望月は星を枯らして咲き誇る
掲載日:2025/10/15
「起きて」
「さあ、逃げるよ」
走っている。
何から逃げているのかもわからないで、
君の手に引かれるまま、森をひた進む。
枝が頬をかすめる。
木々の隙間から覗く夜は小さく、
向かう方角だけが、ほのかに明るい。
声も、息も、足音さえも潜め、
暗い木々の間を、光を縫うように進み続けて。
やがて、水の匂いが。
水面のわずかな光が眩しい。
君が立ち止まったのに合わせて、
やっと休めると思いながら顎を上げると、星がないことに気づけないほど見事な、
曇りのない まんまるな月が一つだけ ぽっかりと浮かんでいる。
余りの輝きに目を奪われていると、
君の声と吐息が鼓膜をくすぐる。
「見て、月が咲く。」
差し伸ばされた指の先で、
月はゆっくりと綻びはじめる。
空からは花弁のような光がこぼれ、
波のない湖面へと降り積もる。
「今夜に合わせて、星を枯らしてみせたんだ」
言葉よりも確かに、
痛いほど強く握られた手のぬくもりが伝わる。
「開き切ったら、下の月に飛び込む」
森の音が消える。
二つの影が光の縁に立つ。
月が水面から誘う。
星明りが届いた森では、虫や鳥たちが鳴きだした。
絵には描けない夢見た光景




