一環だ」


トールは、そう言い切った。


「体調を整えるのも、塔を守ることの一部だろ」


サヨコは、ふっと笑った。


「……真面目だね」


「ウエル師匠の弟子だからな」



サヨコは、鍋の中を覗き込みながら言う。


「まず、野菜を増やそう」


「乾燥じゃ、だめか?」


「だめじゃないけど、足りない」


「……買い出しか」


「うん。近くに野菜を売る店とかないかな」


クロが、即座に言う。


「村に商店があるにゃ。トールの許可されている行動範囲の内側だにゃ」


「……判断が早いな」


「管理者が迷っている時点で、補佐が動くにゃ」


サヨコは、少し楽しそうだった。



その日の夕食は、結局いつも通りだった。


だが、違いが一つだけある。


「……明日から、変わる」


トールが、そう言った。


「急には無理だけど、少しずつ」


「それでいい」


サヨコは、優しく答える。


「食事は、積み重ねだから」


夕食後。


帳面に、新しい項目が追加された。


――生活改善

 ・食事内容の見直し

 ・外部調達、要検討


トールは、その文字を見つめる。


魔導ソーラーパネル。

結界。

蔵書。


そして――

食事。


守るべきものが、また一つ増えた。


だがそれは、重荷ではなかった。


初めて生きるための話を、師匠とクロ以外と共有した夜だった。


十四歳の管理者が、体調管理の必要性に気づいた六日目だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ